決着
灰と火が交差する。
焔絶の祭壇が叫びを上げる最中、
空間に残る唯一の信頼と否定がぶつかり合った。
拳と拳。心と心。
カイル・セレスティア vs カルマ・ゲイン――ここに開戦。
※※※
カルマ・ゲインの拳は、静かだった。
演出を否定し、感情の干渉を排し、
磨き上げられた身体操作と封律術式だけで形作られた完全な理。
その動きには、怒りも熱もない。
あるのはただ、最適解としての攻撃。
一方、カイルの拳は荒々しく、整っていない。
けれど、それでも確かに人の心がこもっていた。
「……火なんて、いつか消える。君だって、分かっているはずだ」
「それでも、その火で誰かが前に進めるなら――灯す価値はある!」
最初の衝突。
拳と拳が激突し、衝撃で空気が撥ねた。
灰の結界が揺らぎ、火の光が拡散する。
拳に乗せているのは、単なる力ではない。
信じてきた時間そのもの。
「俺の演出は、派手でも強くもない。だけど――ずっとそばで、誰かを支えてきた火だ」
「誰かの心を照らし続けた、積み重ねなんだよ!」
カイルの拳が一閃。
カルマの頬をかすめた。
仮面に細く、裂け目が入る。
※※※
カルマは表情を変えず、距離を取る。
「……君の火が本物なら、術式はもう止まっているはずだ。
だが、焔絶の進行は止まっていない」
《焔絶術式 進行度:84%》
《感情因子除去:加速中》
《信頼因子耐性:カイル個体を中心に観測》
「つまり、君の火は個体依存にすぎない。普遍性がない。……君が倒れれば、火は消える」
「だったら――倒れねぇ!」
カイルが突っ込む。
体を低くし、肘から拳へと連続の打撃。
だが、カルマは滑るような身のこなしでかわす。
「……信頼に頼る君は、予測可能だ」
拳が弾かれる。
カルマの反撃。空間制御を絡めた最小軌道の突き。
肋に食い込んだ。
「ぐ……っ!」
崩れかけるカイルの体。
だが、倒れない。
「……簡単に倒れてたら、仲間に合わせる顔がねぇ」
「信じてくれた奴らに、火は消えなかったって見せるって、決めたんだよ!」
※※※
再点火――
カイルの拳に、再び火の鳥が宿る。
リィナの信頼。
クリスの修行。
ノアの言葉。
誰かが誰かを想って積み上げた日々が、カイルの拳を支えていた。
《因子共鳴:過去最大値観測》
《焔絶術式に逆流開始》
《緊急:カルマの因子反応変動》
カルマの中にも、揺らぎが生まれ始めていた。
――なぜ、止まらない?
君の火は、私の否定”の上を越えて……なぜ、まだ――
※※※
カイルの一撃が、仮面を割った。
破片が舞い、カルマ・ゲインの素顔が露になる。
蒼白な顔。疲れた瞳。
その奥には、かつて希望を信じていた少年の面影があった。
カイルは、その顔を見て呟く。
「……やっぱ、お前も誰かを信じてたんだな」
「信じたものを、否定したいくらい苦しかったんだな」
「でもな――その痛みも含めて、信頼なんだよ」
※※※
最後の拳が、カルマの胸に届く。
強くもない。速くもない。
ただ――心に触れる一撃。
カルマは吹き飛ばされたわけでも、倒れたわけでもない。
ただその場に、膝をついた。
焔絶の祭壇が、停止する。
《焔絶術式:強制中断》
《信頼因子:安定回復》
《演出補助網:復旧開始》
火が――戻ってくる。
※※※
カイルは、傷だらけのまま立ち尽くしていた。
その背には、もう誰もいない。
でも、彼の中には、誰かの火がずっと灯っていた。
カルマ・ゲインは、顔を伏せながら小さく呟いた。
「……綺麗事だと、思っていた」
「でも、君が信じたいと思った人たちに囲まれて、ここまで来たこと――」
「……それだけは、本物だったのかもしれない」
火と灰が、静かに溶け合う。




