悪魔さん
「ではその願いを叶えてやろう。対価を持ってこい」
その言葉を聞いて少女は安心したようにため息を吐き、電話を切った。そしてごめんなさい、ごめんなさいと何度も謝りながら、母親が大切にしているネックレスを持ち出して家を出た。
そのまま少女は街灯が薄く照らす夜の街を走り、近所にある人気のない寂れた神社へと向かった。
『真夜中にとある電話番号へと電話をかけると悪魔に繋がり、願いを叶えてくれる』
そんな噂がいつからあったのかは分からない。
だが、気が付けば少女の通う学校では知らない人がいないほどに広まっていた。
よくある怪談話の類だと思ってた。興味もなかった。
だが、母親が事故に遭って入院したことで居ても立ってもいられなくなった少女はこの噂に縋り付いた。
真夜中に電話をかけてみれば、噂の通りに年齢も性別も分からない不思議な声に用を問われた。
「お母さんを治してほしい」
少女の言葉に声は願いを叶えようと答えた。代わりに対価としてなにか価値のあるものを、少女の家の近所にある神社へと持ってこい、と続けた。
だからこそ少女はいま夜の街を駆けて神社へと向かっていた。
そして神社へとたどり着き、こわごわと鳥居をくぐった少女は、握り締めていたネックレスをどこへ置こうかと思案する。
すると、先ほど電話を通して聞こえてきたあの不思議な声が聞こえてきた。
『賽銭箱にでも置けばいい』
少女は怯えながらもその言葉に従い、そしてもう一度「お母さんを治してください」と言った。
「お願いします、悪魔さん」
しかし声はもう応えず、神社は静まり返っていた。少女はしばらくそこにとどまり続けていたが、やがて返事はないのだと判断して家へと帰っていった。
少女が帰ったあと、神社に住んでいる古狐が幾つも生えてる尻尾を振りながら姿を現して賽銭箱からネックレスを取り出し、独り言を呟く。
『やれやれ。昔は神様、神様と持て囃されてたが、いまでは悪魔か。人は勝手だね』
このネックレスを売ってなにか美味いものでも食おうと考えながら、狐は少女の母親が入院している病院の方へと顔を向けると、口の中で治癒の呪文を唱えた。
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