表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/198

92.初めての部屋

 自分の魔法で濡れてしまった俺を、父さんがリデーナからタオルを受け取って拭いてくれる。


 俺が魔法を教わり始めたときに一緒に練習し始めた父さんだったが、結局【ライト】以外の生活魔法が安定しないので諦めたらしく、魔法の稽古のときは微笑ましい目で母さんと子供たちの様子を見ている。


 ――イヴは父さんの魔力はそこそこあるって言ってたけど、やっぱり魔力があるだけじゃ使えないもんなんだな。まぁその代わりと言ってはなんだけど、父さんは気力関係や武術関係がすごいし、そっちの感覚や技術があるからなのかな。


 そう思いながら父さんを見上げると、「どうした?」と不思議そうに言われたので、「なんでもないよ」と返事をして水を拭きとってもらった。


「【ドライ】」


「ねぇ母さん。その魔法は生活魔法って言ってたけど、俺でも使える?」


 拭いてもらったあと、母さんが乾燥させる魔法で服を乾かしてくれるのを見て、そう聞いてみる。


 ――まぁ使えはするんだろうけど、熱を持ってるから【ファイヤ】みたいに危険なもの扱いで、勝手に使ったら困らせてしまう可能性もあるし、一応聞いておいたほうがいいよな。


「そうねぇ~。カーリーンなら使えるんじゃないかしら? 今までも見せたり説明したらすぐに使えていたし、大丈夫だと思うわよ」


「あれ? 兄さんたちは使えないの?」


「まだ使えないわねぇ」


 母さんは優し気に微笑みながら、そう言っている。


 ――生活魔法でもやっぱり使えないとかはあるのか。"使う意志"が大切って教えてもらったけど、そこの差なのかなぁ……


「それじゃあ、これで練習してみる?」


 俺の服を乾かし終わった母さんが、まだ湿っているタオルを差し出してそう言ってくるので、試してみることにした。


「いいの?」


「えぇ。この魔法だったら危険はないし、使えたら便利よ?」


「そうだろうね……それなら。【ドライ】」


 余り強くしすぎるとカピカピになる可能性もあったので、そのあたりに気をつけながら魔法を使う。


「うん。上出来ね」


 弱めに使った割にはすぐにタオルは乾いたので、母さんは頷きながら俺に魔法を止めるように言ってくる。


「これで夏場にびしょ濡れになっても、自分で乾かせるわね」


「いや、()()は俺が自分から濡れたわけじゃないんだけど……」


 今回のことがあるので、また同じことがないとは言えないが、()()()()()姉さんのせいなのであまり納得はしていない。


「うふふ。そうね。まぁ夏場になったらまたエルが()()()しそうだから、そのときはカーリーンに乾かすのを手伝ってもらいましょうか」


「それはいいけど……」


「あなたは色々魔法のことを知りたがっているようだし、文字もちゃんと読めているから、それらの本を読んでみる?」


「そんな本あるの?」


「えぇ、書庫にあるわよ? まだ行ったことはないのかしら?」


「え、うん。ないよ」


 ――そういえば自由に歩き回れるようになったのに、厨房や中庭に遊びに行ってるくらいで、結局屋敷の探索を忘れてたや……まぁそれだけ魔法の稽古や、普段の生活が満足できているってことなんだけどさ。


「執務室の近くにあるわよ。あそこならカギはかかっていないし、気になるなら行ってみるといいわ。ライがよく行ってるから、わからないことがあったら聞いてみてね? あと、魔法について調べるのはいいんだけれど、部屋の中で魔法を試すのはやめてね? 気になるものがあったら持ち出してもいいから、ちゃんと私たちに言って、外でやりなさい」


「うん、わかった!」


 書庫の存在を知った俺は、ワクワクしながら返事をする。


「うふふ。それじゃあ、もうちょっとだけ魔法の練習をして、終わりにしましょうか」


 母さんがそう言うので兄姉の隣に並びなおして、練習を再開した。




 魔法の稽古が終わり昼食を食べたあと、リビングにあるソファーで本を読みながらくつろいでいる兄さんに声をかける。


「ねぇ兄さん、書庫ってどこにあるの?」


 さきほど母さんから"執務室の近く"とは聞いていたが、正確な場所は教えられていないし、そもそもあの辺りには窓のない部屋を含めて結構な部屋数があるので、直接案内されないと時間がかかりそうだった。


「ちょうど僕も行こうと思ってたから、一緒に行く?」


「うん」


 なので、その書庫への案内を兄さんに頼もうとしたのだが、頼む前に兄さんのほうからそう提案してくれたので返事をする。


 ――兄さんが読んでいた本はまだ半分くらいだったし、俺を案内するためにそう言ってくれたんだろうな……前々からその中性的な顔立ちは、成長するとイケメンになるだろうなぁとは思ってたけど、すでにここまで自然な気配りもできるなんて、完璧か?


