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91.初級魔法

 少しの間、母さんと姉さんに抱き付かれていたあと、魔法の稽古が再開されたのだがまだ説明することがあるらしく、"実践"ではなく"勉強"だと察した姉さんは兄さんのところへ戻っていった。


「初級魔法といっても、それぞれ何種類かあるのよ」


「今まで見たのは【ファイヤーボール】か【ウォーターボール】だったけど……」


「そうね。その"ボール"系は爆発したり破裂したりするのが特徴ね」


 ――なるほど、そこで種類分けされてたのか。しかし、最初に覚えるのが爆発系って……【ウォーターボール】はまだ破裂って感じだったけど、【ファイヤーボール】は初級の中でも危ない部類なんじゃ……まぁ姉さんのやる気を出させるには、ああいう派手なヤツで正解だったとは思うけど。


 そんなことを思いながら、母さんの説明の続きを聞く。


「ほかにあるのは、小さいけれど魔力消費が少なく、その速さが特徴の"バレット"、フェディが前に使った【飛斬】のように、横幅が広くて複数に当てやすい"スラッシュ"、あとは刺さったりする"ランス"とかね。"ランス"については土だと刺さるし、火だとまとわりつくようにその場所を燃やすわ。だから属性によって少し違うのだけれど、同じ名前で呼ばれているわね」


 ――うん。さすが異世界。こんな物騒な説明を3歳にするんだもんな……まぁおかげでどれも危ないと理解したけど……最後のランスの具体的な説明を聞いたあとだと、速くて燃費がいいバレット系はもちろん、ボールですらなんか優しく聞こえてくる……


「それだと最初に練習するのはバレット系のほうがいいんじゃないの? 燃費がいいなら練習回数も増えそうだし」


「うぅ~ん。あなたたちは魔力量が多いからねぇ……結構魔力を使ったと思ったときは確認しているけれど、今までやってて魔力欠乏の兆しも全くないし、それどころか半分以下になったのを見たことがないのよねぇ……」


 ――俺はともかくとして、兄さんや姉さんも魔力量は多いのか。さすが母さんの血を継いでいるだけはあるってことか?


「それに、もしも勝てない相手との戦闘になった場合、ボール系を使うことができれば地面を撃って目くらましにしたり、木があるならそれを倒して足止めしたりと、逃げるときにも役立つのよ」


 ――たしかに、身を守るために直接攻撃以外にも使えそうだから、ボール系をはじめに覚えるのはよさそうだなぁ。


 そう納得しながら、そのまま説明を続けている母さんの言葉に耳を傾ける。


「あとはそうねぇ。"バレット"系は消費が少ないから威力もそこまでないのよ。【ファイヤーバレット】であれば、燃える可能性もあるから弱いモンスターや、獣相手なら十分な威力になることもあるけれどね。"スラッシュ"と"ランス"に関しては一応説明はしたけれど、練習はまだ先ね」


「聞いただけでも危なそうなものだもんね……」


「まぁそれだけ理解できているなら大丈夫だとは思うけれど、勝手に試したらダメだからね? さて、それじゃあ実際に使って練習しましょうか」


 母さんがそう言うので「うん」と返事をすると、兄姉を呼んで実際に使うことになった。


「まずは前も使った【ウォーターボール】ね。2人とも、やってみて。カーリーンはあれから使ってないけれど、どうかしら?」


 初めて攻撃魔法を使ってからは、母さんも「まだ攻撃魔法は早かったかしら」と考え直したらしく、生活魔法での練習をするように言ってきていたため、久しぶりではある。


 ――でもまぁ部屋で氷とか風魔法は使ってたし、一応練習してもいいと許可が出ている【ライト】も使ってたから、だいぶ魔法を使うときの魔力の出し方は馴染んできてるんだよなぁ。それにしても、兄さんも姉さんもだいぶ魔法が上達してきたなぁ。兄さんはもとから魔力制御がうまかったのもあるけど、姉さんも勉強は苦手だが、実際に使って感覚を掴めたみたいで、【ウォーターボール】()ちゃんと使えているし。


