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流線型をしたガラス張りのビルが建ち並んでいる。長らく修繕や清掃がされていないようだ。ガラスにはヒビが入り、埃で汚れている。低層階にはツタが絡みついている。
道路は穴が空いたり、亀裂が入ったり、雑草が生えたりしている箇所がいくつもある。深い森の中にいるような静けさだ。土と苔の混ざった香りがする。
統吾が呆然と立ち尽くしていると、隣に立つののかが「かわいい!」と遠くを指差した。数匹の鹿が歩いている。
ののかが追いかけようと道路を横断し始める。統吾は「ダメ! ダメ!」と、勢いよく、ののかの両肩を掴む。
「この街、「オワコン」じゃん。入ったらヤバいって」
「「オワコン」って何?」
ののかは統吾の方に向き直ると首を傾げた。
「なんて言えばいいかな。要するに、危ないんだよ」
「鹿さんを見るの!」
ののかは、むしゃくしゃした様子で言い放つと再び歩き出した。
「ののかちゃん、この街に入ったら何があるかわからないからダメだよ」
統吾は膝を折り、ののかに視線を合わせた。そして、両腕をクロスして「絶対にダメ!」とはっきりとした口調で伝えた。ののかは視線を上に向け、頬を膨らませた。
統吾は、急いでブラックホールがあった草むらに戻ることにした。二人は雑草を踏み分けた隙間を再び進む。
少し歩いた所で、統吾はいきなり手を叩いた。
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統吾は、怪訝な顔をするののかを「街の様子を見てみよう」と誘った。
統吾は、ピンチをチャンスに変えた機転の良さに笑いが込み上げてきた。
iPhoneで街並みを撮影をしながら、もう片方の手をののかと繋ぎ、道路沿いに移動する。決して街に踏み入ろうとは思わなかった。
少しするとコンビニが見えてきた。人気がなく店内は薄暗かった。棚に商品が置かれていない。窓のポスターには「移住期限は2069年12月31日まで。以降はこの地区には住めなくなります」と書いてある。
統吾の顔面が瞬時に引きつる。
「やばっ……そろそろ元の場所に戻ろうか」
「うん。その後にママを探してよね」
ののかは不安そうに統吾を見上げた。
二人は元の場所に引き返してきた。
ブラックホールは跡形もなく消えている。
さっきとは打って変わって気温が上がってきた。日光が眩しい。蝉の声が響き渡る。