炎印祭「最終ステージ」
炎印祭――修行演武大会、最終ステージ。
それは、選ばれし八名の修行者たちが、公開の場で技と信念をぶつけ合う、
文字通り「修行界の頂点」を決める舞台だった。
そして今――俺は、そのステージに立っている。
大観衆が埋め尽くす《聖紅炎競技場》。
十万を超える魔晶視聴が中継され、SNSでもトレンドが連続更新中。
【#カイル様決勝入り】
【#信じる演出VS全力修行】
【#カイルの信炎バズる】
場内には実況用の魔声拡散装置が設置されており、
解説席には各国の修行官たちが並んでいた。
「次戦、第一試合――!」
「カイル ・セレスティアVS レルナ・ファーニス!」
場内が揺れるような歓声に包まれる中、俺は中央の舞台へと歩を進めた。
※※※
「やっとここで、戦えるのね」
正面に現れたのは、銀髪の少女――レルナ・ファーニス。
トランゼリア自治区の代表であり、鉄腕巫女の異名を持つ実力者。
初対面の時、彼女は俺にこう問いかけた。
「あなたの演出は、本当に人を強くするの?」
あのとき、俺は答えた。
信じてくれる人がいるなら、それは本物になる、と。
今、あらためて――この戦いで、それを証明する。
「いざ、尋常に……参る!」
※※※
演武開始。
レルナは一気に詠唱を終え、空中に五重の鉄輪陣を展開。
そこから腕を通じて、質量のある鉄の気が拳にまとわりつく。
《術式:練鉄導式・陣轟拳》
「行くわよ――真拳・鉄血崩!」
衝撃波のような打撃が飛ぶ。
俺は回避しながら、すぐに演出を起動。
《修行演出:信炎・自己顕現 第二式》
背後に浮かぶ炎の修行者が、俺の動きと同調し、地を蹴って飛び込む。
その瞬間、観客の歓声が爆発する。
「きた! カイル様の炎演出!」
「二式!? 前より動きが滑らかになってない!?」
レルナと俺――衝突。
火と鉄が激しくぶつかり、空中に火花が散る。
数手交えたのち、二人は距離を取った。
「やるわね。前よりずっと意志が強くなってる。演出が、演出の枠を超えてる……そんな感じ」
「お前の拳もすげぇ重い。だけど俺の炎は、誰かの想いでできてる。だから折れねぇよ」
「だったら――もっと本気でぶつかりなさい!」
※※※
試合は熾烈を極めた。
レルナは鉄の陣を自在に操る技巧型の修行者。
その拳は演出に頼らず、純粋な鍛錬と努力で形作られたものだった。
だが俺の演出は、観客の信頼を得ることで、次第に力を増していった。
《信頼共鳴・区域補正:+12%》
《演出持続率:上昇中》
「……ありがとな、みんな」
拳が火をまとい、俺の炎修行者が敵の陣を突き破る。
レルナが叫ぶ。
「そう、それよ! それが見たかったの!」
拳と拳がぶつかる。
鉄と炎が、互いに譲らぬ想いを燃やして――
最後の一撃。
俺の信炎拳が、レルナの鉄陣の中心に穿たれた。
演出が砕け、レルナの姿が空へと弾け飛ぶ――
「勝者――カイル・セレスティア!」
競技場が歓声で揺れる。
その中、レルナはゆっくりと起き上がり、笑っていた。
「完敗。だけど、納得したわ……あんたの演出は、ただの光じゃない。人の想いだ」
「ありがとな」
俺は、拳を差し出す。
レルナは笑いながら、それを拳で返した。
※※※
控室に戻ると、リィナがすぐに駆け寄ってきた。
「すごかったです、カイル様!」
「いやー、マジでギリギリだった……本気で殺されるかと思った」
「ですが、演出の精度がまた一段階上がっていました。特に後半、観客の共鳴に応じて自己顕現が半自律化していたようです」
「マジか……そんな進化してたのか」
演出が、意思を持ち始めている。
まるで、自分の感情に共鳴して動くもう一人の自分みたいに。
「次の試合もこの調子で……」
「――いや」
俺はリィナの言葉をさえぎった。
「次は、今までと全然違う戦いになる気がする」
控室の端。
窓の外のステージには、仮面の修行者が立っていた。
彼の名は《ユリウス・シェイド》。
かつて、修律会の鏡の刺客を統括していた影の使い手。
そして、演出を否定し、純粋な恐怖を力に変える男。
――次回、決勝戦。