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97.ドレス

 採寸が終わったあとに服のデザインを決める話になったのだが、"姉さんが選びたがるだろうなぁ"と思い、それは後回しにしてもらった。


「父さんって結構来たりするんですか?」


「そこまで頻繁にはございません。非常に丈夫にお作りしておりますので、長持ちしているのだと思います。それにデザインもサイズも同じものでいいとのことでしたら、仕上がり次第お届けしておりますので」


 ――まぁ父さんは着飾る性格でもないし、森へ行って葉っぱをつけて帰ってきても、服はほつれたりしてないくらい丈夫なようだしなぁ。


「本来であれば、私どもが直接お屋敷にお伺いし、デザインなどの相談をさせていただくべきところですが、カレアリナン様が自らこちらにお越しくださると仰せいただきましたので、このようにさせていただいております」


「ここにはいろんな服も置いてますし、母さんも見るのが楽しいんでしょう」


「そうおっしゃっていただいて、光栄でございます」


 そう言いながら店長さんは微笑んで軽く頭を下げてくる。


 ――母さんも外に出るのは好きだもんなぁ。まだ俺が小さいころも屋敷の敷地外には行かなかったけど、よく中庭とかに出てたりもしたし。それに並んでいた服もシンプルなものから、それこそ貴族が着ていてもおかしくないようなものもあったし、生地もきれいだから実際に見て回れるのが楽しいんだろうな。


「そういえば父さんの服を作ってるってことは、ハンターや冒険者用の服も作ってるんですか?」


「いえ、当店では基本的に一般のお客様や商人の方々向けの衣服を取り扱っておりまして、フェデリーゴ様の衣類は特注でございます。ハンターたちの服となりますとやはり消耗が激しいので、元から耐久の低い簡素な服や、逆にモンスターの革などを使用して耐久をあげたりしておりますので」


「なるほど。たしかにそれだと、服というより無骨な防具のような雰囲気になりそうだし、貴族には合わないんですね」


「おっしゃる通りでございます。いやはや、カーリーン様は聡明でいらっしゃいますね」


 ――子供にしては色々聞きすぎたかな……まぁ問題はないと思うけど……


「そ、そうですか? ありがとうございます」


 そうお礼を言って"どうごまかそうか"と考えていると、ドアがノックされたので店長さんが向かって用件を聞いている。


「カーリーン様、エルティリーナ様のお着替えが終わったようですので、どうぞ。ご案内いたします」


 そう言った店長さんに案内されてその部屋へ向かい、ドアをノックすると母さんの返事が聞こえた。


 店長さんがドアを開けて、俺が先に入れるようにしてくれるので中に入ると、赤いドレスを身にまとった金髪の少女がいた。


「カ、カーリーン、どう?」


「え、あ、姉さん!?」


「そうよ?」


 ――もっと子供らしいフリフリフワフワのドレスを想像していたけど……結構大人しめなドレスだし、髪も全部上で結ってあるし、普段の印象とは全然違うから驚いた……


「う、うん。キレイだと思うよ」


「あ、ありがとう」


 ――おや? いつものようにはしゃいで喜ぶかと思ったんだけど……そういえば軽く褒めたりお礼を言うことはあっても、今みたいに褒めたことはなかったっけ……


「ふふふ。カーリーンは驚いているし、エルも照れているし、同時に2人の珍しい姿が見られて私は嬉しいわ」


 ここまで照れている姉さんを見たことがないので、珍しいのはたしかではある。


「それにしても、よく姉さんがこういう服を着たね……」


 店員さんがドレスを調整しているすきに、姉さんには聞こえないように母さんの隣に行って声をかける。


「ふふ。あなたが褒めてくれるわよって言ったからね」


「えぇ……そんな理由で着る?」


「エルはあなたが大好きだからねぇ」


「弟だから?」


「ん~。もちろんそれもあるだろうけれど、小さい頃に"カーリーンは私が守ってあげる"って言ってから、今みたいに一緒にいるようになったのよねぇ。まぁそれ以前も赤ちゃんのあなたを構いたくて、遊んでくれていることも多かったけれどね」


