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88.黒髪の女の子

 黒髪の少女は俺たちに褒められてからモジモジしていて、なかなか言葉を発さないので俺の方から声をかけてみることにした。


「神父さんが言ってたけど、よくお祈りにくるの?」


「え、あ、はい。川を渡ってすぐの所に家があるので……」


 予想は当たっていたらしく、近所に住んでいる子らしい。


「ルナさん、こちらは領主様のお子である、エルティリーナ様とカーリーン様です」


「えぁ!? じ、自己紹介もせずにすみません! わ、私はルナといいます! ルナとお呼びください!!」


 ルナと呼ばれた少女は、神父さんの紹介で俺たちが貴族の子だと知り、慌てて頭を下げて自己紹介してくれる。


「そんなに硬くならなくていいわよ?」


「で、でも……」


「うちの父さんも母さんも、町の人とは普通に接しているしね」


「そ、そうおっしゃるのであれば……」


 ――姉さんと同じくらいの年齢かな? 身長も同じくらいだし、言葉づかいも結構しっかり教えてもらってるみたいだしな。


「そう、だから話し方も普通にしてくれてもいいのよ?」


「あ、いえ、普段から私はこんな感じなんです」


「そうなの? あ、神父さんに紹介してもらったけれど、私はエルティリーナ、こっちは()のカーリーンよ。よろしくね」


 姉さんが俺の紹介もしてくれたので軽く会釈をする。


「はい、こちらこそよろしくお願いしま……え!? ()なんですか!?」


「そうよ? 髪の色も同じだし、そう見えないかしら?」


「あ、いえ! ()()だと思っていたので……すみません……」


 ルナさんは俺が男の子だと思っていなかったらしく、申し訳なさそうに頭を下げてくる。


「あはは、気にしなくていいよ。もう慣れたから……」


「可愛いでしょ」


「はい! 2人ともすごく可愛らしかったので、その……まさか男の子とは思わず……」


 そういうルナはどこか迷ったように視線を動かす。


「ん? 俺が男だと何かまずい?」


「あ、いえ、何かあるというわけではないのですが……」


 ――まぁまだ子供だしなぁ……もしかしたら父親が過保護で、男の子との接触を気にするタイプなのかもしれないなぁ……


「お姉ちゃんが"男の子と遊んじゃダメよ、その時は私も呼びなさい"ってよく言っているもので……」


 そう思っていると、まさかの姉からの言葉と知って苦笑する。


「あはは、だいじに思われてるんだね……」


「はい……まぁでも今は話してるだけですし、"遊んでる"わけじゃないので別に問題はないですよね」


「あなた、姉がいるのね」


「はい。私と同じで黒い髪で、長さも同じくらいです」


 そういうルナさんは真っ黒な髪を腰近くまで伸ばしており、縛ったりしているわけでもないのに、ハネたりすることもなく真っすぐまとまっているので、本当にキレイに見える。


「そうなんだ。何回か町にもいったことあるけど、ルナさんみたいな真っ黒な髪の人は見たことがなかったよ」


「そうですね、私もあんまり見たことないです。両親も黒っぽい髪色ですが、私たち姉妹ほど真っ黒というわけではないので……」


「そうなのね。でもその髪は本当にステキだと思うわよ」


「あ、あり、ありがとうございますぅ……」


 再び面と向かって褒められたルナさんは、顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。


「ルナさんはお祈りに来たんだったね、邪魔してごめんね」


「いえ! 邪魔なんてとんでもないです!」


「私たちは迎えが来るまでここで待ってるんだけど、お祈りのあともう少しおしゃべりしない?」


「あ、えっと……お姉ちゃんと出かける用事があって……ほ、ほんとうにすみません!」


「それは仕方ないわね。それじゃあまた今度会ったときにおしゃべりしましょ?」


「は、はい! ぜひ!」


 断ることをすごく申し訳なさそうにしていたルナさんは、姉さんの言葉で満面の笑みを浮かべて返事をした。




 ルナさんがお祈りを出来るように、俺たちは奥の部屋へ先に向かわせてもらい、少し待っていると神父さんがお茶を持ってきた。


「お待たせしました」


「いえ、ありがとうございます」


「ルナはもう帰ったんですか?」


 俺がお礼をいうと、姉さんが神父さんにそう聞くと「はい」と答えて、俺たちの前にお茶を置いてくれる。


「神父さんもお時間があるなら一緒にどうですか? お話も聞きたいですし」


