ライタルと
「いつかは会うと思っていたが、こんなに早くだと思わなかったな」
ライタルと対面した時の最初の言葉はそれだった。
「そうだね、こうやって手合わせすることも含めて」
一拍おいて私はつづける。
「なんかめっちゃカオスなことになったし、初めてだけどよろしくね」
「・・・・・・ああ」
会話に一区切りついたので開始線に立つ。
「礼」
「「お願いします」」
再び頭を上げ、ライタルと目が合うと、ピリッとした空気が一帯に広がる。
さっきまではまあまあ短いかなと思ったこの間が、今ではとても長く感じられた。
「・・・・・・始めてください」
すぐにライタルは周りから魔素を集め、1秒足らずで《火球》を撃ち込んできた。《対魔防盾》を展開する時間なんてなかったので右に体をひねって伏せつつよける。
耳元でブォォォンとすさまじい音が通り過ぎていく。しかも普通に熱い。耳焼けるかと思ったじゃん。鼓膜破れなくてよかった・・・・・・。
反撃で《法弾》を撃とうとしたものの構築はライタルの方が早い。しょうがないので右に飛んで避ける。
・・・・・・これさ、防御するより、避けた方が早くね?
私はライタルの右を大回りするように走る。やはり動くものに当たるのは難しいらしく、だいぶ攻撃がばらついている。
もちろん走って避けるばっかで引き分けるのもいいがそれは色々とよろしくない。またそのうち偏差が合ってきて危なくなるだろう。少なからず牽制は必要だ。
そんな時に役立つのが戦車で使われる跳進射撃だ。目的は違うが、効果はあるだろう。
やり方は簡単、攻撃するタイミングで減速または止まり、攻撃後また走るという事だ。本来の目的は命中率を上げるために止まるのだが、今回は偏差をかき乱すという意味もある。
と思っていたものの意外と対応するなライタル。まあまあ危ない攻撃あるぞ?
しばらくは、急減速・急加速・急転換を繰り返した。たまに本当に当たりそうな攻撃を避けて避けて避けて、たまに撃って。
突然結界が割れた。
「・・・・・・は?」
それは顔に飛んできた《風弾》をぎりぎりで回避した瞬間のことだった。左耳にもあたってないし、どういうこと?
「継続!!」
高らかに審判が言う。いやその前に割れた原因教えて?
しょうがない。とりあえずライタルの結界一枚を取らせてもらおうか。
私はタンッとライタルに向けて一歩を踏み出し、駆け出す。次々と攻撃が飛んでくるけど、全部かわす。
空中に飛んだら、細かい動きができないので、できるだけ地べたをぬるぬる滑るように肉薄した。
ライタルの正面で瞬間的に停止、すぐに加速しライタルの背後をとる。
ライタルはこの動きを鬼ごっこで何回も見せているのですぐ対応されるだろう。ただ、この瞬間は完全に一枚割れる状況だ。
「あ」
術式組むの忘れてたわ。
急いで準備するものの間に合わず、攻撃するチャンスタイムは終了。ライタルはすでにこちらを攻撃しようとしていた。
「終了!!」
ふう・・・・・・。あっっっぶなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!(ゲシュタルト崩壊注意)
いや、まあ負けてるんだけどね。やっぱり二枚割られるより、”時間いっぱい戦いました”のほうがいいじゃん?
というわけで結果発表。
ルカ ・・・・・・2:1 勝ち
クローラ・・・・・・0:2 負け
エリサ ・・・・・・1:1 分け
マリオ ・・・・・・2:1 勝ち
私 ・・・・・・0:1 負け
—————————
合計 2勝 2敗 1分け
結界割った数5:6
はい、私たちが負けました。まあルカとマリオが圧勝出来たら勝てたということですね。(責任転嫁)
* * *
——サウバー視点——
「本日は、模擬戦をしていただき、ありがとうございました」
俺はタロワさんに頭を下げた。
「いえいえ、毎年恒例の模擬戦以外で戦うことが少ないので対戦できたのは僥倖ですよ」
毎年恒例というのは遅い春の時期に行うこの地域だけの試合だ。この過疎っている所ではこの試合以外で戦うことはめったにない。今回の模擬戦は双方にとって益となるものだった。
「それにしてもタロワさんのオーダーがかなりぴしゃりとあっていてビックリしましたよ」
「今日はたまたまですよw いつもはこっちが外す側なんですかけどね」
そうコロコロ談笑しながら、我々はハンナたちの模擬戦を見ていた。
「サウバーさん、あの子すごいですね。申し訳ありませんが、サウバーさんの所の教え子はあまり印象に残らない人が多いなと思っていました」
・・・・・・なんかそういわれると悲しくなるな。まるで俺の教え方が悪いみたいじゃないか。
そういう風にタロワさんの発言にちょいちょい思ったことを心でつぶやきつつ、タロワさんの言葉に耳を傾ける。
「でもあのハンナっていう子、まさか本当に全部避けちゃうなんてすごくありません?」
「あの子、実は始めたばかりなんですよ」
タロワさんは相づちを打った。
「道理で術式の組み立てが遅いなと思いました。あれはよくある”避けたほうが良いのでは?”という考えに陥っていますよね」
魔術の初心者に起きやすい考え方は ”防御一辺倒” もしくは ”よけたほうが早い” だ。前者は ”防御を破壊される” 後者は ”避けきれない” でこの考え方はすぐに崩される。
で、ハンナはなぜか全部しっかり避けている。これで彼女のおかしさが伝わるはずだ。
「うちのライタルと張り合えてるし、あの子に俄然興味がわきました。かわいいしもらっていいですか?」
その問いかけに俺は笑って吹き飛ばした。
「ははははは、うちの教え子ですから簡単にあげませんよ?」
あとこの人の本音は ”かわいいから欲しい” にしか聞こえなかったので、なおさらあげる気にならなかった。
この話で使用した魔術を紹介
《対魔防盾》簡単に言うと魔術を防ぐ盾。魔術戦で防御といったらこれを指す。
《法弾》ただ魔素に打撃みたいな術式込めてぶつけているだけ。斬撃や刺突みたいなものもある。魔力弾と思えばいい。
《火球》・・・・・・説明要らなくね?
《風弾》風を撃っている。