87.祝福と力
「加護や魔力はわかったんだけど、言葉を覚えるときに"祝福"のようなものを与えてるのか? やましい気持ちがなく、やる気があれば覚えるのが早いって聞いたし、実際に兄さんたちが言葉を覚えるペースがすごく早かったんだが……」
「それをやったのはボクじゃないけど、祝福をあげてるね」
「やっぱりそうなのか。やましいことを考える人間が馬鹿ばかりなわけないし、むしろ小賢しいというかずる賢いというか、頭のいい奴もいるだろうし。そういうヤツらだけが言葉を覚えるのが極端に遅いってことは、何かあるんだろうなぁとは思ってたよ」
「あはは、キミもいうねぇ……まぁ結構こまめに世界を見てる神もいるから、"祝福"をあげていても不思議じゃないからね」
「それくらいの力は使っても平気なのか」
「うん。人間全体に同時にって規模じゃないし、覚えるまでの間っていう短期間だしね。なにより、効果はともかくボクと比べると力が弱いから影響はないんだよ……」
その言葉の最後のほうでイヴは、どこか遠い目になる。
――そりゃあイヴは創造神だし、そうなるだろうが……イヴも結構見てるみたいだし、"何かしてあげたいけど何も出来ない"という、もどかしい気持ちになる事もあるんだろうな……
「あー、あと、果物の話なんだけどさ。"見た目は一緒でも味が変わっているもの"ってのがあって、それらが地域によっては"神の気まぐれ"とか"妖精のいたずら"とか言われてるみたいなんだが、関係あるのか?」
少し空気が重くなりそうだったので、慌てて別の質問をする。
「ん~と、それはキミが住んでる近くだと、柔らかくて甘いリンゴの話?」
「え、あぁ、そうだけど。そっか、イヴも地上にきてるから食べたことはあるか」
「いや、ボクは食べたことないけど、あの森は豊穣神のお気に入りの1つだからね。聞いたことがあるんだよ」
「豊穣神っていうとグラルート様だっけ……え、っていうことは、本当に神様関係でそうなってるの?」
「そうだね。ボクの世界には他にもあちこちにあるよ」
――アレは"この世界特有のそういうもの"と思って聞くつもりはなかったんだけど、まさか呼び名のとおりだったとは……
「お気に入りってことは、何か祝福がかかってる的な……?」
「ん~まぁ祝福に近いけれど……本当のことを言うと、別にグラルートが何か思ってやってるわけじゃないんだよね……」
「意図的じゃないんだ……」
「グラルートは"豊穣神"なだけあって自然が大好きで、あちこちに気に入った土地があるんだけど……神として力もあるほうで無意識に弱い祝福を、そのお気に入りの土地に与えてるみたいでね……」
「その力のせいで変種が生まれていると……なかなかトラブルメイカー気質な神様だな……」
「あはは……まぁ世界にいくつかあるけど、意図的にやってる大々的なものではないから、この件も別に問題はないんだよ。報告はしてくれてるしね」
イヴは苦笑しながらもどこか楽し気にそう話す。
「うちの領では"変種"って言われてるけど……怒られない?」
「あははは! 大丈夫だよ。グラルートはそんなことで怒りはしないよ。むしろ、そう呼ばれても納得すると思う。いつか話すことがあれば聞いてみるといいよ。僕もそこまで詳しくは聞いてないからね」
「そうなのか……」
「そうそう。それにさっきも言ったとおり、あくまであちこちにあるものの1つだしね。キミの言ったとおり地域で呼び名が違う事もあるだろうし、気にしなくて大丈夫だよ」
そのあと他愛もない雑談をしてすごしていると、イヴが何かに気がついたような表情になる。
「ん? どうした?」
「いや、キミのお姉さんが……あー、いや、これはボクの口からいう事じゃないかな」
「気になるんだが……」
「あはは、ごめんね。まぁ本人に聞いてみるといいよ。キミから聞かれたら答えてくれるんじゃない?」
