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新たな刺客

 炎印祭――初日の演出演武が終わってから、まだ半日も経っていない。


 だが、王都はもちろん、各都市の修行者たちが使う魔晶SNSソーデリアボードでは、既に熱狂が広がっていた。


【速報】カイル様、信炎鳳翔陣で「信」の字を空に描く!神か!?

 →マジで泣いた

 →演出でここまで心動かされるのはじめて

 →あれって本物?熱、届いたって言ってる人もいたけど


【疑問】演出って実体化するものなの?

 →演出進化型スキルって噂は本当だったんだな

 →ぶっちゃけ修行じゃないよね、でもすごいから悔しい

 →結局「信じる者は救われる」ってこと?


 賛否はある。むしろ、批判もある。

 だが、それすら含めて、注目されているということだった。


 ※※※


「すごい、ですね……」


 演武翌日、リィナが控室でSNSの投稿を眺めながら、ぽつりと呟いた。


「炎印祭の公式ボード、トレンド入りしてます。演出修行ってあり? が一位です」


「ありとかなしとかじゃなく、もう文化として生まれてるだろ、それ……」


 俺も覗き込むと、関連タグが並んでいた。


 #ズルくて本物

 #信じる修行

 #火の鳥の温度は嘘じゃない


「火の鳥の温度って何だよ」


「実際に熱を感じたって人が続出してるらしいです。

 炎印祭の監視者や参加してる人達も演出が幻術の域を超えていると記録に残していました」


 ……俺のスキル、どこまで進化するんだよ。


「そういえば、その参加者について気になる事があったんだよな」


 前回、前々回とこの祭りで優勝をしている修行の申し子――クリス・ダルフォードの姿が見えないのだ。

 彼とは対決して以来会っていない。

 せっかくだし、また会って話をしたいなと思っていたんだが……何かあったのだろうか?


 それともう一つ。参加者の中に《修律会》の人間がいたのだ。

 奴等は表舞台には姿を現さない。

 しかし、やはり組織である以上、大衆に知名度をあげるために、脚光を浴びなくてはならない人材も必要だ。

 その名はユリウス・シェイド。

 圧倒的な修行の力を持つ男。

 これまで相手した《修律会》の中でも一際目立つ存在。

 俺は彼がこの組織のボスなのではないかと思っている。


 それともう一つ。俺そっくりの修行をしている男がいた。以前にもこんな事があったが、あの時とは違い、ちゃんと人間が俺の修行を模倣していた。

 奴は何者なんだ? 《修律会》なのか?


「気になるといえば、参加者の中に全身を真っ黒な布で覆って顔の下半分にマスクを付けてる不気味な人もいましたね」


 ああ。確かにいたなそんなやつも。


「変わった連中が多すぎる。みんな不審者みたいなものだ。困ったものだな」


 そんな風に軽く肩をすくめようとしたそのとき――


 コン、と控室の扉がノックされた。


 顔を出したのは、大会運営の女性スタッフ。


「失礼します、カイル様。特別観覧者の方から、対面の申し出がございます」


「誰だ?」


「修律会・正規代表、とのことです」


 空気が、変わった。


 ※※※


 場所を移されたのは、大会関係者しか使えない静かな応接室だった。

 そこにいたのは――長身の青年。全身を漆黒の布で覆い、顔の下半分に鏡のようなマスクをつけていた。


 リィナが不気味な人と言ってた奴だった。

 まさかこいつも《修律会》だとは。

 どうやら、只者でなさそうだ。

 何故なら、その姿を見た瞬間、俺のスキルが警戒反応を出したからだ。


 《警戒:異常魔力干渉感知・対象:鏡属性/強化演出系・類似反応なし》

 こいつ……今までの敵とはレベルが違う


「初めまして。カイル・セレスティア様。私は《修律会・第七観測室》より参りました。名を、〈メノ・クリュオス〉と申します」

「修律会ってことは、俺の演出を否定したいわけか?」

「正確には、演出が信頼を支配し始めたことに、興味があるのです」


 鏡の仮面の中で、彼の瞳がわずかに笑ったように見えた。


「貴殿の力は、信頼によって強まる。ならば、信頼が壊れたとき、どうなるのか。――それを、見てみたい」


「試す気か?」


「明日、貴殿との実践修行試合を申請しました。形式は通常演武、審査官による判定付き。このまま断れば……逃げた修行神として、世論は貴殿から離れるかもしれませんね」


 静かに、緩やかに。だが確実に、喉元に刃を突き付けられた感覚だった。

 リィナが言葉を失っていた。

 俺は――一拍、深呼吸して、答えた。


「上等だよ。予選が始まる前の余興として、お前と遊んでやろう」


 メノはそれだけ聞くと、無言で立ち上がり、仮面の奥で静かに告げた。


「明日、鏡の下でお会いしましょう。カイル・セレスティア――本物の火を、拝見します」


 ※※※


 その夜。

 魔晶SNSには再び、激震が走っていた。


【速報】修律会、カイルに公開試合を挑む!?

 →マジかよ……修律会が表に出るの初じゃね?

 →大会本番前にこんな対決して良いのか? 大会そのものが霞んじまうぞ!?

 →明日の演武、世界中が見るぞこれ

 →信じてる。信じてるけど……勝てるのか、カイル様……


【分析】演出だけじゃ、修律会の本格派には勝てない?

 →否。信頼とは火だ。カイル様の火が本物である限り、燃え尽きない。


 明日、俺は試される。

 信頼も、演出も、そして――自分自身も。

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