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第7話 因縁の真実

マルギットの思いと覚悟を確認したポルデュラは王家とラドフォール公爵家のみが知る因縁の真実を話しはじめた。



今から100有余年前、シュタイン王国が建国して間もない頃、エステール伯爵家騎士団に古より王国に伝わる英雄、伝説の騎士青き血が流れるコマンドールの再来と謳われた騎士がいた。その騎士がセルジオの名を初めて名乗ったことから初代セルジオと呼ばれている。


エステール伯爵家は、王家、ラドフォール公爵家と共にシュタイン王国の礎を築いた家名だった。


当時のシュタイン王国貴族騎士団は、隣国との調整から十字軍の要請による遠征、国内整備まで、本来の騎士の役目以外の事柄にも従事していた。統制が取れているエステール伯爵家騎士団は国内外からの評価が高く動くだけでその名声は上がっていった。


一方、マデュラ子爵家騎士団は勇猛果敢であるものの統制が取れていないことから武功も上がらず評価も上がる事はなかった。


この時のエステール伯爵家騎士団団長が伝説の騎士青き血が流れるコマンドールの再来と謳われた初代セルジオだった。そして、マデュラ子爵家騎士団団長が赤い髪、緋色の瞳をしたギャロット。


ギャロットはいつしか初代セルジオへ嫉妬という私怨を膨らませていった。


私怨は憎しみへと増長されていく。その憎しみが頂点に達した時、初代セルジオの大切にしている者達を巻き込みだまし討ちにした。



ポルデュラはここまでを一気に話すとマルギットの体調を気づかう。


「マルギット殿、大事ないか?気分が優れない様であれば直ぐに申すのじゃぞ。そなたの中にいるもう一人のマルギットが現れるやもしれぬからな」


マルギットは静かに呼応した。


「ポルデュラ様、大事ございません。お続け下さい」

「承知した。身体に違和感が現れたなら直ぐに申すのじゃぞ」

「はい、承知しました」


マルギットの言葉にポルデュラは話しを続けた。


「ここまではシュタイン王国の誰もが知っていることじゃ。伝説の騎士青き血が流れるコマンドールをはかりごとにかけたマデュラ子爵家騎士団団長ギャロットの逸話いつわじゃ。ここからエステール伯爵家とマデュラ子爵家の因縁が始まったとされている」


ポルデュラは天蓋のベッドの天井をじっとみつめ話しを聞いているマルギットの両手をそっと握った。


「存じております。幼き頃より王家主催の饗宴に出る度に何度も何度も他貴族家より戒められました。裏切り者の家名マデュラ子爵家と・・・・当主として生まれましたからその様に言われることも覚悟をするようにと教育されてまいりました」


マルギットはふっと微笑むと寂しそうな目をポルデュラへ向けた。


「そうじゃな。そなたはよく堪えていたな。我らの力が及ばずすまぬな・・・・」


ポルデュラはマルギットへ小さく頭を下げた。


「滅相もございません!ポルデュラ様に詫びて頂くようなことではございませんっ!」


慌てて身体を起こそうとしたマルギットの身体をポルデュラはそっと横たわらせた。


「いや、我らの責任でもあるのじゃ。100有余年前、黒魔術の使い手だった黒魔女と呼ばれたその当時のマデュラ子爵家当主マルギットを、その魂を黒魔術ごと封印したのは我がラドフォール公爵家の魔導士だったのじゃ」


ポルデュラはここからが王家とラドフォール公爵家のみが知るところだと再び話しはじめた。


「実際に手を下したのはマデュラ子爵家騎士団団長ギャロットじゃった。だがな・・・・ギャロットへ青き血が流れるコマンドールの抹殺をめいじたのは王都騎士団総長じゃ」

「えっ?!」


マルギットは驚愕の顔をポルデュラへ向けた。


「驚くのも無理はない。そうじゃ。マデュラ子爵家もまた王家がシュタイン王国を守るためにあて馬にされたのじゃよ。マルギット殿、よいか。よく聞いてほしいのじゃ。ここからの話でそなたの中のもう一人のマルギットがそなたの身体と心、魂までも乗っ取らんと浮上してくるはずじゃ。


 私はもう一人のマルギットが現れたならその憎しみの感情を鎮静せねばならん。100有余年前に魂は封印された。じゃが、感情は残ったままになっているのじゃ。


 そなたの中の憎しみや恨みの感情が高まれば高まる程、もう一人のマルギットはその感情を糧にする。だが、ここでもう一人のマルギットの感情を鎮静せねばそなたの身体も心も魂をもそなたのものではなくなる。そのこと含んでおいてくれるか?」


ポルデュラは半ば懇願する様にマルギットの両手を力強く握った。


マルギットは驚きのあまり一瞬呼吸が止まった感覚に陥る。しかし、これまでのマデュラ子爵家当主が知り得ずきた事実を己が知る事ができればこの先のマデュラ子爵家への風当たりも緩むのではないかと考えた。