「たしかに教えてくれそうだけど……」
「キミのお姉さんのお祈りも終わったみたいだし、そろそろこっちもお開きかな? 待たせるのも悪いしね」
「そうか。今日はなんか色々質問ばかりになってしまったけど……」
「いいよいいよ。キミがちゃんとこの世界で過ごして、周りのことを気にしている証拠でもあるからね。無関心でいられるよりよっぽどボクは嬉しいよ」
「そういってもらえると気が楽になるな、ありがとう」
「お礼を言うのはこっちもだよ。色々なお話に付き合ってくれてありがとうね。またチャンスがあったら地上でもお話しよう」
「それにはまず、リデーナの気をどうにかして別のものに向けさせないとな」
「あはは、あの使用人の気を他に向けさせるのは難しそうだねぇ。まぁまた時間があるときに教会にも来てくれると嬉しいな」
「あぁ、もちろんだ」
「それじゃあ、またね」
イヴが微笑んでそう言ったので「あぁ、またな」と返事をすると、俺の視界は白い光に包まれた。
ゆっくりと目を開けると、さっきの姿とはまったく違う創造神の像が目に入った。
イヴが姉さんがどうとか言っていたので横を見ると、姉さんは俺を見ていたようで目が合った。
「え、な、なに?」
「ううん。カーリーンって普段から大人しいときは大人しいけれど、お祈りするときも微動だにせずに真剣にお祈りするのね」
「ま、まぁね。姉さんは何か願ったりしたの?」
――こっちの時間はゆっくり進むとは言ってたけど、意識はあっちにあるし、微動だにしてないのはしかたないよな……
それを姉さんに言うわけにもいかないので、話を変えるためにイヴが言っていて気になる事を早速聞いた。
「え? カー、家族が元気でいられますようにって」
何か言いなおした気がするが気のせいだろうと思い、「そうなんだ」と返事をする。
――それがイヴにまで届くってことは、熱心に祈っていたんだろうなぁ。
「本日も熱心に長い間お祈りをされておりましたね」
俺たちが話し始めたので、神父さんが戻って来て話しかけてくる。
「まだカレアリナン様は来られておりませんので、奥でお茶でもお出ししましょう」
神父さんがそう誘ってくれるので、俺たちは席を立った。
「あのー、すみませーん」
奥へ行こうとしていると入口のほうから女の人の声がしたので、神父さんは「少々お待ちください」と俺たちに言って、様子を見に行った。
「あ、神父様、こんにちは」
「えぇ、こんにちは。今日もお祈りですか?」
「はい」
俺も気になったので様子を見に行ってみると、そこには真っ黒い髪と瞳の少女が立っていた。
――おぉ。黒っぽい髪の人はそれなりにみたことあるけど、あそこまで真っ黒な人は初めて見たなぁ。服装はシンプルな感じで、子供1人でこの教会に来るってことは、この村かここから近い町に住んでる子なんだろうか。
「この村の子かしらね?」
「姉さんも知らないの?」
「結構こっちに来てるけれど、見たことないわね。まぁ黒っぽい髪の子もそこそこいるし、覚えてないだけかもしれないけれど……」
姉さんは俺が見に行ったからか後ろから付いてきており、その少女を見てそう言う。
「あ、こ、こんにちは」
「こんにちは」
女の子が俺たちに気がついて挨拶をしてくれるので、出て行って挨拶を返す。
「え、えっと?」
出てきた俺と姉さんをみた少女はポーっとして固まっていたので、俺から声をかけることにした。
「え、あ! ご、ごめんなさい! 2人とも、か、可愛かったのでつい……」
「あら、ありがとう。あなたも可愛いと思うわよ?」
「あ、ありがとうございます……」
「それにその黒髪もキレイだしね」
姉さんと俺に褒められた少女は、顔を真っ赤にして「あぅ……」と言いながら俯く。
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