「カーリーン様がそうおっしゃるのであれば、ご一緒しましょう」


 神父さんは微笑んでそう言うと、自分の分を用意して対面のソファーに座った。


「あの子……ルナはよく来てるんですか?」


「えぇ。時間をみつけて1人で来ては、短時間ですが非常に熱心にお祈りをしておりますね」


「あら? ()()でってことは、ルナの言ってたお姉さんは来ないの?」


「そうですね。ルナさんの姉は1歳の"感謝の礼拝の儀"以降来ておりませんね。まぁ来られない方も大勢いますし、来ていないからと言って何か言うわけでもありませんが。それに町では見かければ普通にお話しもしますし、()()()で優しい良い子ですよ」


 ――その"妹想い"の度合いがちょっと気になるけど……まぁルナさんから聞いただけで、実際どう言ってるのかは知らないしな。それに妹が男の子と遊ぶのを嫌がっててもおかしくはないか。俺に妹がいたら……う~ん……前世の記憶もあるから()のような対応になって、同じようなことを言いそうだなぁ……


 そんなことを思いながら、さっきイヴラーシェから聞いた事は、この世界ではどういう認識なのか気になって聞くことにした。


「神父さん、神様のことで聞きたいことがあるのですが」


「えぇ、構いませんよ。なんでしょうか」


「この村の近くにある森には祝福というか、何かそういうものがあるっていう言い伝えとかはあるんですか?」


「あぁ、"アマリンゴ"の件ですかね? 確かに()()は場所によっては"神の気まぐれ"と言われておりますが、近くの森にはそういった伝承などはございません」


「そうなんですね」


「北西にある森はともかくとして、南の森よりも凶暴なモンスターが少なく、それは"神々から何かしら祝福を受けているのではないか"という話もされたことはあります。ですが、あくまでも"少ない"というだけで、もっと北の方の山の麓まで行けばそれなりに強いモンスターが出ますから、やはり違うのではという話に落ち着いたのですよ」


 ――なるほど? イヴから聞いた話だと、豊穣神様の祝福のような物がかかっているらしいけど、モンスターを完全に寄せ付けないとかそういうレベルではないのか。"漏れ出ていた力"みたいなこと言ってたし、それでそんな効果があったら世界にとって大きな影響になるし、そこまでいくとイヴが止めるか。


「まぁ私の見解としましては、奥に行くと見かけるモンスターも浅い部分まではこないという事を考慮しまして、やはりあの森には何かしらあると思っておりますが」


 "なかなか鋭いな"と思いつつ神父さんを見ると、ニコっと笑ってくれる。


「お父さんも"あまり奥までは行くな"っていつも言ってるものね」


「そういえば姉さんはあの森に行ってたね」


「流石にお兄ちゃんと一緒だけれどね」


「モンスターとかにであわないの?」


「う~ん。本当に浅い部分は普通の獣ばかりよ? カーリーンでも行けるくらい平和だと思うわ。少し奥に行くとモンスターも出るけれど、私たちで倒せるくらいだし」


 ――なんだと……すでにうちの兄姉はモンスターとの戦闘経験があっただと?


「ははは。エルティリーナ様もライニクス様と一緒に稽古に励んで腕をあげているとよく耳にしておりますが、さすがでございますね。いくら弱いモンスターしかいないと言っても、村では大人が対処するものですよ」


「お父さんやお母さんが来ると、見る間もないくらい一瞬で倒しちゃうんだもの。私やお兄ちゃんの訓練にならないわ」


「それはそうでしょうね」


 ――あの両親が相手だとそうなるだろう……というかたまに森に行ってるのは訓練だったのか……


「それにリデーナやロレイも強いし……私も頑張らないと」


「あの2人も魔法がうまいもんね」


「え? ロレイは普通に剣で戦ってたけど……まぁでも屋敷で空気を入れ替えるときとかは魔法使ってるわね……てことは攻撃魔法もうまいのかしら……私も魔法を使えたほうがいいのは分かるんだけど……勉強……いや、でも魔法も……」


 ロレイナートが魔法技術に長けていると知っている俺が言うと、姉さんは何か考え込むように手を口元に当てて、ブツブツとつぶやいている。

ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!


あと2,3話ほど書いたら、春まで時間が飛ぶ予定です。

ちょっと王都での出来事としてどれを書こうかとネタの選別中でして、もう少々お待ちください。

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