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93.書庫での雑談

 対面に座った兄さんは、リビングから持ってきていた本を読みはじめたので、俺も自分が取った本を見る。


 その本の表紙には"初級魔法1"と書かれており、ちょうどいいのでそのままそれを読むことにした。


 ――中級以上の魔法も知りたいけど、多分この初級を読んでること前提で書いてあるだろうし、読んでおいたほうがいいか。


「何かわからない文字とかあったら言って? 教えるから」


「うん、ありがとう」


 俺が本を開いたのを見て兄さんがそう言ってくれるので、返事とお礼を言ってからページをめくっていく。


 ――うぅ~ん。母さんから聞いたことばかりかな。それに初級というだけあって、わかりやすく書いてるから読みやすいし、イラストとかもあるからそのぶん文字数も少なくてすぐに読み終わりそうだ。多分、俺たちみたいに子供のころから勉強するための教本なんだろうな。


 そう思いながらしばらく静かに2人で本を読んでいると、「失礼します」と言ってリデーナが入ってきた。


「どうしたのリデーナ」


「おふたりともおそらくこちらで読書をしていると思い、お茶をお持ちいたしました」


「ありがとう」


 兄さんが笑顔でお礼を言うと、リデーナは微笑みながら「いえ」と言って、ワゴンに乗せたティーセットでお茶を準備する。


「それと、本日は昼間は特に何も予定はございませんので、このまま読書を続けても大丈夫とのことです」


「うん、わかったよ」


 リデーナは両親からの伝言を伝えつつ、俺たちの前にお茶を用意してくれる。


「リデーナも座って一緒にお茶を飲もう? 俺たちは本を読んでるだけだから、退屈かもしれないけど」


「いえ」


 リデーナはそのまま俺たちの所で待機するようで壁際に立ったので、俺は母さんのように誘ってみることにした。


「母さんと一緒のときは、たまに一緒にお茶飲んでるのに?」


「……知っていたのですね……」


 ――何か作業するわけじゃなく、ただ本を読んでるだけだしなぁ。ずっと立って待機してるのも退屈だろうし、何か聞きたいことができたときに隣にいてくれたほうが早いし。


「僕もそのほうがいいかな」


 兄さんもそう言ったので再度誘うと、「それではご一緒させていただきます」と言って自分のお茶を用意して俺の隣に座る。


「カーリーン様は魔法の本ですか。しかも入門ではなく初級魔法とは……」


「でも、これにも魔力操作のこととか書いてたし、母さんに教えてもらったことばかりだよ?」


「カーリーン様は熱心に話を聞いて勉強しておられますので、そうなりますか」


 リデーナは俺が読んでいる本を見てそう言ってくるが、実際に今まで母さんから教わったことばかりで、復習している感じになっている。


「そういえば、ここにある本って母さんのものなの?」


 あとで本人に聞けばいいやと思っていたが、リデーナなら知っていると思って聞いてみることにした。


「そうですね。ここの本は奥さまが実家から持ってきた本もございますので、これだけの量になっております」


「母さんは昔は結構やんちゃだって聞いたんだけど、本も読んでたんだね。今だとのんびりとしてることが多いから、本を読んでる姿は合ってると思うけど」


「いくら奥さまがやんちゃだったとしても、公爵令嬢でしたからね。()()()そのあたりも考えて行動していたのではないかと」


「"多少"なんだ……」


「えぇ。本当に考えているのであれば、ヒオレス様に無断で王都付近の森へ出かけたりはしないでしょう」


 ――そういやまだ赤ちゃんだったころに、母さんとリデーナがそんな話をしていたのを聞いた覚えがあるな……


「でも、リデーナは()()に付いて行ってたんだよね?」


「私は奥さまのメイドでしたから。それに王都付近のモンスターなど、奥さまをお守りしながら戦ったとしてもすぐに倒せますし」


 ――おぉ、かっこいい。でもリデーナはあくまでナルメラド家のメイドだったはずだから、実際の主はじいちゃんなんだよな……まぁそういうところも含めてじいちゃんが許可していたんだろうし、問題はなかったんだろうけど……


