失望の果てに見えた原点
焼け野原だった。
心の中に広がる、何もない空間。
誰の声も聞こえない。火も、鳥も、あのもう一人の俺もいない。
ただ、灰だけがあった。
信じてもらえなければ演出は出せない。
演出がなければ、戦えない。
戦えなければ、信じてもらえない。
――じゃあ、俺ってなんなんだ?
「……ッ……くそ……」
瓦礫の中で膝を抱え、拳を握る。
逃げた。カルマ・ゲインと対峙し、あの黒い炎を前にして――
俺は、恐怖した。敗北した。
自分の信じる力なんて、無力だったと痛感した。
そして、俺は思った。
(やっぱり、俺には何もなかったんじゃないか)
(演出だって偶然の産物だった。信頼だって、他人の厚意にすがってただけで……)
そのときだった。
「……カイル様」
声がした。
リィナだった。
ボロボロになった上着を羽織り、血がにじんだ額を押さえながらも、まっすぐにこちらを見ていた。
「あなたは、逃げました。でも……それでも、あなたは信じようとした。
わたしは、その背中を、ずっと見ていました」
「……何を言ってんだよ。俺は今、何もできねぇのに……」
「できることじゃなく、信じたいことがあったから、あなたは歩いてきたんでしょう?」
彼女の手が、俺の手を握った。
あたたかい。
でもそれ以上に――重い。
「わたしが、あなたを信じます。今までのあなたが、どんなに偽りから始まっていようと。
わたしにとって、あなたが灯した火は、本物でした」
「だから、どうか……自分のことも、信じてください」
俺は、答えられなかった。
でも――その言葉は、心の奥底に残っていた火種に触れた気がした。
※※※
夜が明け、俺はひとり、ガレン郊外の丘へと足を運んでいた。
昔、演出の練習をしていたときも、よくこうやって誰にも見られない場所でこそこそと動いていた。
(最初はただ、モテたかっただけだったんだよな)
(努力も嫌だったし、バカにされたくなかったし……)
でも。
信じてくれた奴がいた。リィナがいた。
演出に涙してくれた子どもたちがいた。
そして今――誰もいない場所で、俺は自分に問いかける。
「俺は、俺を信じられるか?」
応えは――ゆっくりと、胸の奥に広がっていく。
それは確かに、過去の俺が見せたズルだったかもしれない。
でも、ズルのまま終わらせなかったのは――俺自身だ。
逃げたくても、逃げなかった。
バレても、立ち上がった。
叩かれても、信じ続けた。
「……信じたいんだ。
誰かに、じゃない。俺自身に。
そうじゃなきゃ、俺は何のために……」
拳を握る。
その瞬間、手のひらに微かに熱が戻った。
演出じゃない。魔力でもない。
それは、ただの体温だった。
でも、それは俺にとって――希望だった。
※※※
丘から戻った俺は、リィナの前で頭を下げた。
「ごめん。俺、逃げた。でも、もう一度立ちたい」
「……ようやく戻ってきましたね」
リィナが微笑んだ。
「あなたは火の人ではなく、火を選ぶ人です。
燃やすか、消すかを決めるのは、あなたの心だけですから」
俺は小さく笑った。
「なら、燃やすしかねぇな。
もう一度、信じるってことを――俺自身から始めよう」
※※※
その夜。
修律会の本部に、ひとつの魔晶映像が届く。
そこには、丘の上で拳を掲げるひとりの修行者の姿が映っていた。
「俺は、立ち上がる。演出がなくても、信じる気持ちは消せねぇ。
カルマ・ゲイン。次は逃げねぇ。――燃え尽きるまで、立ってやるよ」
カルマは、映像を見ながら静かに言った。
「……ようやく、燃える気になったか。ならば、灰になるまで付き合おう」




