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Episode6 #後輩の先輩

 見事面接(?)を突破したわたしは、流れるように開かれた歓迎会に参加していた。

 

 二人ともこっちにいていいのかなって面接の時からちょっと思ってたけど、いつの間にか今日はCLOSEDにしてたらしい。

 個人店のフリーダム加減に乾杯。


 舞台を控え室から店側に移して、噂の苺タルトとコーヒー、軽食でミックスサンドまで並んでいるテーブルを三人で囲む。


 「そういえば、雨が好きかはどういう質問だったんですか?」


 ケチャップで味付けされた甘めのたまごサンドを頂きつつ、さっきの質問について聞いてみた。


 トロッコ問題はともかく、雨はどういう意図だったのかちょっと気になるよね。


 「ああ、前にバイトをお願いしていた子が、ちょっと天気に敏感な子でね」


 空を見て雨を予測できる、地元の漁師スペシャルみたいな?


 「風が強いと来るのが遅れて、雨の日にはお休みされる方だったんですよ」


 先輩が教えてくれたけど、全然違った。

 それは敏感肌過ぎるでしょ。


 そうそう、彼女はなんとうちの学校の一年生だった。

 部活とかやってないから違う学年全然知らなかったけど。

 今の三年生とは、文化祭の時にちょっとだけ繋がりがあるんだけどね。


 わたしは本人の希望でタメ口なのに先輩は敬語がクセらしくて、さらにどっちも相手を先輩って呼ぶからよくわからないことになってる。


「そして台風が来たときに辞めてしまってね、それで新しく募集したんだよ」


 なるほど。

 これはレインコート君がいい仕事したみたいだね。


 そして話題は仕事内容に移る。

 面接のインパクトで忘れてたけど、そう言えば何するかとか全然聞いてないや。


「基本は接客全般だね。注文を聞いて、運んで、お会計して片付ける。もし興味があれば調理の方もやってみるといい」

 

 思ってたとおり、いわゆるホールスタッフってやつだね。

 料理結構好きだし、キッチンもいいかも。


「それと、これも興味があったらでいいんだが……店の紹介動画を作ろうとかと思っててね」


「先輩と二人でJK看板店員役ですね!」


「いや、それだとなんか違う種類のカフェみたいになるから。動画の企画を考えたり、撮影や編集も、興味があればやってくれてもいい」


 看板娘採用かと思ったけど、違ったか。

 というか喫茶店ってこんないろんな仕事あるんだ。


「先輩は全部やってるの?」


 ポテサラサンドを両手で持ってリスみたいにちまちま齧ってる先輩は、何やってるんだろう。


「私はホール以外はポスター作ったり、最近はコーヒーの淹れ方を教わってます。あと、クラッカー役です!」


 そう言って、クラッカーを鳴らす仕草をする先輩。

 結構気に入ってるらしい。


「そういえば、先輩も面接でトロッコ問題やったの?」


「やりました! 私の時は、冬だったのでピザまんとカレーまんでした」


 いろんなバージョンがあるらしい。


「なんて答えたの?」


「ふつうの肉まん原理主義だからどちらでもよかったんですけど、一応両方助けることにしました。先輩が答えていた通り、片方を救うためにもう片方を積極的に犠牲にするのは間違ってると思います。となると、助けたいなら両方とも助けるしかありません。なので、切り替えスイッチを半分だけ操作することにしました。多分トロッコは脱輪すると思います。その後はボウリングのスプリットをとるような挙動にはならないと思いますから、少なくとも被害が増えることはないかと。目押しに自信があれば、前輪だけが分岐を通過した瞬間にスイッチを切り替えても脱輪すると思いますけどね」


 なんか思想強そうなことと、すごい賢そうなこと言い出した。


 あとスイッチ切り替えとかボウリングのところとか身振り手振りが多くて、わかりやすい。


 さてはこの先輩、賢いな?

 切れ味がちょっとだけ、姉に似てるかも。


「天気の人はまだいなかったので、あとは最近知って意外だったことって質問がありましたね」


 質問というかもう単なるトークテーマな気がする。


「意外だったことか、なにかあるかなー」


「私も特に思いつかなかったんですけど、そしたら店長が代わりに『こわいなーこわいなーの人って元々は一級建築士で、デザインの賞取ったりもしてたらしい』って話し始めて」


 それ、絶対店長が話したかっただけのやつだ。


 でも確かに意外だ。

 賞を取ったりして成功してるなかで、どういう流れで今に至ったんだろうね。


「あーだからカイダン作るのが上手なんですね。って返事したら合格のハンドベルが鳴りました」


 うまい! ヤマダくん、クラッカーひとつ持ってきて!


 

           ◇◆◇



 二人と親睦を深めたあと、お土産にラングドシャまで貰って歓迎会はお開きになった。

 お菓子作りあるあるで、余りがちな卵白だけを使うからよく作るんだって。


 喫茶店のドアを開けると、雲間からちょうど夕日が覗いている。


 雨はもう、あがっていた。


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