「それなら別に変わってないじゃん……」


「うふふ。そうね」


 母さんは笑いながらそう言う。


 ――そういえば俺が死ぬかもしれないってなったときに、そう宣言してたな……それから一緒にいることが多くなってブラコンになったのか? まぁ嫌われるよりは全然いいが……


「お母さん、もう着替えてもい~い?」


「もうちょっと我慢しなさい? 当日はもっと長い間着てないといけないのよ?」


 そう言う姉さんを改めてよく見ると、子供だからかメイクこそしていないようだが元から整っているその顔は、年齢のわりに大人びて見えることがあるので、その大人しめなドレスが凄く似合っていると思う。


 ――普段は活発で元気な子って感じだからなぁ……ここまで印象が変わるとは……


「髪は母さんがやったの?」


「えぇ、そうよ。髪を下ろしてヘッドドレスをつけようとも思ったんだけれどねぇ……」


「これ以上着飾りたくない……」


「って言うのよ。そこまで大きくなくて、飾りも少ないものなんだけれどね」


 姉さんが目線を逸らしながらそう言うと、母さんは困ったように笑っている。


 ――髪の色は金色だから赤いドレスの色と合うし、腰あたりまである髪も真っすぐでキレイだから下ろしたほうが似合いそうだけど……


「そ、そう?」


「あら、カーリーンもそう思う?」


 どうやら姉さんを見ながら思っていたことは、そのまま口に出ていたらしく2人に反応される。


「それなら……お母さんなおして」


「うふふ、いいわよ」


 姉さんが少し照れながら母さんにそう言うと、結っていた髪をほどいて手早くクシで整え、少し飾りのあるヘッドドレスをつけてあげる。


「はや……」


「これでも公爵令嬢だったからね」


「いやいや、普通の公爵令嬢は自分じゃしないでしょ。というか他の人の髪をいじれないでしょ」


「……経験の差ね」


 ――なるほどな。やんちゃして外にいることが多かったから、自然と自分で出来るようになった感じか……


「それで、感想は?」


「うん。やっぱり下ろしてるほうがいいと思う」


「そ、そう? それならこれで行くわ」


 俺の言葉を聞いて照れながらも嬉しそうにしている姉さんは、鏡で自分の姿を確認している。


「ねぇ、母さん」


「なぁに?」


「もっと子供っぽいドレスのほうが良かったんじゃ?」


「あら? あなた()エルが注目されそうなのが気になるの?」


 ――"あなたも"ってことは、父さんはそこを気にしたのか……たしかに子供が主役のパーティーでは、()()()()ドレスを着てる子は少ないだろうから、目立つとは思うけど……


「いや、ほら、子供用のドレスって転びにくいように作られてたりするんじゃないの? それならそっちのほうが動きやすいから、姉さんもそこまで渋らなかったんじゃ……?」


「……いい? カーリーン。それはエルに言っちゃダメよ? 本人はドレスはどれも同じだと思っているし、せっかくあのドレスを気に入ってくれたんだから」


「あえて、()()()()ドレスにしたんだ……」


「元気なのはいいことなんだけれどね。さすがに王都でのパーティーでは少しは大人しくしてほしいもの」


「姉さんなら言えばちゃんとすると思うけど……」


「念のためよ。それに私が見てみたかったのよ」


「そ、そう……」


 その言葉を言い終わるころの母さんは、幸せそうに微笑みながら姉さんを見ている。


 ――あれくらいのドレスなら母さんも似合うだろうけど、もっと大人っぽくなると可愛い系の母さんには合わなさそうだもんなぁ……


 そんなことを思いながら俺は、嬉しそうな表情で鏡の前で回ったりして確認している姉さんを見ていた。

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