修律会という激ヤバ組織に目をつけられた
その日は、いつもと同じように始まった。
俺とリィナは、町の修行広場で演出修行――という名の“俺は座ってるだけ修行”をしていた。
演出スキルは今日も絶好調。足元からは金色の砂が舞い上がり、俺の周囲には幻想的な光の輪が広がっている。
リィナはいつも通り、目を閉じて隣で正座しながら黙々と“気”を整えている。
「……ふぅ。今日もカイル様の魔力、とても澄んでいて……熱くて……」
彼女の頬がほんのり染まる。
(これはマジで、俺が何もしてないってバレたら泣くやつだな……)
そんなことを思いながらも、俺はどこか穏やかな気持ちでその場にいた。
――その時だった。
「あなたが、カイル・セレスティア様ですね?」
声が響いた。
広場の外れに立っていたのは、一人の青年。
長い黒髪を後ろで束ね、灰色のローブを羽織っている。
一見して目立たないが、異様な静けさを纏っていた。
「……あんた、誰だ?」
「私は《修律会》の調整官、ノイ・ラゼルと申します」
ピリッと空気が張り詰めた。
リィナが息を飲むのがわかった。
《修律会》――努力こそ全てとする過激思想集団。
怠惰と認定された者は、社会的に排除することすらあるという、恐怖の組織だ。
「本日は、あなたに観察対象指定が下ったことを伝えに来ました。……あくまで、正式な手続きの中で、ですが」
俺は顔をしかめる。
「なんで俺が、そんなのに?」
「演出スキルによって、努力の価値を歪めていると、会として判断した結果です」
「……見た目だけじゃなく、ちゃんと成果出してるぜ。リィナだって魔力の流れが良くなってるし、俺だって少しは……」
「それが問題なのです」
ノイの声は冷たく、淡々としていた。
「努力せずに結果が出る。そんな価値観が広がれば、この社会は瓦解します。だから、あなたの存在は抑制されねばならない」
……マジで来やがった。
正論っぽい言葉で、ズルを悪として潰しに来るやつ。
でも、俺は言い返さなきゃならない。
「俺は最初、楽したいだけだったよ。努力なんてカッコつけの道具だと思ってた」
「ではなぜ今、あなたは毎日ここに座っているのです?」
その問いに、少しだけ沈黙してから、俺は答えた。
「……俺を信じてくれる奴がいるから。そいつが俺の修行を信じて頑張ってて、それがちゃんと成果につながってる。それを見たら、手は抜けねえだろ」
リィナが、はっとしたように俺の方を向く。
ノイは目を細めた。
「信頼と甘えを履き違えていますね。……これは通告です。今後、あなたの修行行為が虚偽と判断された場合、すべての修行場への立ち入りが制限されます」
そう言って、彼は一礼し、静かに立ち去った。
※※※
そのあと、俺とリィナは広場の片隅でベンチに並んでいた。
空気は、少しだけ重かった。
「……カイル様」
「ん?」
「さっきの言葉……うれしかったです。わたしが、あなたの行動を変えるきっかけになれたのなら」
リィナが、ゆっくりと手を握ってきた。
その手は少し震えていたけど、ちゃんと温かかった。
「……ありがとうな。お前が信じてくれたから、俺も自分を信じてみようって思った」
「はい」
静かな夕暮れの中、二人の間に流れる時間は、どこまでも穏やかだった。
――けれどその裏で、《修律会》はすでに、次の段階へと進み始めていた。
「奴の“影響力”が拡大している。次は、力で示す必要があるな」
カルマ・ゲインは、ひとり呟いた。
「努力を演出で踏みにじる者に、真の修練とは何か――その“痛み”を教えてやろう」