表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

カイルとノア

 翌朝、俺は一人で《聖紅炎広場》の西端にある修行堂へ向かった。

 昨日、ノアという少女と交わした約束を果たすためだ。


 朝の光が差し込む中、白石の回廊を歩いていくと、堂の扉が開け放たれ、白い修行服に身を包んだ十数名の若者たちが整列していた。


 その胸元には、火の鳥を象った刺繍。

 昨日、俺に向かって「信じています」と語ってきた――信修派の面々だ。


 中央に立つノア・フェルシアが一歩前に出て、深く頭を下げた。


「カイル様、ようこそお越しくださいました」


「ああ。呼んでくれてありがとう」


 堂内に入ると、焚香の香りが薄く漂っていた。

 演出修行というより、まるで“神事”のような空気が漂っている。


 その静けさの中、ノアが再び口を開いた。


「わたしたち信修派は、あなたの修行に心を打たれ、救われた者たちです。

 どうか、これからの私たちを導く“言葉”を、お授けいただけませんか?」


 その瞬間、堂内に集まった人々の視線がすべて俺に集中した。


 期待と崇拝のまなざし。

 だがその光は、どこか――危うくて、強すぎた。


「……ありがとう。君たちが俺を信じてくれるのは、すごく嬉しい。

 でも――それを伝える前に、ひとつだけ、ちゃんと言っておかなきゃいけないことがある」


 俺は、静かに視線を上げた。


「俺は、“神”じゃない」


 ピシリと、場の空気が張り詰めた。


 ノアが、目を丸くする。


「でも……あなたは“火の鳥”を呼び、“信頼”を力に変えたんですよ?

 それは、もう普通の人間の域を――」


「違うよ」


 俺はかぶせるように言った。


「火の鳥が現れたのは、俺がすごいからじゃない。

 “信じてくれた人たち”がいたから、演出が力になったんだ。

 俺だけの力じゃ、あんな演出は絶対に出なかった」


 沈黙が降りる。

 誰もが、その言葉をどう受け取っていいのか分からず、固まっていた。


 ノアが、震える声で言った。


「……わたしは、弱いんです。

 何を信じていいのか分からなくて……。

 でも、あなたの修行を見て、火の鳥を見て、ようやく“信じられるもの”が見つかった気がしたんです……!」


「俺も、そうだったよ」


 思わず口に出ていた。


「俺もずっと、誰かに認められたくて。ズルして、見せかけだけの修行を続けてた。

 でも、そんな俺を信じてくれた人がいて……そっから、ようやく俺は変われたんだ」


 俺は手を前に出し、小さな演出を起動する。


 火花がちらつき、手のひらの上に小さな“焔の鳥”が形をなす。

 光は温かく、静かに揺れていた。


「信じるってのは、誰かにすがることじゃない。

 “信じた想い”で、自分の足で立ち上がることなんだ」


 その言葉に、ノアが目を伏せた。


「でも……正直、それは難しいです。

 わたしたちは、あなたの演出に救われた。

 だからこそ、その力を信じ続けていたい……」


「なら、こうしよう」


 俺はそっと微笑んで言った。


「信じる対象は“俺”じゃなくていい。“自分の意思”で選んだ未来を、信じてくれ。

 俺は、その背中をちょっと押すだけでいいんだ」


 ノアは、瞳を見開いていた。

 やがて、小さくうなずいて、言った。


「……わかりました。

 これからは、わたしたち信修派は、カイル様を“神”ではなく――“導き手”として、信じます」


 その言葉に、他の若者たちも次々にうなずいた。


 みんなが、静かに、確かな意思を持って頭を下げた。


「……ありがとうございます。導き手様」


「だからその呼び方やめようぜ……?」


 * * *


 その日の午後。

 信修派の代表者ノアから、「偶像化の否定」と「自立を促す声明」が発表された。


 魔晶SNSでは、その動きが大きな反響を呼んだ。


【速報】信修派、偶像崇拝を否定!

 →「信じる=立ち上がる力」って言葉、沁みた……

 →やっぱカイル様、人間味あってこそ魅力だよな

 →演出だけじゃなくて、言葉の力も持ってるのすごすぎる


 一方で、別の波紋も起きていた。


【異端派“燃魂教”が分派?】

 →演出の“本質は神の火”と主張する一派が拡大中

 →カイル様の“演出原典”を勝手に教典にしようとしてる?


 信頼は、受け止め方次第で歪む。


 信じるという行為は、時に人を強くし、時に――狂わせもする。


 * * *


 夜。

 屋上の縁に腰かけて空を見上げていた俺の隣に、リィナがそっと座った。


「……カイル様。お疲れ様です」


「なんか……今日は、疲れた」


 星が静かにまたたいていた。


「でも、よかったですね。信修派の人たちが、“自分の道”を選んでくれました」


「ああ。今は少しホッとしてる。けど……」


 俺は、遠くの光を見つめながら呟いた。


「これで終わりじゃない気がするんだ。

 信頼ってやつは、あったかくて、でも……火みたいに燃え上がるときもある。

 うまく付き合わなきゃ、全部焼けちまう」


 リィナがそっと微笑んだ。


「だからこそ、あなたが“演出の火”を制御するんです。

 この時代の、信じる象徴として」


 俺は、黙って頷いた。


 そしてその夜――遠くの街で、新たな火が上がった。

 それは、俺の演出とは違う、黒くゆがんだ“信頼の炎”。


 人々を救うための演出が、誰かに喰われようとしていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