カイルに憧れる少女
炎印祭が終わってから、三日。
俺の元には、信じられない数の手紙と献上品が届くようになっていた。
「これは……お守り? しかも火の鳥型……」
「御加護をくださいって書いてあるものもありますね……」
リィナが困ったように手紙を束ねながら、小さく首を傾げる。
王都では、演出修行を信仰に昇華しようとする動きが広がっていた。
【魔晶SNS】
「カイル様の演出は、きっと心の浄化作用がある」
「火の鳥を見て、子どもの発熱が治りました!」
「信じていれば、いつか空を飛べるようになる気がします!」
信じてくれるのはありがたい。けど――これは明らかに、過剰な信仰だ。
俺がやりたいのは、「信じられる演出」であって
「神になりたい」わけじゃない。
でも……止められないんだろうな、これは
そんなときだった。
「カイル様……!」
控室の扉を勢いよく開けて入ってきたのは、少女だった。
歳は十五、六。真っ白な修行服に、胸元に火の鳥の刺繍。
どこかで見覚えのある――いや、SNSで何度か見たことがある。
「えっと……君は……?」
「わたし、ノア・フェルシアと申します!」
彼女は、きらきらと瞳を輝かせながら名乗った。
「信修派の代表です! カイル様をこの時代に降りた神として崇めています!」
俺とリィナは、顔を見合わせた。
「信修派……?」
「はい! SNSから始まった信仰グループです! 演出修行を通じて、心の鍛錬と世界の浄化を目指す団体です!」
「待ってくれ、俺は神じゃないし……」
「ご謙遜を! 神とは謙虚なものです!」
「違うって!」
話が通じない。
だが、彼女は真剣だった。
「わたしたちは、ただ信じたいんです。火の鳥が照らしてくれる明日を。カイル様の修行が、正しい未来を導いてくれると信じているから……!」
その目は、疑いのない信仰の色をしていた。
※※※
夜、リィナと二人で歩きながら、俺は深くため息をついた。
「信じてくれるのは嬉しい。だけど、あれは……」
「信仰ではなく、依存になりかけてます」
「そうだよな。……どうすればいいんだろうな、これ」
「いまのカイル様には、信頼を育てる責任があります。だから、神ではなく、導き手として……自分の言葉で伝えるべきだと思います」
リィナの言葉に、俺はうなずいた。
「……うん。明日、ちゃんと話してみるよ。あの子と」
信じられていることを、どう応えるか。
俺は――演出だけじゃなく、言葉でも、伝えるべき時が来たのだと感じていた。