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Episode3 #ポンポンポロロンポロロロン

 朝、というにはまだ暗い。

 ふと目を覚ましたわたしは、思いのほか寒いことに気づいてブランケットを手繰り寄せた。


 寝具を夏仕様にするのは早すぎたかな?

 と思いつつ、一句できました。


 あさぼらけ そぞろ寒さに 麻ブランケット

 引き寄せ三度 夢のまにまに


 というわけで、おやすみまたね。



           ◇◆◇



 窓ガラス越しの明るい日差しに、今度こそ朝かと目を覚ます。


「あ、起きた? もうお昼よ。今日は洗濯したいからシーツ貰っていい?」


 母がカーテンを開けながらそう言った。

 ちょうど起こしに来たところだったらしい。


 眠過ぎて 母来にけらし 白妙の 

 シーツ干すてふ 


「洗濯日和」


「そそ、洗濯日和だから、起きたならシーツ外して外して」


 ちなみに、さらっと詠んでるように見えてるかもだけど和歌や古語に詳しいわけじゃなくて、スマホで調べながらだったり、だいたいは前に思いついたフレーズを場面でアレンジしてる感じ。


 それにしても、起こしに来たのが母でちょっと安心したよ。

 前に、スマホのアラームかと思ったら、姉がおもちゃの木琴を叩いてたことがあったからね。



           ◇◆◇


 

 新しいシーツの誘惑を振り切って、冷蔵庫の中を物色する。


 うちは朝昼のごはんはフリースタイルが採用されていて、一緒に食べるならまとめて作るけど基本は各々で好きに食べることになってるんだよね。


 うーん、これといった食材がないなぁ。

 簡単にパスタにして、おやつにホットケーキを焼いて茹で小豆でも乗っけるか。


 ずんぐりとしたミルクパンでお湯を沸かしたら塩をいれて、スパゲッティを二つ折りにして茹でる。


 パスタを折るとイタリア人がキレるってよく聞くけど、実際はイタリアーノジョークらしいので多分大丈夫。

 小さい鍋の方がお湯がすぐ沸いて楽なんだよね。


 茹であがったら、バターと海苔の佃煮で和えるだけ。


 コンビニのたらこスパゲッティとか好きな人は、一度試してみるといいよ。

 あれって八割がたバターの旨みでできてるから、磯の香りと塩気をちょっとプラスしたらもうほぼ一緒だよ。


「でた。パスタですよ」


 このパスタの名付け親である姉に見つかった。


 ちなみにシリーズものとして姉がつくった「アボカドですよ(アボカドとクリームチーズをさいの目にして海苔の佃煮と和えたもの)」も結構おいしかった。


「あとでホットケーキも焼くよ」


「よし、たこ焼きプレートでベビーカステラにしようか」


「お、いいね」


 よくわたしはボケ続けてないと呼吸ができないとか言われるけど、姉は遊び続けてないと呼吸ができないから、こういうのは大好きだ。


 これで頭良いんだから不思議だけど、噂に聞く、遊び人が成長すると賢者になるってやつなのかも。



           ◇◆◇



「さて、焼きますか」


 生地は二種類で、薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、塩、卵、牛乳のプレーンと、ココアパウダーを混ぜたやつ。

 

 中身は茹で小豆とブロックチョコレート。

 トッピングに生クリームと、ホットケーキの忘れ形見のメープルシロップも用意して。


 完璧だぁ。


 作り方は、薄く油を引いて膨らむ分を考慮してちょっと少な目にタネを入れたら具を入れたり入れなかったりして、あとはたこ焼きと一緒で大丈夫。


 勢いで、ベビーカステラに続いて晩御飯はたこ焼きにしようって話になったところで、また一句。


 今日は喉の調子がいいな。


 麦薫る ちひさし手鞠の 衣替え

 酸いも甘いも 一口どうぞ


「たこ焼きといえばお父さんだね」

 

 いや母も普段は全然料理してるんだけどね。

 なんかこう、イベント的な料理は父がやりたがるんだって。


 わたしは最後に油をまわしかけてカリッとさせたやつと、カリッとさせたのに三つ葉を浮かべた出汁に入れて結局とろっとなったやつが好きだな。


「お好み焼きだったら、あたしが焼いてあげるんだけど」


「粉もんマスターへの第一歩だっけ」


「ぽてじゅー、ゲットだぜ!」

 

 お好み焼きといえば、前にフードコートで食べた広島風が、焼きそばの上にペラペラのクレープみたいなのが乗ってるだけだったんだよね。

 しかも注文時に「そばですか、うどんですか」って駅前の立ち食いみたいなこと言われたし。


 というかこれ、最初にうえのペラペラ食べちゃったら、もう百で焼きそば(もしくは焼きうどん)になっちゃわない?