 兄さんのイケメンムーブを見てそう思いながらあとをついて行く。


 ――そういえば結局重力魔法の話はしたけど、空間魔法の話は聞けなかったな。まぁ中級以上しかないとは聞けたし、それなら俺が教わるのはまだまだ先になるだろうし、また魔法の稽古が進んでからきこうか。


 いまさら朝の稽古で聞きそびれたことを思い出しながら階段をのぼり、執務室へ行くときに通っていた廊下の途中にあるドアを兄さんが開ける。


「ここが書庫だよ」


「うわ! ここも広い!」


「ははは、本当にね」


 俺の率直な感想を漏らすと、兄さんは笑いながら同意してくれる。


 入った部屋は思っていた以上に広く、"書庫"という名にふさわしく、壁際には天井近くまである本棚がいくつも並んでいて、部屋の真ん中にはローテーブルとソファーも置いてあり、この部屋でそのまま読むこともできる。


 この部屋は窓のない部屋の1つだが、それが書物の劣化を防ぐのに適しているのだろう。


 ――夏場は暑そうだけど今の時期はちょうどいい感じだな。それに魔法で換気とかすればいいし、1人のときは【クーラー】とかで調節してもいいしな。いや、湿度があるからあまり使わないほうが良いのか?


「窓がないから夏場は暑そうだね」


「ははは。まぁ母さんかリデーナとかに言えば涼しくしてくれるし、ここも快適だよ」


 思ったことをそのまま兄さんに言うと、笑いながらそう答えてくれるので、湿度などは問題ないようだ。


 ――ちゃんと保管するなら、そういう魔道具とかもありそうだしなぁ。ローテーブルの上にある置物も魔道具っぽいし、他にもありそうだな。


「それで、どんな本が読みたいの?」


「母さんが魔法の本もあるって言ったから、それを読んでみたいんだけど」


「それならこのあたりだよ」


 そう聞いてきたので答えると、兄さんが本棚の前に立って教えてくれる。


「兄さんはモンスター関連の本を読むの?」


「ん~。それらも読むけどここには物語の本とかもあるから、そういうのも読むよ」


「へぇ。そういう本も置いてるんだ? 父さんは読まなさそうだし、母さんの趣味かな?」


「はは。父さんはそう言うのは読まなさそうだけど、本自体はたまに読んでるみたいだよ」


 ――まぁモンスター関係の本もあるし、全然本を読まないってことはないか。それでも外に行くことが多いせいで、ぜんぜんそんな印象はないが……そんなことを言ったら、昔は母さんも結構やんちゃだったみたいだしなぁ。


「少なくともエルよりは読んでるんじゃないかな」


「あ~……たしかに姉さんが本を自主的に読んでるのは想像できないかも……」


「前はエルも結構読むことが多かったんだけどね。カーリーンは覚えてないと思うけど、小さい頃はよくエルが読み聞かせてたんだよ」


 そう言われて、姉さんに何回も読み聞かせてもらったことを思い出す。


 ――たしかに読んでたな……そのころから俺を構いたがっていたからかな。まぁ母さんも"文字を覚えるまでは、まじめに勉強していた"って言ってたし、理由はなんにせよちゃんとやってたんだよなぁ。今じゃそんな姿は想像できないけど……


「今は勉強が苦手で本を読むことも減ってるから、エルはこの部屋には来ないだろうけどね」


 兄さんも俺と同じようなことを思ったらしく、苦笑しながら俺にそう言ってくる。


「まぁ本を読む以外で来るような部屋じゃないもんね……あぁ、俺がここに来るってわかってたから、珍しくリビングを出るときに静かだったのか……反応すると母さんに、"一緒に行ってたまには本を読みなさい"とか言われそうだもんね」


「あははは。たしかに言われそうだね。でもカーリーンが誘ったら来るんじゃない?」


 兄さんが珍しくイタズラを企むように笑いながらそう言うので、乗っかることにした。


「うぅ~ん……今度試してみようか」


「ははは、どんな反応するか楽しみだね」


 ――姉さんならやりそうだけど、兄さんもこういうこと言うんだなぁ。たしかに反応は気になるから、今度本当に言ってみよう。


 そう思いながら兄さんに教えてもらった本棚に近づき、本を手に取ってソファーに座った。

ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルブックス様HP
異世界に転生したけど、今度こそスローライフを満喫するぞ!
1巻
第1巻
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