86.加護と魔力
「ほかに何かある?」
「あるにはあるが……いいのか?」
イヴはどこか期待しているように聞いてくるが、"全部教えるのは違う"と言われたばかりなので少し躊躇ってしまう。
「キミが知りたいと思うなら教えるのは構わないよ? 聞かれてもいないことを色々教えるのはなぁ~って思っただけだから。まぁ内容にもよるけど」
「それなら"加護"について聞きたいんだが」
「いいよ。まず"加護"ってどういうものって認識?」
イヴは即答すると俺が知っている内容を聞いて来るので、前にアリーシアさんと母さんから聞いたことを伝える。
「そうだね。その怪我をしにくくなるってイメージで合ってるよ」
「それはイヴが直接、"加護"を与えたって伝えたのか?」
「というと?」
「普通に生活してて怪我をしにくいなら"そういうもの"として受け入れられてると思うんだけど、みんな"加護"ってちゃんと認識してるから気になって」
「あ~、なるほどね。キミがさっき言ったとおり、昔"加護を与える"って神託をしたことはあるんだけど、それが今でも伝わってるんだね」
「そういう事だったのか……世界を作った時から与えてたんじゃないのな」
「そうだよ。正確に言うと人々に危害を与える存在、特にモンスターって言われてる存在が現れてからどんどん凶暴になっていって、けがをする人が多くなり始めたから、少しでも生きながらえるように加護を与えたんだよ。まぁ今でもモンスターによる被害はあるけれど、それに対抗する力もつけてきているからそこは安心しているね」
イヴはどこか懐かしんでいるような表情でそう言う。
「そもそも原因となったモンスター自体をどうにかするのは、干渉し過ぎるからダメとかそんなところか?」
「あっはははは、そうそう。ボクは創造神って言われてるけど、なんでもできるわけじゃないからね。あまり力を使い過ぎると世界が崩壊しかねないし、ボクが力をつかわないことに越したことはないんだよ」
「人間全員に加護をつけるって時点で、相当干渉してそうだけど……」
「そうだね……でも本気で対抗するなら"モンスターの攻撃では、傷を負わないくらいの加護"を与えるべきなところを、干渉しすぎになるからそうしてないんだよ。転んだくらいじゃ怪我はしないけど、剣で斬られたりすればもちろん切れる。そんな程度だね」
「それだとモンスター相手にはほぼ無意味なんじゃ」
「軽いけがをしなくなっただけでも、それだけ訓練とかで鍛えられたりするでしょ? その差のおかげもあったのか、ちゃんと強くなっていったからね」
「それもそうか。"加護"を貰えたって知って、気の持ちようが変わったってのもありそうだしな。しかし"そんな程度"って言うけど、うちの家族は吹っ飛んでも平気そうなんだが……」
稽古の時の兄姉の様子や、父さんとヒオレスじいちゃんの手合わせの時を思い出しながらそう言う。
「あはは。アレは受け方や防御がうまいのが大きいよ。加護だけだと普通に怪我するから気を付けてね」
「そう言えば父さんもそんな事言ってたな……気をつけよう……」
「うんうん。モンスターからの攻撃も上手く受けられれば、怪我をすることもないからね」
「そういえば、モンスターってどうやって生まれるんだ? いや、これは聞いたらダメなやつか……」
「ダメってわけじゃないど……そうだねぇ。簡単に説明すると、魔力が澱んで徐々に悪性を持ち始め、直接モンスターが出てくる穴が出現しちゃうんだ」
「穴……?」
「そう穴。キミに分かりやすく言うならスポーンポイントとかかな。それが厄介でね、別次元とつながってるわけじゃないのに、なぜかそこから出てくるんだよ」
「"なぜか"って……イヴでも分からないのか」
「うん。ボクは世界に様々な素材は与えるけど、作り上げるものはその世界に任せてるって感じだからね。この辺りはちょっと説明が難しいかな」
――神様でも分からないのかって思ったけど、言われてみれば納得かな。素材の準備はするけど干渉できないなら、思いもよらないものが作られることもあるか。
「それで、キミならここまで話せば分かってると思うけれど、モンスターを生む原因となる魔力自体もどうこうできるものじゃないんだ」
