カイル・セレスティアに宣戦布告
そこは、修律会本部《零霊院》の最上層。
重厚な黒曜石の床と、天井から吊るされた光のない魔導灯。
空間自体が沈黙しているような場所だった。
その中央に立つ男――
白髪に漆黒の外套。
両目には仮面を模した刺青。
その男が、ゆっくりと目を開いた。
「私は……理に従って進む者。名前など、飾りにすぎん」
だが周囲の修律官たちは、その姿を見ただけで膝を折り、頭を下げていた。
「カルマ・ゲイン様……制律の証人が、ついに御前に……」
彼は確かに、修律会の頂点に立つ男だった。
「セレスティア・カイル……信頼の演出者。」
カルマは静かに呟いた。
「演出が人を導く? 愚かだ。
感情は不安定。信頼は裏切りを孕み、信仰は暴走する。
――だからこそ、我ら修律会は演出を理に従わせてきた”」
「だが貴様はそれを……解き放った。」
指先が小さく動く。
その瞬間――
《修行記録改竄・魔導結界《審魂炉》起動》
彼の目の前に、膨大な映像が現れる。
カイルの過去の演出、発言、行動、SNSでの反応……すべてが網羅されていた。
「民衆は、すでに貴様を神格視し始めている。
その炎は、希望ではなく、やがて支配の火へと変わるだろう」
「だから私は断罪する」
「信頼という名の暴力を――」
※※※
一方そのころ、王都・東区のギルド本部。
俺とリィナ、そして招待修行者のうち数名が集まり、次の動向を話し合っていた。
「――で、何が起きてるんだ?」
クリスが口を開いた。
体中が包帯でぐるぐる巻きとなっている。
本人曰く、もう全快らしいがそれでも心配だ。
彼は修行の申し子という異名を授かるくらい、修行界隈の中では有名だ。
そんな彼が今回の炎印祭には姿を見せなかった。
その理由は《修律会》に襲撃されたからだ。
ユリウスに俺を倒させ、優勝を勝ち取りたかった《修律会》にとって優勝候補筆頭であるクリスは一番厄介な存在だ。
大会前に襲い、大怪我を合わせたという事だ。
だからこそ、彼もこの場に集まってくれた。
お互い《修律会》には恨みがある。
「修律会が全国に“演出規制布告”を出しました」
リィナが、緊迫した表情で書状を広げる。
「“信頼演出の拡大は、思想誘導に等しい”として、
特定の演出修行者に対して活動制限を課す、と……」
「完全に、俺が標的じゃねぇか」
アルミの台詞を思い出す。
――決着の時は近い。ここからは、《修律会》そしてカルマ・ゲイン様が本気で動く事になるだろう
カルマ・ゲインの策略なのだろう。
本気で俺を狙ってきたようだ。
「そうです」
リィナは真顔でうなずいた。
うん、こういうところブレないよな、こいつ。
だが、事態はそれだけではなかった。
「さらに、修律会は演出により影響を受けた都市へ、次々と制圧部隊を派遣しています。
すでに南方のガレン市では、演出修行者が拘束されたとの報告が――」
「……つまり、信じる心が広まること自体を、封じに来てるわけか」
俺はゆっくりと立ち上がった。
「いいぜ、上等だよ。
信じる力を潰すってんなら、こっちは――それでも立ち上がる意味を見せてやる」
※※※
その夜。
ひとりになった俺は、ギルドの屋上で空を見上げていた。
演出修行を始めた頃は、ただズルしてモテたい” だけだった。
だけど――今は違う。
あの日、リィナが俺の炎を信じてくれた。
偽者に騙された人たちが、それでも俺の名を呼んでくれた。
信じられたからこそ、信じる意味が生まれた。
ならば――その火を、燃やし続けよう。
「カルマ・ゲイン……。お前がどんな理由で“信頼”を否定しようと――」
「俺は、お前の理屈ごと、ぶっ壊す」
拳を握る。
そして、再び火を灯す。
それは誰かを導くためではなく、
信じたいと願うすべての人に――届くために。




