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プロローグ

SIDE:マリア



 わたしは娘のハンナが起きたことに気づき声をかける。


「おはよう」


「……おはよう」


 ハンナは小声で返した。最近はあいさつを返すことが多くなりわたしとしてもうれしく思った。


 続けて考える。

これだけハンナを変えたのはやはりクローラのおかげね、と。






——時は戻り、約一ヶ月前——


 このころ、ハンナはまるで心がないようだった。”自分から話す” や ”自分から行動を起こす” などをまったくせず、言われたことを否定もせずこなすだけの人形になっていた、ということだ。


 わたしはそんなハンナの様子が心配だった。社会的に自立できるんだろうか、人として生きていけるんだろうか、と。


 もうハンナは六歳。貴族でだとお披露目と社交界デビューと言ったところだ。私たちは平民なので関係ないが、いつまでもこのまま放っておくわけにもいかないということはわかるだろう。




 そこでわたしはハンナを連れてクラリの店を訪れた。この店の店主、クラリは古くからのわたしの友人でマリアの相談者だ。昔からわたしの悩みを解決してくれた。今回ももやもやを解消してくれるだろうと信じてクラリに訪ねたのだ。


「で、ハンナちゃんをどうしてほしいって?」


 クラリは飲んでいた紅茶のカップを皿の上に乗せつつ聞いた。


「ハンナの心の声を聞きたいんだけど、できる?」


「あたしはそういう能力者じゃないの。頼むなら別の人にしてよ」


 あきれ顔でそう言い切ったクラリにマリアはムッとする。


「じゃあ、そういうことできる人紹介して……」

「そんな人あたしの知人にはいないよ。残念だったね」


 割り込むように言ったクラリは再びカップを取り、紅茶を飲む。随分と落ち着いているその様子にわたしは少しだけ口をへの字にした。

 ちなみにこの会話のきっかけとなったハンナは、表情を変えず微動だにせず椅子に座っていた。まさしく置物。これが平常運転なのだからマリアが心配に思うのも当然だろう。


変な空気が続く中、クラリは言った。


「あ、でも友達なら紹介できるよ?」


「友達?」


「ええ、ちょうどハンナと同い年の娘がいる人を知っていてね。どうせろくに他人と会話できないあなたにはいい話じゃない?」


「いやそれ普通に悪口だから。どうせとか言わないで」


 クラリがわたしに合わせて「はいはいわかりましたよ」と言ったとき、店のドアが開いて一人の女の子が入ってきた。


「こんにちは!!」


 その子はブラウンのショートヘアで青い目をしたハンナと同じくらいの女の子。はきはきとした大きな声のあいさつが店内にとてもよく響いていた。


 あとからその子の母親であろう人が入ってきた。


「クラリさんこんにちは……あら、お取込み中でした?」


 それに対してクラリさんは、


「いえいえ、むしろなんてちょうどいいタイミングって感じ。さあどうぞこちらに座って?」


 と、わたしの左手側の椅子に誘導した。


「マリア、こちらはアデーラさん。数か月前からあたしの店に訪れるようになった人だよ。そんでその娘さんがあちらのクローラちゃん」


「初めまして、アデーラと申します。あなたは?」


「あっはい、マリアです。こっちは娘のハンナで、……」


 悲しいかな、わたしは人と会話するのに慣れていないので続きになんていえばいいか思いつかなかった。クラリはそれを理解しているのですぐに補足した。


「ハンナちゃんとクローラちゃんは同い年だし、友達になれないかな? って今話していたんだよ」


「ああ、それで『ちょうどいいタイミング』なんですね」


 アデーラさんがそこまで話したとき、クローラはトコトコっとこちらに寄ってきた。珍しくもハンナの視線がクローラを追いかけていて、わたしは少し驚く。


 クローラがハンナの隣で止まると視線をハンナにあわせて言った。


「わたし、クローラ。あなたはなんて言うの?」


「……ハンナ」


「そう、じゃあハンナちゃん一緒に遊ぼう?」


 ハンナは少し不思議そうな様子でクローラを見ていた。クローラはハンナがうなずかないので少しほっぺたを膨らませて言う。


「もう! 一緒に遊ぶよ!」


 するとハンナの手を強引に引っ張って椅子から引きずり下ろし、そのまま連れ去って行った。

そしてこの場には唖然とした空気が残った。


「……クローラちゃんがあんなに積極的だとは思わなかったね」


そのクラリのつぶやきにアデーラも反応する。


「ええ、私もクローラがあんな子だとは思いませんでしたわ」


 クラリはわたしに顔を向けると「これからどうなるか楽しみだね」と言った。





  それから一か月、ハンナとクローラは交流を重ね、互いに家を訪問したりした。そしてハンナはクローラと会うたびに徐々に自分のことを話すようになった。わたしとしては、どうしてハンナの心を開けられなかったのだろうと思いつつ、二人が仲睦まじく遊んでいる姿にほほえましく感じた。





 *  *  *





 今日もハンナを連れてクラリの店へ遊びに行ったが、店に入るとクラリはおらず店員のエルザさんが商品棚の整理をしていた。


「こんにちはエルザさん、クラリはどこにいるの?」


「まだ眠っておられますよ」


 エルザさんはクラリの店の店員メイドだ。一応、娘がいるらしいが住み込みで働いている。一応娘がいるらしいが、誰に預けているのだろうか、と毎回わたしは思う。


「あの人いつまで寝ているの? もう店開きの時間は過ぎているのに」


それに対してエルザさんは少し微笑みながら、


「何やら昨日は遅くまで調べ物をしていたらしいですよ」


と言った。じゃあ寝起きのクラリを驚かそうかな、といたずら心がわいてきた時だった。ハンナが頭を押さえながらわたしの袖を強くつかんだ。


「? どうしたの?」


わたしがそう聞くとハンナは苦しそうに言う。


「痛い……」


「えっ? どこが」


 大体様子でわかるが一応聞く。


「……頭」


 そういった瞬間ハンナは崩れ落ちた。


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