努力系マニア美少女が俺に弟子入りしてきた
俺の名はカイル・セレスティア。
演出だけで修行ランキング1位を取ってから、まだ数日しか経ってない。
なのに――
「道場破りを秒で倒した!?」
「修行中に舞い降りた炎の鳥を従えたらしいぞ」
「演出だけで他人の魔力を活性化!? もう神だろ……」
……なんか、伝説になっていた。
違うんだって。全部、勝手に起きただけなんだって。
最初の事件、あの爆炎演出がSNS魔晶具にアップされ、再生数が百万回を突破。
その影響で、俺の演出は「神の鍛錬」「幻獣の試練」とかいったワードで語られ始めた。
そのせいで、見物人が増える→演出が派手になる→また動画がバズる、のループ。
おまけに、数日前に本物の武術家が道場破りに来たとき、
俺が演出中に微妙に手を動かしたら、それが相手の足元に熱風を吹きつけ、偶然バランスを崩して勝利扱い。
(まぐれにもほどがある)
そんな偶然が積み重なり、俺はいまや“修行界の異端なる神童”扱いだ。
その余波で、弟子入り志願者まで現れた。
※※※
「カイル様! 本日こそ、お目通りをお願いできませんかっ!」
今日もまた、町の広場で修行演出をしていると、
全力ダッシュで走ってきた少女に呼び止められた。
黒髪のポニーテールに、鍛錬道着。姿勢はピンとしているが、頬は興奮で赤く染まっている。
「わたし、リィナ・エルフェリアと申します! 修行動画を見て、魂が震えました!」
はい来た。修行信者系の貴族娘。
彼女は“努力こそ美徳”を家訓とする修行貴族の家系。
毎日5時間の瞑想、8時間の筋トレ、週一の断食が義務。
俺からすれば理解不能の努力狂である。
そんな彼女が今、瞳をキラキラさせながら俺を見つめている。
「ぜひ、弟子にしていただけませんか!」
「いや、それはちょっと……」
「お願いします! 一生ついていきます! 足洗いでもなんでもしますから!」
(修行界、どうなってんだ!)
断るのもアレだったので、俺は妥協案を出した。
「じゃあ、今日の基本瞑想だけ付き合ってみるか?」
「はいっ! 全力で取り組ませていただきます!」
そうして俺とリィナは、石板の上に並んで正座した。
今日やるのは基本瞑想
修行者の誰もが通る精神統一の初歩鍛錬だ。
魔力の流れを整えたり、精神抵抗力を鍛えたりと、地味だが大事な訓練……らしい。
もちろん俺は、座ってるだけで演出スキルに全部任せてる。
俺は演出スキルを発動。
すると――
足元から紅蓮の光がふわりと立ち上がり、空気がわずかに震える。
周囲には金の粒子が舞い、まるで聖域のような神秘的な雰囲気が漂う。
ただの演出。効果はないはず。
――が。
「ふ、ふぁあああっ……! カイル様の魔力……あたたかい……! わたしの中にも……!」
「えっ?」
「な、なんか身体が軽く……魔力の流れが自然に……整っていく……!」
(ウソだろ。そんな機能ついてたか?)
あわてて自分のステータスを確認してみると、筋力・魔力制御ともに、微妙に上がっていた。
「は? 本当に……効果が……?」
俺の演出スキル、見た目だけのハズだった。
なのに、こうして“信じてる人間”が近くにいると、なぜか現実に影響し始める。
(まさか、信仰とか評判とか、そういう“外部評価”が作用してるのか?)
演出だけじゃない! 本当に強くなってきてる。
もはやこれは、ただの演出じゃ済まされない。
※※※
一方その頃、修行管理塔の暗い部屋では。
「例の演出者、セレスティア・カイル。ランキング変動は安定せず、観測史上初の“理不尽上昇”と記録されました」
「……面白い。努力をせず、努力を見せかけて、そして神と崇められている」
カルマ・ゲイン――努力を絶対視する秘密組織《修律会》の幹部は、うっすらと笑った。
「ならば“信仰された演出”が力になるのなら、それごと折ってやろう。幻想を――潰す」
静かに、確実に、次なる波が迫っていた。