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イアロスの冬

 模擬戦から数か月たち、冬になった。


 イアロスの冬は雪が少なく、寒暖差が大きい・・・・・・らしい。空気はよく澄んでいて焚火もしやすいという気候だ。


 そんなイアロスの冬・・・・・・というよりこの地域の冬には三つの名物がある。それぞれ順番に言っていこう。



 一つ目は霜柱だ。歩くとサクサクと音が鳴って折れるやつである。イアロスの道路は土なので、朝早く家を出ると道路を歩くたびにサクサクとなりとても気持ちがいい。遅くに家を出ると道の霜柱がほとんど折れており、ちょっとまぶしい。もし通勤するときは朝早くに家を出よう。



 二つ目は昼間から夕方にかけておきてしまう必然的なもの、泥だ。朝は霜柱ができてきれいだが、昼間になると、全て溶けて土にしみる。そのまま泥となってしまうのだ。毎日一回は泥にはまって動けなくなった馬車とかがいる。そのせいでこの地域には”泥にはまったから泥から抜ける”魔術が存在するとか。頻繁に泥にはまることが日常茶飯事となっている。



 三つめは火災だ。イアロスの()()()で一日一件の火災が起きている。運が悪ければ一日に五、六件も。今日も朝から向かいの家が燃えていた。みんな慣れすぎているので野次馬も来ない。そして一番の謎だが、()()していたはずなのに翌日にはきれいさっぱり()()()になっている。(第三艦橋かよ)





 *  *  *


 



 家を飛び出して、サクサクとすでにいくつか折れている霜柱の上を歩くとクローラとあった。


「おはよう、ハンナ。今日寒いね」


 がちがちに防寒されている手を擦りながら言った。クローラは厚手のマフラーや重そうなコートを着ている。それに対して私は結構薄手だった。首元も割と露出しているし、手袋もしていない。そして袖口の広い長そでを着ている。


「クローラ、そんなに寒い?」


 そう私が言った瞬間、クローラは私をじっと見た。


「・・・・・・ハンナがおかしいんだよ。あんたこそ寒くないの?」


「うん、そうだよ。家でもお母さんはこんな感じだし、そこまで寒く無くない?」


 そういった瞬間にクローラが引いたように感じた。え? そんなに引くこと?



 今日はライタルたちと遊ぶ。というわけで広場に集まるとなんかすでに鬼ごっこが始まっていた。


「おらおらおら!まてぇぇぇぇ!」←ライタル


「だぁれが待つかぁぁぁぁ!」←フリップ


「・・・・・・」←追われないよう息をひそめるハルトムート


「・・・・・・」←さっきまで追われていて疲れ切っているルッツ


 うん。楽しそうで何より。


「おーい、みんな来たよ~」


 クローラがそう呼ぶとみんながこちらを向く。


「おお、来たか」


 ライタルは走るのをやめ、息をあげながら応えた。


 


「で、今日は何するの?」


 ルッツが、そう聞いたので私は反射的に答えてしまった。


「鬼ごっこでいいでしょ」

 

 実はすでに鬼ごっことは何かをレクチャーしていた。でも教えてからはそればっかりやっている。なんかそろそろ別の遊びをやったほうがいいのではと近頃は考えていた。だから反射的に鬼ごっこでいいでしょと言ってしまったのは失敗だと思ったのだ。


「ほかにないしそれでいいか」


ライタルがそう言うとみんながうなずいてしまったので今日も鬼ごっことなった。ほらこうなるでしょ? 楽しいからいいけど、次は別の遊びができればいいな。









「ハア・・・・・・ハア・・・・・・最近さ、ハンナちゃんつかまってないよね?」


 鬼ごっこが終わり、ちょっと休憩している時にフリップは言った。続くようにライタル、ハルトムート、クローラが言う。


「確かに捕まえられる時が少ないよな」


「今日は一回捕まえたよ」


「ハンナが鬼になることも多いしそう感じているだけなんじゃない?」


 クローラの言ったことにピクッと反応したルッツが言った。


「ハンナが鬼になったときはオレたちをめちゃくちゃ捕まえるよな。こういうのを無双っていうんだっけ」


 そんなに私強いの? 私の中では八歳の男子三人が一番強く見えるけど。とくにハルトムートの策略(?)に何回ひっかけられたことか。


「結局この中で一番足が速いのって誰?」


 フリップがそう言うとライタルと私に二票、ルッツに一票入った。


「いやなんで私?絶対違うでしょ!」


そんなむなしい私の叫びは放置され、この場はお開きとなったのだ。




 *  *  *




「・・・・・・ということがあったんだよね」


 家に帰り、お父さんとお母さんに先ほどまでの出来事を話した。帰ってきた回答は両者そろって「「まあ、当然だよね・・・・・・」」とのこと。


 へえ、当然なんだ・・・・・・。なんで?


「でも、ライタルとかルッツは私より二つ上なんだよ?当然ってどういうこと?」


「う~ん、なんていえばいいか・・・・・・」


 お父さんは少し考えた後、お母さんの方を向いた。それが何かの合図のようにお母さんは言った。


「・・・・・・血統かな」


 血統? つまり私はどこかの貴族とか下手したら王族とかの血を持っていたりするってこと? でも身体能力とは関係ないよね。どういうこと? あ、いつぞやの英雄の末裔とかありえそう。

 

 私は血統という一つの言葉により、爆発的にさまざまな考えが浮かび、消えていた。そんな私に構うものかというタイミングでお母さんは私に言った。


「それと、今日の夜は外出するから準備しておいてね」


「え、外? 夜に?」


「うん、必要なものはないよ。寒さだけは対策しておいてね」


軽いノリで言われたのになんか重要そうな内容というギャップに混乱し、私はあっけにとられた。

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