 という話を姉にしてみたら、


「明日また来てください。本物の広島風お好み焼きを見せてあげますよ」


 って言い残してスーパーに行ってしまった。 


 粉モンマスターに期待して、明日を待とう。


 

           ◇◆◇



 ヨーグルトが食べたい。


 わたしの腸内環境がそう囁いてる気がするので、ちょっと遅い時間だけどコンビニ行ってこようかな。


 「コンビニ行くけど、何かいるひとー」


 気まぐれで家族に声をかけたら完成したメモがこちら。


 冷凍餃子と柚子胡椒 父

 パックのコーンポタージュ(粒なし) 母

 マグロの刺身(なければ白身でOK)  姉

 

 なんだマグロの刺身って。

 というか姉はさっきスーパー行ったんじゃなかったの。


 とりあえず完全にスーパーのラインナップなので、普段行かない遅くまで開いてるところに行くことにした。


 何気にこんな時間にスーパーって初めてだ。

 幻の五十パーセント割引シールが見れるかも。

 

 ちょっと初めての冒険っぽくて、なんかいいね。


 と思ったけど普通に夜道が怖かったので、姉についてきてもらった。

 同じように暗いのに、誰か一緒にいると平気なのは不思議だよね。



           ◇◆◇



 本当にエコか知らないけどとりあえず持ってるバッグを引っ提げてスーパーに到達したわたしは、姉から作戦の説明を受けていた。


「まずは軽く店内を物色。高額割引シールを中心にチェックしたら、冷凍物とナマモノを最後に確保して、速やかに帰宅する」


「ラジャ」


「たとえ割引率が大きくても、本当に欲しいものかどうか、あなたの目で見極めるのよ」


 言ってる内容は別に普通なんだけど、なんか雰囲気的には拘りの美術品狙いの怪盗みたいになってるのは何なんだろう。


 店内に入ると、いきなり焼き芋の匂いが充満していた。


 え、店内で焼いてるの?

 って思ったら、なんか専用の機械で焼いてたわ。


 いまこんなのあるんだね。

 こっちのスーパーってあんまりこないから、初めてみたかも。


「これは……?」


 姉の様子を伺ってみると、すでに袋詰めされた焼き芋をカゴに放り込んでいた。


「焼き芋って結構難しいのよね。難しいというか、とろとろにしようと思うとすごい時間がかかる。なのでこれは買い。割引全然関係ないけど」


「あとで牛乳も買おうね」


 本当に見極めたのかなと思うスピードだったけど、やっぱりこの匂いはずるいよね。

 

 そのあとはお惣菜コーナーをチラ見しながら、姉的メインのお刺身コーナーを覗きに行く。


 今のところ五つ入りコロッケが気になってるけど、焼き芋の満足感でそこまで食べたいと思わないから、あとでまたみてみようかな。

 その他の商品はほぼ確実にあるから、とりあえず先にお刺身チェックだ。

 

「本マグロのお刺身。七百八十円が四十パーセントOFF!」


 きたきた!

 流石にこれは買いじゃない?


「売り場に人はまばら。そしてお刺身は三パックある。つまり、まだあわてるような時間じゃない。もうしばらくここで冷えててもらいましょう」


 冷静なのかなんなのか。

 そう語る姉に従って、とりあえず父母の希望の品を揃えていく。

 そして再び戻ってきたお刺身コーナーで、悲劇は起こった。


「ああああー!! あたしのマグロが三パックともなくなってるーー?! いやいや、え? まさかの買い占めで収益率ニ倍?!」


 ふっ、おとなしく一つ確保しておけば良かったものを。

 策に溺れたね。


 しょんぼりした姉を引き連れて、再びお惣菜コーナーを訪れた時、悲劇は繰り返される。


「ああああー!! コロッケなくなってる! あとでわたしが拾ってあげようかと思ってたのに。なんかなくなってると急に食べたくなってきた!」


 二人でしょんぼりしつつ、焼き芋という希望だけを胸にレジへ向かおうとしたその時、ふとお寿司系が陳列されているワゴンが目に入った。


「!! そうか、もう閉店が近いから、より目立つ場所に移されたんだ」


 半額シールが貼られたマグロを嬉しそうにゲットした姉を見て、ピンときた。

 あわてて惣菜コーナーに戻って辺りを見回す。


「あった! やはり!」


 残った惣菜をまとめて陳列してある棚から半額を通り越して百円シールが貼られたコロッケを手にとって、セルフレジで店員ばりに高速でレジ打ちしている姉に駆け寄った。


 ちなみにマグロは、砂糖漬けにするとスーパーの刺身でも美味しくなるってやつを動画で見てやってみたくなったらしい。


 そして肝心のヨーグルトは買い忘れた。

 腸内環境は焼き芋でなんとか手を打ってもらおう。

 がんばれ、わたしの胃腸。


 こうして、わたしの夜の冒険は幕を閉じた。


 なんか一日中食べて夜にスーパー行っただけだけど、でもいいじゃない、こんな休日があってもさ。


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