「消したりするのはもちろん、変質させることも干渉のし過ぎで、世界が崩壊するかもしれないからか」
「そう。それに加えて、ボクの世界で魔法の源でもある魔力は"生活するために欠かせないもの"になっている。だからこそそっちは手が付けられないから、被害を抑えるために後付けで人々に"加護"を与えたんだよ。ただ、魔力自体はこの世界に最初からあるから、ボクが人に与えたってわけじゃなく、自然と体内に持つようになっていったんだけど」
俺は教会の関係者や、その手の探究者が聞いたら卒倒しそうな内容を、嬉しそうに話すイヴを見ながら納得していった。
「まぁ魔力が澱んでモンスターが生まれてくるように、身体にも害になる可能性は考えていたから、いざとなればそれに抵抗できるように与えるつもりだったんだけど、自然と体内に保有して生まれるようになり、それを生活や戦闘に使うようになってうまくやってるから、生物の進化ってすごいよね」
「なるほどなぁ。ん? そうなるとうちの近くの森ってモンスターが頻繁に出るらしいんだけど、その澱んだ魔力があるってことだよな? モンスターと遭遇するって意味以外でも危険なんじゃ……」
「さっきも言ったとおり抵抗するための魔力だからね、気分が悪くなったりすることはあると思うけど、直接命に関わるものではないよ」
「イヴが言うんだしそこは安心できるんだが、魔力量が少ないとかは関係あるのか?」
「ん~、もちろん魔力がある人と比べると、少ない人のほうが具合が悪くなりやすいけど、別に完全に魔力がないからと言って死んだりするほどではないよ? それに気力によるカバーもできるしね」
「それで父さんは平気なのか……」
「いやぁ、あの人は魔力量もなかなかに多いよ? 魔法が使えないだけで」
「え゛、そうなんだ……そういう人もいるのか。っていうか、魔力が完全になくなると死ぬって教わったんだけど?」
父さんのハイスペックさを改めて知って驚きながら、イヴの言葉が気になって聞き返した。
「それも間違いではないかな。そうなる前に気絶したりしてストッパーが掛かるし、魔力を与えることは出来ても抜き取るなんて普通は出来ないから、そうそう起こる事じゃないけど。まぁ"魔力がある状態からなくなる"のと"もとから魔力がない"っていう違いだよ」
「10から0になると死ぬけど、元から0だと別に大丈夫……あれ? 魔力がない人もいるのか」
「そうだね、まだ数は少ないけどそういう人も生まれ始めてる。さっきも言ったとおり、そういう人には害になる可能性もあるから一応監視してたんだけど、どういうわけかしっかり耐性を持ってるみたいだね」
「"どういうわけか"って……しかし、そういう人は魔道具とか使えなくて生活が難しいどころか、最悪、迫害とかされてそうだな……」
「魔道具は空気中の魔力を纏っている人体を感知してるから使えるかな。生活に関しても魔力量が少なくて生活魔法すら使わない人が元からいるし、そういう人と変わらないどころか魔力がないって自覚もないだろうから、他人に知られることもないと思うよ?」
「魔道具のアレってそういう感じなのか……まぁそれなら心配ないか? ……もしかしてそういう人が生まれたのって、この世界のエネルギーがなくなりかけてるのと関係してるのか? 俺が元いた世界からエネルギーを貰うって話だったし」
「キミのいた世界から魔力とかを貰ってるけど……キミは本当に察しが良いね……でもその予想はハズレだね。少なくなってたのは事実だけど、世界に影響はない程度だったからね」
「そうか。でも魔法がある世界で魔法が使えない、か……使えない人もいるから気にしないって人も多いんだろうけど……魔法を使えるようにしてもらって感謝してるよ」
「あはは。まぁエネルギー不足で消滅する心配もなくなったし、キミは楽しんで生きてくれればいいよ」
イヴは突然お礼を言われたからか、少し照れくさそうにしながら笑顔でそう言った。
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誤字報告も非常に助かっております。
今回も説明回でしたが……イヴに説明してもらってる関係で「」だらけに!
あとちょっと設定をつけ足したり、削ったりしたので、少し違和感あるかもしれません。一応確認はしましたが……