 兄さんたちが魔法を使い始めたのを見ながらそんなことを思い、姉さんの横に並んで手を庭に向ける。


「【ウォーターボール】」


 俺は以前使ったときの魔力量を思い出しながら、それと同じくらいになるように調節して魔法を使う。


 その感覚は割と正確だったようで、見覚えのあるサイズの水の球が真っすぐ飛んでいき、着弾地点で破裂して地面を浅くえぐる。


「やっぱりカーリーンの魔法はすごいわね!」


「だね。僕も結構練習してるつもりなんだけどなぁ」


「俺は母さんとずっといたからかなぁ……でも、兄さんも姉さんも前よりうまくなってるし、剣の稽古もしてるのにスゴイと思う」


「ははは、ありがとう」


 兄姉に褒められ、俺もそんな兄姉が頑張っているのは知っているので素直に思ったことを言うと、兄さんは微笑んで返事をしてくれるが、姉さんは言葉ではなく、抱き付くという行動で示してくる。


「ちゃんと使えているわね。それじゃあすぐに飛ばさないで、少し手元で待機させる練習もしましょうか」


 母さんがそう言うと兄さんは返事をしていたが、姉さんは気まずそうな表情をしている。


 ――この感じだと姉さんはまだ、そこまでの魔力制御は出来ないんだろうな……俺に褒められたあとにそういう姿を見せたくないんだろうが……


 そう思いながら姉さんを見ているとその隣で兄さんが魔法を使い、水の球を待機させている。


「ライはそのまま維持しててね。ほら、エルもやってみなさい」


「はぁい……」


 そういう練習なのでやらないわけにはいかず、姉さんはしぶしぶ魔法を発動させる。


「…………ね、ねぇ。ま、まだ?」


「今発動したばかりじゃないの。もう少し頑張ってみなさい」


 兄さんは手のひらを上にして、そこに水の球が乗るような感じで維持しているのだが、姉さんは拳くらいの大きさのソレを、いつでも発射できると言わんばかりに庭に向けて待機させている。


 その様子を見ながら俺も、魔力量を調節して10センチくらいのサイズの【ウォーターボール】を発動させて、兄さんと同じように手のひらに乗せるようにして浮かせて待機する。


 姉さんは俺が魔法を使ったにもかかわらず、いつものように反応する余裕もないようで、真剣な表情で自分の魔法を凝視しているが、その水の球が徐々にプルプルと震え始めたことに気がついた。


 ――やっぱり苦手なんだなぁ……って、アレは大丈夫なのか!? 姉さんのことだから無理矢理制御しようとして破裂するんじゃ!? ま、まぁ姉さんの【ウォーターボール】なら威力的に危険なことはないし、本当に危なそうな場合は対処してくれる母さんが何もしないで見てるだけだから、大丈夫なんだろうけど……確実に濡れはするよな……


 そう思いつつ、濡れないように姉さんのうしろあたりに避難しようと動こうとしたタイミングで、姉さんが声をあげた。


「あ、も、もう、無理……!」


「ま、まって!?」


 姉さんのその言葉を聞いて、逃げるのが間に合わず濡れる覚悟をして目をつむったのだが、水が落ちる音はしたが濡れた感じはせず、恐る恐る目を開ける。


 姉さんは無理に制御しようとしないで魔力を止めたらしく、発現した【ウォーターボール】はそのまま落ちたようで、足元に水たまりが出来ていた。


「あ、あれ?」


「どうしたのよ、カーリーン」


「い、いや……何でもないよ……」


「ふふふ。エルが【ウォーターボール】をその場で破裂させると思ってたんでしょうね」


 正直に言うと姉さんの機嫌を損ねそうだったため、言わないでおいたことを母さんがズバッと言ってしまう。


「むぅ~! さすがにまだ寒いもの!」


「え、そこなの……?」


「そうよ。夏場だったら気持ちいいじゃない」


「それはそうだけどさ……」


 去年の夏に姉さんの【ウォーター】で水浸しになったことを思い出しながら苦笑する。


「まぁ、今の状態で破裂させなかっただけでも成長してるわよ。前までなら意地になって破裂させてたでしょうし」


 そう言いながら母さんが笑うが、姉さんがそうするとわかっていたのは、流石母親だなと感心する。


 ――俺は間違いなく破裂させると思ってたもんな……


 そう思いながら魔法を維持しているのを忘れていて、その手で頭を掻こうとしたので、俺は結局濡れることになった。

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