「ポルデュラ様、承知しました。当事者として耳に入れるのではなく、遠い昔の一つの国の話として伺います。さすれば私の感情の揺れを抑えることもできましょう・・・・」


マルギットはポルデュラの手を握り返した。その表情は子爵家を預かる当主の顔だった。


「・・・・マルギット殿、感謝するぞ。そなたのその気概は幼少の頃より何ら変わらぬ。だからこそ、今のそなたを救いたいと思っている。今のマデュラ子爵家当主マルギット殿の魂をな」


スッ・・・・


ポルデュラは椅子から立ち上がるとマルギットの額に口づけをした。


「頼むぞ、マルギット殿」


ポルデュラは再び腰を下すと話しはじめた。



―――シュタイン王国が建国して50年程、未だ王国は内政も揺らいでいた。


王命を王命として受け、責務を全うする貴族の気概きがい規律きりつも確固たるものには程遠かった。そのため、王家とラドフォール公爵家、エステール伯爵家でシュタイン王国を王国たらしめるために奔走ほんそうしていた。


更に周辺諸国との関係も油断できなかった。


国王は考えた。力で、脅威きょういで抑えるだけではこれからの世は、これからの国は治められない。対話と協調していく姿勢が必要であると。


そんな時、南の隣国エフェラル帝国から友好国として手を組まないかと申出があった。海辺をもつエフェラル帝国と友好関係が築ければシュタイン王国にとっても利がある。この上ない話しだった。


早速、シュタイン王国国王からの献上品と書簡をエフェラル帝国へ届け、友好国としての国交を樹立させる準備に入った。


時のシュタイン王国国王第二子である王都騎士団総長ロベールは、エフェラル帝国へ向け、自らが赴くことになると当然のこととして考えていた。ただ、国内も国境線も安全とは言い難い状況で、王都騎士団総長が出向き不測の事態が起これば友好国としての国交樹立どころではなくなる。


そして、王国貴族騎士団と王都近衛師団を統括する王都騎士団総長が不在となれば王都が手薄すになる。この機に乗じて、内紛が起こらないとも限らない。


そこで国王はシュタイン王国貴族騎士団の中でも一番の精鋭せいえいであるエステール伯爵家騎士団にエフェラル帝国への献上品と書簡を届ける王命を下した。王都騎士団総長からではなく国王から直々(じきじき)に。


ところが、国王の真意を知らない王都騎士団総長ロベールは己よりもエステール伯爵家騎士団初代セルジオが王国にとって重要な存在なのだと誤認し国王に疑念を抱いた。


それまでの功績、国王からの信頼、国内外の評価、どれを取っても己よりも目立つ存在である初代セルジオに王都騎士団総長ロベールは嫌悪を露わにした。


しかもロベールは初代セルジオに密かな想いを寄せていた。何度となく初代セルジオに誘いをかけるがあっさりと断わられ続けてきた。己は騎士であり、王国貴族騎士団団長であるからいくら王都騎士団総長の話であっても受け入れる事はできないと。


己の意のままにならないどころか、国王からの信頼も奪われ、このままでは己の身が危ういとさえロベールは考えた。


そんな状態にあったロベールが都城でマデュラ子爵家当主マルギットとたまたま顔を合わせた。


「王国の勇ましき第二王子にご挨拶いたします」


マルギットは深々と頭を下げた。


「・・・・そなたは・・・・」

「はい、マデュラ子爵家当主マルギットにございます」


「おおっ、マルギット殿であったか。あまりに美しく見違えたぞ。面を上げよ」


ロベールはマルギットの赤い髪、緋色の瞳をじっと見つめた。


「・・・・ロベール様、何かご心配事でもおありですか?」


マルギットは微笑みを向ける。


「いや、いいや・・・・心配事など何もないぞ・・・・」


ロベールは少し驚いた顔を向けると下を向いた。


「左様でございますか?ならばよろしいのですが・・・・では、私はこれにて失礼を致します」

「うむ・・・・」


ロベールの横を通り過ぎたところでマルギットは佇むロベールの左横でピタリと止まった。


「・・・・そう言えば・・・・」


チラリとロベールへ視線を向ける。


「うん?いかがしたか?」


ロベールは首をかしげた。


「・・・・いえ・・・・先程、国王に拝謁してまいりました。エフェラル帝国へ向けての献上品と書簡をエンジェラ河を使い届けるとのこと。 エンジェラ河は我がマデュラ子爵家所領にて充分注意をするようにとのお言葉でした。ロベール様が赴かれるのですから当然、我らマデュラ子爵家は万全の態勢で臨む所存とお答えしておきました」


