表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/10

5

 ペットボトルの水を飲む度、白湯を飲んでるようだ。口内が生暖かい感覚に包まれる。遠くの景色は陽炎(かげろう)で歪んでいた。諏訪湖はこんなに暑かったろうか。

 

「そうか!」

 統吾は膝を打った。

 2026年では、ブラックホールは数日前から夕方に現れていた。今は2076年で、五十年と十二時間後だから、明日の夜明けにまた現れる計算になる。

 再びブラックホールを抜けると2026年に戻れるはずだ。右手で小さなガッツポーズをした。

 

 ハムスターの立体映像が終わった。ののかは、笑顔でベンチに座りながら、膝から下を前後に揺らしている。

「ののかちゃん。ママを探しに行こうか」

「やった!行こう、行こう!」

 ののかは、右の拳を何度もを突き上げる。

「俺さ、明日の夜明けに帰るから、それまでにママを見つけるね」

「統吾が帰るの? どこに?」

 ののかが不思議そうな顔をする。

「元の時代の2026年」

「どうやって?」

「黒い穴を抜けて」

 ののかは戸惑い、しばし沈黙した。

「帰る前にちゃんとママを見つけてよね」

 急に険しい顔になりキッパリと言い切るののかに、統吾は「わかった。わかった」と愛想よく頷いた。


 ののかからスマホと教えてもらった透明な電子機器に、統吾は話しかける。

「ののかちゃんのママはどこにいる?」

 スマホからさっきの女性の声が聞こえてくる。

「諏訪湖研究所の開所セレモニーに行ってください。ママはピアノ演奏者として参加されます」

 スマホは答えると、何かのパンフレットを立体で投影する。

 政府が新しく開所する何かの研究開発の拠点のようだ。統吾がタップすると地図が拡大した。

 会場はここから四キロ離れた場所にある。ののかを連れて歩いても二時間以内だろうか。三時間後の開始時間に十分間に合う。セレモニーを撮影し、ののかを母親に引き渡してから、2026年に戻ろう。

 

 有名インフルエンサーになれる「ワンチャン」きた。セレモニーの様子をインスタグラムで配信するのが楽しみすぎる。


 明るい表情をした統吾とののかは、古びたベンチを降り、木陰を出た。統吾は思わず水平に開いた掌で、目に降り注ぐ陽光を遮った。

 統吾の後にののが並び、雑草を踏みわけ進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