最後の刺客
その知らせは、翌朝のギルドに届いた。
「西方の辺境村・ラフマで、信頼演出による火災が発生。被害多数、目撃者の証言あり。発火源の演出は、火の鳥型。目撃された演出者は、銀髪に黒衣――」
「……俺じゃねぇか、それ」
報告を読み上げたリィナが、ぴたりと動きを止めた。
「完全にカイル様の演出と一致しています……ですが、その場にカイル様はいなかった。つまりこれは――」
「偽者か、模倣者か……」
俺は胸の奥に冷たいものを感じた。
火の鳥は、信頼によって生まれる演出の象徴。
けれど、それを誰かが――信頼を騙して、力に変えたということだ。
「このまま放っておくわけにはいかないな。
その炎、本当に信頼の力か、それとも――」
「喰らった信頼か、ですね」
※※※
二日後、ラフマの村へと向かった俺とリィナは、そこで異様な空気に包まれていた。
人々の目が、おびえと期待の入り混じった混乱をたたえていた。
「また来た……! 火の鳥の方だ!」
「いや違う! 本物の加護者だ! わたしたちを救ってくれる……!」
「……誰かがここでカイル様を騙ったのは確実ですね」
「ああ。けど、それだけじゃない。もっと……変な気配がある」
俺のスキルが、じわりと反応を示していた。
《警戒:演出波動の逆位相反応を検知/属性:信炎模倣型》
「いるな……」
その時だった。村の中央――かつて祈祷堂だったという廃屋の上に、黒い影が現れた。
銀髪。黒衣。
その背には、俺の火の鳥と酷似した演出がうごめいていた。
「……初めまして、カイル・セレスティア。いや、演出神」
声は滑らかで、不気味に甘い。
「俺の名は《アミル=フォス》君の修行方法を完璧に模倣し、信頼を力にする者。ただし、俺は奪って得る」
「信頼を、奪う……?」
アミルが微笑んだ。
「君は与える。俺は奪う。ただそれだけだ。
君が一人一人の信頼を積み重ねていくのなら、俺はその束ごと、根こそぎ喰らってやる」
その瞬間、アミルの背後から現れた火の鳥が、空に咆哮した。
だが、それは俺の火の鳥とは違った。
黒く、禍々しく、濁った信頼でできた炎だった。
※※※
「リィナ、下がってろ」
俺は一歩前に出る。
「カイル様……!」
「たぶん、あいつの力は演出じゃない。
信じた相手の心を、まるごと引っこ抜いて、自分の力に変えてる」
「それって、どうやって……?」
「分からない。けど、試すしかない」
アミルが笑った。
「君の火を、俺がどこまで喰らえるか、試してみようか」
《戦闘形式:信頼演出・対応型》
空がゆがみ、二人の周囲が演出波に覆われていく。
演出修行戦――始まった。
※※※
俺は即座に演出を起動する。
《修行演出・真核起動:信炎・自己顕現》
背後に現れたのは、以前の戦いで形になった炎の修行者――俺自身の想いそのもの。
「行け……!」
拳を振る。
信頼が形になり、空気を焼く拳が放たれる!
だが、アミルはそれを、微笑みながら吸い込んだ。
「甘いな。君の演出が信じられてる限り力を持つなら、その信頼を、俺が奪えばどうなると思う?」
空間が逆巻き、俺の演出が鈍った。
観客もいないこの村では、俺に向けられる信頼はわずかだ。
そしてアミルは、村人から偽カイルとして既に信頼を集めている。
「くそっ……力が、減衰してる……!」
リィナが叫んだ。
「カイル様、負けないでください……! わたしは、信じてます……!」
その声に反応して、火の鳥がふたたび身を起こす。
《信頼共鳴:個別支援/対象:リィナ・エルフェリア》
《演出強化:局所演出燃焼率 上昇》
「ありがとう……!」
俺は再び拳を振る。
「俺の力は、信じてくれる人の意思でできてるんだ。
奪われても、残る信頼がある限り、立ち上がれる!」
※※※
拳がアミルの黒い火の鳥とぶつかる。
光と影の演出が激突し、空が割れた。
そして――
黒炎が砕け、アミルの身体が後方に跳ね飛んだ。
彼の仮面が割れ、血がにじむ。
「……なるほど。奪えない信頼があるのか」
「そうだよ。信頼ってのは、自分で信じたいと思って、初めて本物になる。お前みたいに、騙してかすめ取っただけのもんじゃ、絶対に超えられない」
アミルは、薄く笑った。
「……面白い。君の炎、完璧に再現が出来ない理由がわかった。その稀有な能力。まさしくあの方の言った通りだ」
「あのお方だと?」
俺の問いに、アミルは不敵に笑う。
「カルマ・ゲイン様だ」
カルマ・ゲイン。
俺を狙う組織《修律会》の黒幕。
謎に包まれている男だ。
「手下よこして俺に絡んでくるのはやめろ! 俺に何か言いたいことでもあるんだろ? なら、直接来やがれとその黒幕に伝えとけ」
怒号を撒き散らしながらそう伝えると、アミルは再度不敵に笑い、口を開いて答えた――
※※※
戦いのあとの村は、静かだった。
だが、村人たちの目には、確かな変化があった。
「本物の……火の鳥だ……」
「嘘じゃなかったんだ……」
「信じてよかった……」
俺は静かにうなずいた。
そして、リィナがそっと俺の隣に立った。
「カイル様……あなたの炎は、誰かの心を動かしました」
「そうだな。だから、これからも――燃やしていこう。奪う炎じゃなく、“照らすための炎”をな」
その為には、敵対組織を完膚なきまで叩き潰すしかない。
「カルマ・ゲイン……」
俺はアミルが放ったセリフを思い出す。
「決着の時は近い。ここからは、《修律会》そしてカルマ・ゲイン様が本気で動く事になるだろう」