マルギットはロベールへ微笑みを向けた。


「えっ!?父上っ、あっ、いや、国王は我が出向くと申していたのか?」


ロベールはマルギットへ身体を向けた。


「・・・・いえ、ロベール様がとは申されてはいませんでしたが・・・・私が当然のこととしてお伝えしたまでです。なにか?」

「そっ、そうか・・・・国王が申したのではないのだな・・・・そうか・・・・」


両手拳を握りしめ床を見つめているロベールのその姿にマルギットはニヤリと笑った。


「ロベール様?どうかなさいましたか?ロベール様がエフェラル帝国へ赴かれるのが当然ではございませんか?」


ロベールはマルギットの顔を困った表情で見つめた。


「・・・・いや、マルギット殿の申される通り、我も当然のことと思っていたのだがな・・・・今回は、エステール伯爵家騎士団セルジオ殿が赴かれるのだ・・・・」


マルギットは大げさな程に驚いて見せた。


「まぁっ!何と言う事でしょう!国交樹立の王国にとっての一大事に一貴族騎士団が赴くとはっ!国王はなぜ?ロベール様を赴かせることを拒まれるのですか?」


危険を伴うことへの配慮で人選したと拝謁の際に国王から聞いていたにも関わらずマルギットは敢えてロベールが役目から外されたと強調した。


ロベールはぐっと両手拳を握る。


「そっ、それはっ・・・・我よりもセルジオの方が優れているからであろう。今までの功績も騎士団団長としての統率も我には到底及ばないと国王はお考えなのであろう」


ふるふると握る拳が震えている。マルギットはパンッと扇子を広げ、そっとロベールへ近づいた。


「ロベール様、さぞやお心を痛めておいででしょう。たかが一貴族騎士団団長に王家第二王子が役目を奪われるのですから・・・・ご心中お察し致します」


マルギットが上目づかいでロベールを見上げるとロベールは震える拳に力を入れていた。その表情は怒りと憎しみを抑え込む必死の形相だった。


マルギットとフワリッと扇子を揺らした。黒々とした靄がロベールを包み、ロベールの呼吸と共にその靄は身体の中に取り込まれた。


「お悔しいかと存じます。ロベール様、これは例えばのお話しです。どうぞ、例えばこの様な事が起こらねばいいと思っている私目の話にござます」


フワリと放たれた黒々とした靄を吸い込んだロベールは足元がふらついていた。


ガシッ!


マルギットがふら付くロベールの左腕を掴み身体を支えた。


「大事ございませんか?ロベール様?」

「あっ・・・・ああ、大事ない。少し足元がふらついただけだ。そなたの話を聞こう」


焦点が定まらないロベールの瞳にマルギットはニヤリと笑う。


「ロベール様はセルジオ殿に少なからず憎しみを覚えておいででしょう?国王があれほど大切に思われてみえますから・・・・このままではご自身の身も危ういとお考えなのでは?お辛いですね?」


フワリッ・・・・


マルギットはここで扇子をもう一振りした。

先程よりも黒い靄がロベールを包むと鼻から一気に吸い込まれていく。


「ふふふ・・・・どうだ?その想い、我が叶え様ほどに・・・・」


マルギットの口調が突如変わった。


「・・・・」


ロベールは既に瞳に精気が感じられない状態になっていた。


「術にかかっただけだ。安心致せ。さてっ、では、これより我の手足となってもうらおう。大いに憎めばよい、その憎しみが何よりの糧となる。ふっふふふ・・・・


 よいか、ロベール様。そなたは我がマデュラ子爵家騎士団団長ギャロットへ命を下せばよいだけだ。

手を下すのは我が息子ギャロット。あやつは我にとっては使い道がない子なのだ。見た目もさることながら全てが粗暴で忌々しい。


 そのくせ自己顕示欲だけは人一倍強くてな。ロベール様と同じくセルジオに憎しみを抱いている。やっと、我の役に立ち死んでくれるわっ!!」

「・・・・」


マルギットは人形の様に佇むロベールの左腕を支えながらフワリと扇子で風を送り、呪文の様にロベールへ耳打ちする。


「エフェラル帝国へは行かせてやれ。帰路を狙うのだと伝えよ。マデュラ子爵家領内に入った所を野盗に扮して襲えと命じよ。狙うはセルジオただ一人。後は捨ておけと命じればよい。


この後直ぐにギャロットへ使いを出せ。表向きはマデュラ子爵家領内の護衛強化としておけばよい。さぁ、ロベール様。時がきましたぞ。悔しさと憎しみを存分にセルジオへ向けられよ」


ブワァ・・・・


怪しい黒い靄がロベールを包み込むとロベールはコクンと一つ頷いた。



―――「・・・・」


マルギットは、ポルデュラが語る100有余年前に起きた因縁の真実を目を見開き聞いていた。


100有余年前、王都騎士団総長ロベールを黒魔術で操ったマルギットは今のマルギットではないとポルデュラは言い切った。


されど発端は、やはり己の中にいるもう一人のマルギットなのだと絶望に近い思いを抱くと己の胸の奥深くから黒々とした闇が湧き上がってくる感覚をマルギットは抑える事ができなかった。

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