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演出なんてものは結局、ただの努力だ

 焔絶の脅威が消えた朝。


 街にはまだ、灰の名残が漂っていた。

 けれど、人々の目は明るかった。


 焼け落ちた修律会の紋章。

 再起動された演出塔の光。

 そして、空を泳ぐように漂う――火の鳥。


 それは、カイル・セレスティアの演出でも、奇跡の力でもない。

 誰かの信じたいという気持ちが、重なり合って自然に生まれた信頼の象徴。


 ※※※


 王都・公園広場。


 カイルは、仲間たちと並んで立っていた。


 リィナ、クリス、ノア。

 信修派の子どもたちや、かつて彼を信じてくれた市民たちも集まっていた。


 この日。

 演出が戻った記念として、王都で「演出演武祭」が開催されることとなった。


 そしてその開幕を告げるのは――

 カイル・セレスティアによる、最後の演出。


「……やるのかよ、本当に」


 クリスが苦笑気味に言った。


「まぁな。お前が締めろって言われちまったし」


 カイルは肩を回すと、遠くの空を見た。


「でも、俺ひとりの火じゃつまんねぇよな。今日は――みんなの火、見せてやろうぜ」


 リィナが目を輝かせて頷いた。


「はい。わたしたちの、信じてきた時間を」


 ※※※


 そして、始まった。


 白い演出舞台に、カイルが一人立つ。

 だが今回は、ただ火を放つのではない。


「――まずは、火種を持ってきてくれた奴らを紹介するぜ!」


 声とともに、舞台にリィナが現れる。

 無数の光粒が彼女の周囲に舞い、支柱のような白い輪を形作った。


「これは、誰かを信じた自分を支える力」


 次に現れたのはクリス。


「修行は無駄だって笑われた。でも――努力が火になるって知った」


 彼の拳が振るわれ、地を照らす橙の火が走る。


 そして、ノア。


「わたしは火を出せない。でも、信じる声を届けることはできます」


 彼女が掲げた短冊が舞い、光が空へと散った。


 そして、カイル。


 彼はひとつ息を吐いて、掌を空に向ける。


「これが、俺たちの――最後の演出だ」


 演出発動――


 《共演演出:希望点火式・煌焔鳥こうえんちょう


 舞台から空へと昇った光が集まり、

 炎の鳥が羽ばたく。


 でもそれは、カイルの火ではなかった。


 リィナの支柱が鳥の羽を支え、

 クリスの拳が羽ばたきに力を与え、

 ノアの言葉が尾羽となって光を導いた。


 空に咲いた、みんなで繋いだ火だった。


 ※※※


 観客の中で、子どもがぽつりとつぶやいた。


「……すごいね。誰かが火を灯したんじゃなくて、みんなが持ってた火が、重なったんだ」


「そうだね」

「きっと、信じるって、こういうことなんだよ」


 信頼は一瞬で崩れるものかもしれない。

 けれど、何度でも積み直せるものでもある。


 それを、この火が教えてくれていた。


 ※※※


 演武祭が終わった後。


 カイルは夕焼けの中、ひとりベンチに座っていた。


 クリスが横に座る。


「……で? 次は何やるんだよ、お前」


「んー……まだ決めてねぇ。演出で食ってくのも飽きたしなぁ」


「お前、またフラッと消えそうだな」


 そう言いながら、クリスは笑った。


 リィナが歩いてきて、二人の隣に腰を下ろす。


「カイル様“誰かの火になるって言ってましたけど……わたしは、これからもあなたの火を支えたいと思ってます」


「……ああ、じゃあ支えてくれ」


「はい。全力で」


 ※※※


 夜が近づき、星が瞬き始めた。


 空に、微かに揺れる光。


 火の鳥ではない。

 けれど、確かにそこには、誰かの信頼の余熱があった。


 世界は完璧じゃない。

 けれど、信じようとする誰かがいれば、きっとまだ、前に進める。


 それがカイル・セレスティアたちが見せた、最後の演出だった。


 ※※※


 ――朝日が昇る。


 夜の帳が落ちた世界に、また一つ、新しい火がともる。


 空は高く、穏やかな風が街を撫でていた。

 昨日の騒乱が嘘のように、世界は静かだった。


 けれど、その静けさは決して空虚ではなかった。


 それは、信じる力が受け入れられたあとの静寂。

 誰もが、少しだけ前を向けるようになった“希望の空気”だった。


 ※※※



 広場の演出塔に、手紙がひとつ残されていた。


 【To 君たちへ】


 ――火は、簡単に消える。


 けど、それが消えるって分かってても、

 もう一度灯そうとする奴がいるなら、それはもう本物だ。


 火を信じてくれて、ありがとう。


 俺はたぶん、この先もどこかで火を灯してると思う。

 だから、もしまた迷ったら――見上げてくれ。


 信じるってのは、いつだって君から始められるから。


 宛名のない手紙。けれど、それは広場に集った誰かの胸を確かに温めた。


 ※※※


 数日後。


 カイル・セレスティアは、ひとりで街を出ていた。


「師匠! また勝手にいなくなって!」


 リィナが文句を言いながら追いつく。


 カイルは困ったように笑いながら、荷物を背負って振り返った。


「いやさ、今ここに俺がいても邪魔だろ?」


「……そんなこと、ありません」


「でもさ」


 カイルは空を見上げた。


「誰かが信じてくれるなら、俺は信じ返せる人間でいたいんだよ」


「それに、火ってのは……誰かが灯して終わりじゃなくて、誰かに渡して続いてくもんだろ?」


 リィナは、ゆっくりと頷いた。


「……じゃあ、行ってください。


 でも、必ずまた戻ってきてください」


「約束はしねぇよ。……けど、俺、嘘はつかねぇ」


 リィナは笑った。


「はい。それで十分です」


 ※※※


 街を出るとき、クリスが先回りして待っていた。


「やっぱり、こうなると思ってた」


「……見送りか?」


「ああ。文句はねえよ。俺ももう、火を背負って歩けるしな」


 クリスは拳を出した。


 カイルも、同じ拳でそれを受ける。


「……お前の背中は、ちゃんと見てきた。今度は俺が、誰かに火を見せてやる番だ」


「頼んだぞ、同志」


 ※※※


 そして、ノア。


 演出塔の見える小道で、彼女はそっと立っていた。


「カイル様。わたし――ずっと、火の外側にいたけど、あなたがその中心で笑ってくれたから……わたしも、誰かを信じることができました」


「だから、行ってください。そして、いつかまた――私に信じさせてください」


 カイルは、頷いた。


「約束しよう。次は――火を繋げられる奴として、戻ってくるよ」


 ※※※


 旅路に出る背中は、飾り気がなかった。


 けれど、その足元に灯る火は、決してひとりのものではなかった。


 彼に託された火。

 彼が灯してきた火。

 そして、これから先に出会う誰かの火。


 それらすべてを背負って、カイル・セレスティアは歩き出す。


 信じることを、やめなかった者として。


 そして、信じられた者として。


 ※※※


 空に、白い火の鳥が舞う。


 演出でも、奇跡でもない。


 それは、彼が残していった信頼の記憶。


 次にそれを灯すのは、

 今この瞬間に「信じてみよう」と思った、君なのかもしれない。


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