90.攻撃魔法と適性
新章始まりました。王都へ向かい、そこでの出来事をメインに書いていくつもりです。
冬が終わって、徐々に温かくなってきた。
稽古を始めたころに比べれば体力も付き、転ぶこともなくなったので成長したことを感じられるが、まだ森へ行くには心もとない程度なので、これからも頑張らなくてはいけないと思う。
魔法のほうは魔力操作も十分で、言いつけを守って【ファイヤ】などの危険な魔法は使うことがなかったので、今日から攻撃魔法についても学ぶことになった。
――部屋では氷魔法や風魔法を試したりしてたけど、流石に火は危ないから許可がおりるまで使えないしな。冬の間はリデーナたちが、夜も何回か温めに来てくれてるけど、さすがに夜中は寝てるから寒くなる日も多くて、何度火魔法で温めようと思ったことか……まぁそういう日に限って姉さんがよく来るから踏みとどまれたし、抱きついて寝てくれるおかげで暖かかったんだけどさ……
「さて、私たちの言ったことをちゃんと守りつつ、まじめに魔法の練習をしているようだから、カーリーンにも今日から少し攻撃魔法も教えるわね。あなたの場合は魔力操作がうまいから、他に教えることがなかったっていうのもあるけれど……まぁ普段の言いつけも守っているし、しっかりしているから大丈夫よね」
「はは。そうだなぁ。聞き分けがいいしな。それに、前にも使ってるじゃないか」
「……あのときは……まぁ……まだ早いとは思っていたけれど、他の魔法と比べると危険性は低いものだったし……カーリーンが使うと、どうなるか気になったって言うのもあるけれど……」
父さんに、以前アリーシアが来ていたときに使った【ウォーターボール】のことを指摘されて、母さんは言い訳をするようにブツブツと言っている。
「ま、まぁ。仮にカーリーンが稽古以外で使っていたとしても、おまえなら余裕で対処できるだろ? だからこそ使わせたんだろうし、あれから何事もなかったんだからいいじゃないか」
「そ、そうね。魔法の練習をする以上、いつかは使うことになるものね! さて、今日はそのあたりも教えるからちゃんと覚えてほしいわ。そこまで時間はかからないから、エルとライはいつものように【ライト】で魔力の調整の練習をしててね」
父さんの言葉で調子を取り戻した母さんは、兄姉に普段と同じ練習をするように伝え、俺に魔法のことを教えるために隣に座った。
「まずね、前に使った【ウォーターボール】なのだけれど、あれも一応攻撃魔法なのよ」
「うん。言ってたね」
「……そもそも攻撃魔法といっても、初級や中級のようにランク分けされているの。その中でも"初級"の魔法は適性がなくても、魔力量とある程度の技量があれば使う事は出来るのよ」
「適性っていうのは、俺は水魔法の適性が高そうって言って、母さんは土魔法が苦手だから、その適性がないかもって言ってたやつだよね?」
「……本当に記憶力がいいわね……まぁそのとおりね。その様子だと覚えてるかもしれないけれど、中級以降になると、適性がない人が使うと消費が大きくなりすぎたりして、まともに使えなくなるわ」
兄さんたちに教えているところを聞いていたため、ある程度内容は知っているのだが、一応理解したことを示すために頷きつつ話を聞く。
「逆に言うと、魔力量があって魔力制御がちゃんとできてたら、適性がなくても中級魔法も使えるってこと?」
「そうね。私は土魔法が苦手だけれど、一応中級も使えるからね。まぁそれでも魔力を多めに使うことになるから、普通はそういう属性は使わないのだけれど」
「なるほどぉ……そういえば属性の話で空間魔法とか重力魔法とかの話もしてたけど、それらってどういう扱いなの?」
この流れであれば、今の俺なら聞いてもおかしくないと思い、半年間我慢していたことを聞いてみることにした。
「そうねぇ……あれらもそれぞれ別の属性として分類されているのだけれど……その2つには"初級"に分類されている魔法が存在しないのよね」
