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カルマ・ゲインについて

 「信頼は、人を救わない」


 カルマ・ゲインがそう信じるようになったのは、たった一度、世界を信じてしまった過去があるからだった。


 ※※※


 カルマが生まれたのは、辺境の村。

 魔導戦争の余波で村は消え、両親は炎の中に消えた。

 当時七歳だった少年は、ただ呆然と焼け跡を見ていた。


 救ったのは、王都にある信仰系の孤児院だった。


「人は信じ合ってこそ、生きていける」

「信頼は絆となり、絆は未来を照らす火となる」


 教えは優しかった。神殿のシスターも、他の孤児たちも、彼に手を差し伸べてくれた。

 カルマは一言も疑わなかった。

 人を信じることが、生きる力になると信じた。


 だが――裏切りは、突然訪れた。


 神殿の宝物庫が荒らされ、魔具が盗まれた。

 証拠も目撃もなかった。

 だが、無口な異端の少年というだけで、カルマは疑われた。


「いつも静かで、何を考えてるか分からなかった」

「あの子だけ、神に祈る声をあげなかった」


 信頼は、あっけなく憎しみに変わった。


 暴力。無言の排除。孤立。

 彼を信じていたと言っていた者たちが、誰よりも先に手を離した。


 ある夜、カルマは屋根裏の小部屋から追い出された。

 雨の中を歩きながら、彼はひとつの結論に至った。


「信頼は、裏切る。なら、最初から信じなければいい」


 ※※※


 カルマはその後、あらゆる知識に飢えるようになった。

 感情を捨て、他者との関係を断ち、魔導理論と記録だけを信じるようになった。


 彼が特に興味を持ったのが演出魔法だった。


 人の感情を力に変える演出。

 それは美しいものだったが、同時に危険だった。


 人が信じれば、火が灯る。

 人が裏切れば、火は暴走し、焼き尽くす。


 ――そんな不確定な力を、世界が頼るようになっていく。


 カルマは恐怖した。


「再び信頼を中心とする世界が構築されれば、必ず滅ぶ」


 彼は王国の演出管理局に入り、記録官として働き始めた。

 膨大な修行データを解析し、演出の感情依存性の傾向を明らかにした。

 感情ではなく、数値と制御の世界。

 それこそが秩序であり、未来だと信じた。


 彼は同僚たちと共に「修行と演出の秩序化」を目指し、ついに一つの機関を生み出す。


 ――修律会。


 演出修行に制律という枠を与え、

 信頼・希望・共感といった感情を、すべて測定・審査・規制の下に置く。


「信じるな。記録せよ」

「頼るな。制御せよ」


 それが、修律会の理念だった。


 ※※※


 そんな彼の前に現れたのが、カイル・セレスティアだった。


 最初に届いたのは報告書だった。


「新人演出者、信頼共鳴率 驚異的上昇」

「演出内容は非暴力的、信仰傾向あり」


 最初は、ただの小物だと判断した。

 だが、動画記録を見た瞬間――背筋が凍った。


 彼はかつての自分にそっくりだった。


 演出の中で笑うカイルは、無垢だった。

 民衆に囲まれ、拍手を浴び、信じる者たちに囲まれていた。


「……危険だ。あれは俺と同じ過ちを踏む」


 だが、違った。


 彼は裏切られなかった。

 暴かれても、叩かれても、信じられ続けた。


 彼の火は消えなかった。


 ――なぜだ?


 カルマは混乱した。


 世界が、信頼に傾いていく。

 人々が、再び感情の海へ飛び込もうとしている。


 あの火の鳥が飛び続ける限り、いつか――誰かがまた焼かれる。


 そうなる前に、終わらせなければならない。


 ※※※


 カルマは、自室の魔晶記録台に座っていた。


 無音の結界の中、唯一映し出されているのは――カイル・セレスティアの演武記録。


 民衆に囲まれ、火を背負って立つその姿。


「……希望の仮面をかぶった、破滅の火だ」


 かつて自分が、信じて、裏切られて、壊れたあの時。


 もし、その火が自分の目の前にあったなら、同じように信じていたかもしれない。


 だからこそ、許せなかった。


 彼の中の神殿の記憶が、怒りに変わる。


「お前が何を灯そうと――俺が消す」


 それが、カルマ・ゲインという男の黒の律。

 信じるという選択肢をすべて焼き尽くすために、彼は戦う。


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