修行バトル勃発 カイルvsクリス
王都・中央演武場。
高台に設けられた修行専用アリーナには、既に千人以上の観客が詰めかけていた。
今日の目玉はただ一つ――《修行神》と《修行の申し子》の公開修行対決である。
【カイル・セレスティアvs クリス・ダルフォード】
形式:同時修行演武
勝敗判定:観衆の「信頼度」投票によって決定
これまで修行スコアランキングの頂点に君臨していた俺、カイル。
その背中に違和感を持ち続けてきた男、クレス。
民衆の信じる力がどちらに向くかで、勝敗が決まる。
けれどこれは、ただの勝負じゃない。
――俺自身が、俺の修行を「信じていいのか」を証明する戦いでもある。
※※※
「始めよう」
クリスが木剣を構えた瞬間、演武場に風が走る。
その足元には五重の集中魔方陣。踏みしめるたびに、その動きが魔力波動を生み出していく。
まさに実力者の修行。見惚れるほど美しい、王道の努力。
「うおお……! 本物の鍛錬演武だ……!」
「正統派すぎて泣きそう……!」
観客が息を呑む中、俺は……深呼吸した。
たった一度、長く、静かに。
「じゃあ、こっちも――いくか」
《修行演出:真・演出モード信炎舞起動》
足元に火輪。周囲に虹色の風。
背中には、かつて一度だけ実体化した炎の翼が、仄かに揺れていた。
俺の動作は――ただの呼吸と、緩やかな拳の振り。
でもその動きに合わせて、周囲の空気すら“修行の波”に染まっていく。
舞っていた鳥が空を止め、観客が一瞬言葉を失う。
たしかに、クレスの修行は本物だ。
だが、俺の修行は“見せる力”がある。
そしてその力は――信じてくれる人たちに向けて放たれている。
※※※
演武が中盤に差し掛かった頃。
リィナが、観客席の端で手を組んで祈っていた。
「……信じてる、カイル様。あなたの修行が、誰かを救っているって……!」
その声に、スキルが反応する。
《信頼値上昇――信炎共鳴:第二段階へ移行》
俺の背後で、炎が形を変えた。
炎鳥――あの幻だったはずの存在が、まるで生きているかのように大空を羽ばたいた。
「お、おい見ろよ……あの鳥、さっきまで幻だったのに……!?」
「熱……こっちまで届いてる……?」
「演出じゃない……本物になりつつある……!」
観客がざわつく。
そのざわめきが――信頼値として可視化されていく。
現在の信頼スコア
クリス・ダルフォード 540票
セレスティア・カイル 620票
差は、まだ小さい。
でも確かに、演出が信じられていることを、目で見て分かる形になっていた。
(これが、俺の修行か……)
ズルから始まった。
座ってるだけだった。
でも、誰かが信じてくれた。それに応えたくて、一歩ずつ動いた。
今は、ただの演出じゃない。
「これが……俺なりの努力だッ!!」
叫びとともに、最後の動作を振り切る。
炎鳥が天へと舞い上がり、空に花火のような光の輪を描いた。
※※※
そして、審査の時。
魔晶投票板に、最終結果が映し出される。
最終信頼スコア
クリス・ダルフォード 1185票
カイル・セレスティア 1327票(+演出信頼補正)
「勝者――カイル・セレスティア!」
歓声が爆発する。
でも俺は、それよりも――目の前のクレスの視線を受け止めた。
「……俺のこと、まだズルいと思ってる?」
「……ああ。炎の鳥が出てくる修行なんて聞いたことないよ」
そう笑い、クリスは手を差し伸べてきた。
「だが、お前はズルいまま、本物になろうとしている」
握手を済ませると、クリスは木剣を肩に担ぎ、静かに笑った。
「俺のやり方と、お前のやり方。きっと、どっちも間違ってないんだろうな」
認めてくれた。
憧れを抱いていた人物が
俺とは違う本物の努力家が
俺の偽物を認めてくれた。
それが妙に嬉しくもあった。
「クリス。演出に頼らず、愚直に鍛錬を積んでる君の姿勢に、俺はずっと憧れていた。俺よりも君は凄いよ」
「そうか。また会おうぜ、同志よ」
そう言って去っていく背中が、少しだけ頼もしく見えた。
※※※
控室で待っていたリィナが、俺の顔を見るなり駆け寄ってきた。
「……カイル様!」
勢いよく抱きつかれて、俺はたじろぎながらも笑った。
「ありがとう。信じてくれて。俺、ちょっとだけ……自分のこと、信じてみたくなったよ」
それは、修行神カイルの新たなスタートだった。