「てことは、母さんが使ってた【レビテーション】は、中級より上ってこと?」
「そうなるわ。あら? カーリーンの前で使ったかしら?」
「ほ、ほら、棚を動かすときに使ってたよ?」
「そうだったかしらね?」
――危ない……あれはまだ赤ちゃんの頃の話だった……しかし、それで納得するってことは、実際に模様替えとかでも使ってるんだろうな……
「でもそういうことに使う余裕があるなら、母さんは重力魔法の適性があるんだね」
「そうね。魔力消費も多くは感じないから、そうなのでしょうね」
「"そうなのでしょうね"ってことは、実際に適性があるかは知らないの?」
「えぇ。ほとんどの魔法使いは、魔法の練習をするときに実際に使ってみて、"使いにくい"とか"消費が多い"とかで判断しているわ」
「……それって魔力量が少ないと危ないんじゃ……」
「ん~。初級魔法であれば、適性がないからといって一気に消費が増えるというわけでもないから、そうでもないわよ? まずは生活魔法から練習するし、その段階で魔力量はある程度わかるからね」
「その生活魔法での練習で魔力を使うから、魔力量も増えていって変わるんじゃ?」
「まぁ増える分には問題はないからね。でも成長度合いも人それぞれだから、少ないと分かって魔法使いになることを諦める人もいれば、鍛錬してちゃんと魔法使いになった人もいるから、人それぞれよ」
――たしかにそうか。それに成長度合いが人によって違うなら、そのあたりも魔法使いになるための素質の1つなんだろうし、そこからの判断はその人次第だよな。
「まぁ、カーリーンはもちろん、ライもエルも魔力量は十分あるしさらに増えているようだから、初級魔法で自分の適性を把握しつつ練習ね」
――俺はイヴから全ての魔法適性を貰ったって知ってるから調べるまでもないが、そういう人ってどれだけいるのだろう……母さんですら土属性が苦手って言うくらいだから、全属性ではないだろうしなぁ……
「あれ? 適性を知るのに"ほとんどの魔法使いは"って言ってたけど、別の方法もあるの?」
「あるわよ。魔法省で診てもらうことで、ある程度はわかるわ」
「なんで母さんは見てもらってないの?」
「ん~。さっき言った方法で判断できるってのもあるし、診られる人も多くはないからそこそこ高いのよねぇ……」
「公爵令嬢だったのに? じいちゃんなら出しそうだけど……」
「まぁそうでしょうけれど、あくまでもわかるのは"ある程度"なのよ。幼い頃から魔力量が十分あって、魔法の練習をリデーナとしていたから、お父さまが知ったときには必要なかったっていうのもあるわねぇ」
――そう思われるほどの魔法技術になるまで、じいちゃんに隠してたのか……
「それにちゃんと魔力制御出来ていれば、適性が無くても使えるから、知らなくてもいいと思っているからね」
「まぁ母さんは魔力量も多いし、魔法技術も長けてるからね……」
「他人事のように言っているけれど、あなたも私と同じ、いえ、私以上になる可能性が高いのよ? もしかしてカーリーンは、自分の適性を調べてもらいたい?」
「ううん。俺も調べてもらうのは別にいいかな……母さんに教わりながら練習していけば、立派な魔法使いになれそうだし」
「まぁ! 嬉しいこと言ってくれるわね! わかったわ。しっかり教えてあげるわね~」
俺の言葉で嬉しくなった母さんが、抱きつきながらそう言ってくる。
――母さんは"ある程度"と言ってたけど、万が一全属性適性があるって知られたら、間違いなく大変なことになるもんな……それはなんとか回避できそうで助かった……
そう思いながら母さんになされるがままに抱き付かれて撫でられていると、姉さんに見られて追撃をくらうことになった。
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