魔術の練習を始めよう!
「魔術を教えてください、ねえ・・・」
私が魔術を教えてほしいというとクラリさんが少々考えたそぶりをして、答えた。
「ひとつ言うけど、なんで私に相談したの?別に両親に言えばいいじゃない...」
まあそうなんだけどね、やっぱり一番詳しそうな人に行ったほうがいいじゃん。
そう言おうと口を開こうとしたがクラリさんがさらに補足した。
「...あとその関係についてはあなたの両親の方がつてがあるし・・・やっぱり両親に言ったほうがいいよ?」
私もこの街に来て2年も経ってないし、とつぶやき私を見つめる。
なぜか見つめられた私は留飲を下げた。(雰囲気?)
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結局クラリの店にいった理由は何だったのだろう。適当に行ってお手玉作って暇つぶして帰ってきただけじゃん。
まあちょうど昼時だし、家に帰ったらお父さんいるからお父さんに頼もう。
「ただいま~」
「ああ、おかえり。今日はなにしたの?」
「おもちゃ作って、だべって帰ってきた。それとお願いがあるんだけど」
「なんだい?」
「魔術教えて」
「ああ、魔術は基本的に7歳からやるんだけど...」
「いいんじゃない?別に一般論なだけだし、やりたいっていうならやらせてあげなよ」
話に割り込んだお母さん。それを聞きうなるお父さん。そんなに悩むものなんだ。
そしてお母さんがさらに後押しした。
「私の友達にもちょっと早めに始めたっていう子がいるし大丈夫でしょ?」
しかし効果は薄く、難色が濃くなった程度だ。
やはりここは私の番だろう。
私はエルザさんに見せた時以上の笑顔を見せ、両手を合わせて上目遣いで・・・
「魔術、やらせて?」
「よしやろう!!!!」
手のひら返し早っ!!やはり愛娘の力はすごいんだね。笑顔の相乗効果で一瞬で決めやがったよ。
さすがに耐性があるらしく鼻血や吐血などはしなかったけど。
「とりあえず、お父さんが教えるってことでそのあとはちゃんとした教室がいいでしょ?」
「うん、それはつてがあるし大丈夫だよ。ハンナ、午後は俺暇だし早速やろうか」
「うんわかった!」
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昼食をとり、早速街を飛び出して広い場所に出る。
「お母さんから聞いたけど、クラリさんのところである程度教えられてるんだっけ?それであとは実践てところかな?」
お父さんは手に持っている水バケツを地面に置き手を向けた。
「まず最初の目標はこれだね」
グオォォォと周りの魔素がバケツのほうに集まる。
バケツを覗くと水の中に術式が浮かび描かれており、そこに向かって魔素が集まっていた。
次第に水から湯気が立ち始め、少しずつ気泡ができ始めていた。
魔術というもの自体全く知らない人が見ると勝手に水が沸騰してるようだった。
突如雰囲気が変わり、いつの間にか気泡が消えて湯気も収まり始めていた。
術式を確認するとさっきとは違うものになっていた。
次第に魔素が集まらなくなり、収束した。
「今は加熱と冷却をしたよ。当然すぐにはできんからまず魔素を動かす感覚を覚えよう」
お父さんは私から見て左前を指で刺しつつ言った。
「いま風がこっちから吹いてるね。じゃあ魔素風はどの方向から吹いてる?」
魔素風とは風が圧力の高いほうから低いほうへ流れるのと同じように濃度が高い場所から低い場所へ流れる現象だ。
完全に風と無関係の方向に吹くものなのに、なぜお父さんは風の向きを言ったんだろう?
私は周りを意識し、空間内の取り巻く流れを読んだ。
「今は右から吹いてるよ」
「あれまそんなにあっさりわかっちゃったか。やっぱりハンナはお母さんの血を受け継いでるね。それじゃあ流れてくる魔素を操ろうか」
どうやって?もっと説明してくださいよ。
多分流れを利用するんだけど何かコツでもあるのかな。
そういろいろ聞いたけど、
「まあ自分にとって第6の感覚で動かしてるからがんばれとしか言いようがねえよ」
の一点張り。確かにクラリさんも”魔素を動かす感覚はなんかいろいろやってたまたま動いたのを少しづつ再現してできるようにする”って言ってたもんね。口笛とか指笛みたいな感じかな?
そうやって小一時間ほどお父さんの真似をしつついろいろ試していたら、一瞬わずかに自分の思い通り動いた部分を発見。
できるようになるまでの時間は”平均的なんじゃない?”とのこと。
ただわずかしか動かせてないので繰り返し練習をする。
そして30分ほどたったら割と動かせるようになった。でも魔術を扱えるまでの道のりはまだ遠い。割とではなく完璧に近くないと魔法を使ったとき失敗したり、下手したら失自反射するという。
ここで今日初めての魔術の練習は終了。私はまだできるが、お父さんが気づかないところに疲労は出てるんだよと止めたのでおとなしく従った。
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───翌日───
今日はお父さんの知り合いで魔術を教えている人に会う。昨日言っていたちゃんとした教室というのはこれのことらしく、お父さん曰くあいつは信用できるからどっぷり任せられるとのこと。
やはり愛娘のことだと最速で行動するのがお父さんの本性らしい。(お母さんも翌日にもう教室に参加できるとは予想していなかったそうで・・・)
指導者の名前はサウバーといい、見た目は40代弱。薄茶の短髪に黄色い瞳と人種的にはローカルな人だと思う。服装から見ても多分中流層の人で服も洒落ており随分とイケおじだ。
「おお、君がハンナちゃんでいいのかな?初めまして俺がサウバーだあんたのこともこいつから結構聞いてるぜ」
とお父さんを親指でさしながら言った。
「初めまして、ハンナです。よろしくお願いします」
「あららら、おいオスカー聞いていた以上に利口じゃねえか。なんか子供じゃねえみたいだぞ?」
「うん・・・俺も予想外だった。いつの間にこんなしっかりしたのか」
利口さは親も大体わかるもんじゃないの?
まあ春に倒れる前はかなりグダグダだったししょうがないのか・・・
「じゃあ魔素操作が少々できるくらいなのか?」
「そうだ。とりあえず加熱冷却を目標にしてるからよろしく頼むわ」
「了解了解。じゃあハンナちゃん、早速やりますか」
こうしてサウバーさんとの個人レッスンが始まった。
用語解説
失自反射:魔術が失敗した時に起こる現象。悪い方の万が一というと大体これを指す。何かしらの原因で術式が正しくなかったり崩れたりした時に起こる可能性がある。