「ヒオレス様にバレたときは、怒られましたが」


「そりゃそうだよ……」


「まぁ奥さまが森へ行くようになったころには攻撃魔法も使えたので、私が倒すより奥さまが倒した数のほうが多いくらいでした。それを知ったヒオレス様は、"無断で森へ行った心配"と"魔法の腕をあげている娘を褒めたい"、という気持ちから、なんだかんだ軽い注意程度でしたけど」


「……じいちゃんもモンスター素材とかを自分で取りに行ったり、討伐に参加したりと結構自由にしてるみたいだもんね……母さんはそんなじいちゃんに似たのかな……」


「ふふふ。ヒオレス様もそれは思ったようで、最初こそ叱るような注意でしたが、慣れてきたころには注意はほどほどにして、森の様子などを聞いておられましたね」


 ――じいちゃんなら嬉しそうに聞いてきそうだもんなぁ……


「あれ? そういえば、じいちゃんって王城で働いてたのに、そんな人が討伐に参加してたの? もっと緊急性のあるモノならわかるんだけど」


「えぇ。カーリーン様もご存じのとおり戦闘を楽しむ方ですので、無理矢理自分も参加できるように手配して同行していたようです。もちろん力のある者は王城に残して()()()()向かっているので、万が一の対策もきちんとしていたようですが」


「なるほどね……そういえば母さんのお兄さんってどんな人なの?」


 じいちゃんが"家督を息子に継いだ"と言っていたのを思い出し、その人物である伯父さんのことについて聞いてみる。


「ジルネスト様も、ヒオレス様と同じく武人であることに変わりはないのですが、ヒオレス様のように無理矢理同行するようなことはしない方ですね」


「母さんと仲が良かったんだよね?」


「えぇ、幼少期から非常に仲が良く、稽古も一緒にやっておられました。魔法は奥さまのほうが上達しましたが、ジルネスト様はヒオレス様から剣も習っておられましたので戦闘は得意ですね。ヒオレス様から聞いた話では、まだまだヒオレス様には届かないようですが」


 ――じいちゃんは家督を譲って引退したけど、まだまだ現役みたいだもんなぁ……むしろ父さんとまともに試合が出来るように鍛える時間が増えた分、引退前より確実に強くなってるはずだし……


「仲の良さと言えば、抱き付いたりこそしなかったものの、エルティリーナ様とカーリーン様のような雰囲気でしたね」


「うぅ~ん? それは……母さんや俺と似ているアリーシアさんを、大切にしている理由の一つがわかった気がする……」


「まぁジルネスト様は、ナルメラド夫人と婚約なされてからは()()()()に仲睦まじくしておられましたので、決して似ているからと面影を重ねて接しているわけではないと思います」


 ――婚約者と同じようにって……うん、伯父さんにはシスコン気質があるな。あれ、最愛の娘であるアリーシアさんとは結構仲良くなったから、会ったら何か言われるかなって思ってたけど、俺はそんな母さんと似ているし、どんな反応されるんだろ……まぁ俺が会うのは7歳のお披露目会に出席するために王都に行ったときだろうし、まだまだ先だから今考えても仕方ないな。別に危害を加えられるようなことじゃないし。


 そう考えながら本に目を通していると1冊目が終わったので、次の本を取ろうと席を立つ。


「言ってくだされば、私がお取りいたします」


 俺が立ったのと同時にリデーナも席を立って、戻すために本を受け取ろうと手を出してくれる。


「自分で探してみるよ。これからここに来るときに大体の場所を把握しておいたほうが良いでしょ?」


「かしこまりました。高い位置の本を確認したいときはお手伝いしますので、おっしゃってください」


 リデーナがそう言ってくれるので、「わかったよ」と返事をして本棚に向かった。

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