6
ののかが「暑い! 疲れた! もう歩けない!」と癇癪を起こしてからは、統吾が背負って歩いた。余りの暑さにスマホを確認すると42度だった。遠くの景色が歪む。
大きな公園が見えてきた。ワックスをかけたようにツヤのある滑り台とブランコがある。それらの近くには大きな噴水がある。まっすぐ伸びる歩道の先には、巨大なスタジアムが聳え立つ。緑色の壁は草木に覆われ、屋根は透明なドーム型をしている。
「早く! 早く!」
ののかは興奮した様子で、統吾の肩を揺する。
統吾も一気に色めき立つ。撮影したら、ばえるに違いない。
どこからともなく、男の声が聞こえてくる。毅然とした口調だ。
「こちらは、新人類ユートピア地球共和国です。地球民登録がない方は、これより先には入れません」
統吾はビクッとして辺りを見渡した。声の主が見つからない。
統吾は、ののかを背中から下ろした。
「やばっ……戻った方が良くない?」
「ダメ。ママを見つけるの」
ののかは、仏頂面で答える。
統吾は腕を組んでいたが、恐る恐る左足を前に踏み出す。安堵の息を吐くと次に右足を動かした。
爪先に強い電流が流れ、統吾は「ギャーー」と叫び尻餅をついた。「進入禁止」「WARNING」と赤字で書かれた立体映像が現れた。映像が左右に長く連なり、壁のようになっている。
またしても男性の声がする。
「繰り返しお伝え致します。地球民登録がない方は、これより先には進めません。更なる侵入を試みる場合は人体に危険な電流を流します。地球民登録の手順はインターネットからご確認ください」
「統吾、どうしよう」
後ろを振り向くと、ののかは溢れんばかりの涙を目に溜めている。
「無理ゲーだろ。これ。」
統吾は全身を震わせた。
突然、耳をつんざく怒声が聞こえる。二人は反射的に手で耳を覆う。
「新人類ユートピア地球共和国は、脳内チップと人類最適化プログラムの義務化をやめろ!」「人類最適化プログラム非適応者への人権弾圧や排除をやめろ!」
スタジアムに向かい大人数のデモ隊からシュプレヒコールがあがる。
デモ隊の頭上には巨大な立体映像があり同じ内容が書いてある。デモ隊員達はメタボ体形や白髪の中高年が多く「反UTOPIA」と書かれたヘルメットやゼッケンを身につけている。
デモ隊の行進も壁に阻まれる。どうするのだろう。