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戦いの果ての目的

 祭壇が崩れ落ちたとき、世界に再び風が吹いた。


 灰の霧は静かに晴れ、空気にわずかな熱が戻ってくる。

 焔絶の術式は停止し、因子の流れが回復。

 かつて失われかけた信頼が、ゆっくりと息を吹き返すようだった。


 ※※※


 カイルはその場に膝をついていた。


 カルマ・ゲインとの戦いは、拳の勝負以上に心を削るものだった。

 演出の華やかさはない。ただ、信じることにすべてを賭けた時間。


 ――火は、消えなかった。


 それが、彼の勝利だった。


「……カイル!!」


 響く声と同時に、駆け寄ってきたのはクリス。


 拳の皮は破れ、全身に傷を負っていたが、その目は生きていた。


「遅せぇよ……終わってんじゃねぇか……!」


「遅れてきたくせに、うるせぇな」


 カイルは苦笑して返すと、別方向からリィナも駆け寄ってきた。


「カイル様……! ご無事で……!」


 その目には涙が浮かんでいた。


「わたし、信じてました。……絶対、火を消させないって」


「……ありがとな」


 カイルは、そっと彼女の頭を撫でた。


 ※※※


 カルマ・ゲインは崩れ落ちた祭壇の影に、ただ静かに座っていた。


 仮面は砕け、表情はどこか――晴れやかだった。


「私の計画は、失敗した。だが……火は、確かに人を変えるということだけは、見届けられた」


「これからの世界が、また信頼に裏切られたとしても……今のお前たちなら、乗り越えられるかもしれないな」


 そう言って、彼はそっと目を閉じた。


 焔絶の祭壇は沈黙し、深層に葬られた。


 ※※※


 地上。


 信修派たちは次々と帰還を始めていた。


 火を信じることを恐れていた人々も、今は、誰かと顔を見合わせて、小さく笑えるようになっていた。


「演出って……誰かの気持ちで変わるんだね」

「うん、なんか、ちょっとだけ信じてみたくなった」


 誰もが、それぞれの火を持ち始めていた。


 ノアは、人々の言葉を聞きながら、小さく息を吐く。


「カイル様。あなたの火は――たしかに、次の誰かに届いていますよ」


 ※※※


 夜が明ける。


 街の空に、ひとつの小さな火の鳥が舞った。


 それはもう、奇跡のような力ではなかった。

 ただ誰かが誰かを想って、自然と灯った希望の形。


 それで、十分だった。


 リィナが空を見上げながら呟く。


「……これから、どうなっていくんでしょうね」


「さあな」


 カイルは曖昧に笑った。


「でも、悪くねぇ気がする。火を信じる奴が、ちょっとずつ増えてくなら、それでいいさ」


 クリスが肩をすくめる。


「お前さ、これからも信頼だの演出だの、背負っていくつもりかよ」


「……ああ」


 カイルは、はっきりと頷いた。


「せっかく貰った火だ。だったら俺も、誰かの火になってやらなきゃな」


 夜が完全に明けた。


 新しい朝――

 それは、信じることの価値がまたひとつ、生まれ直した朝だった。

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