85.溜まってた質問
少しの間そうしていると瞼が光りに照らされたので、あの真っ白い空間に来たのだと分かった。
「いらっしゃい」
嬉しそうな女の子の声が聞こえたのでゆっくりと目を開けると、いつもの白いワンピースを着たイヴが笑顔で立っていた。
「前に話したのは夏だったから、久しぶり、でいいのかな?」
「あれから何回か村や町には行ってるけど、出会わなかったもんな」
夏のじいちゃんたちとのお出かけの様子から、"使用人と一緒ならとお出かけしてもいい"と許可を貰えた俺はたまに遊びに行っているが、まだ時間も短く頻繁には行けていない。
それでも何回かリデーナとお出かけしていたのだが、イヴと会ったことがないのを不思議に思っていた。
「いやぁ~、こっそり見てはいたんだよ? でもずっと使用人が一緒にいて離れそうになかったからねぇ……」
イヴはのぞき見していたことを白状して、バツが悪そうに苦笑しながら頬をかく。
「前みたいに、何かしらの力を使えばよかったんじゃ?」
「いや~ボクが地上に降りてるときは力は封印したりして調整してるから、ある程度のキッカケがないと無理なんだよ。あの時はちょうどキミから離れてたからそれが出来たけど、ずっと一緒にいる人を引き離したうえで、認識を変えることまでは難しいかなぁ」
「たしかにあの時はリデーナもじいちゃんたちを気にしていたか。俺と2人きりのときだと、俺がイヴと話しているときに空白の時間が出来ちゃうから、その間の記憶をどうにかしなきゃいけなくなるし、そう考えると大変そうだもんな……」
「相変わらず察しが良くて助かるよ。時を止めるわけにもいかないからね~」
「認識阻害が無理なら、時間停止なんて力はもっと無理だろうしな……」
「この神界にいる間も完全に停止はさせてないしね。ある程度ゆっくりにはしているけど」
「前からそうだったけど、やっぱり世界に影響出るからか?」
「というよりは、キミのためかな」
イヴの言葉を聞いて、すぐに理由が分からなかったので「俺の?」と素直に聞き返した。
「そう。ただでさえ前世の記憶があるのに、ここでさらに精神的時間を大きく引き延ばしちゃうと、今後の成長になにかしらあるかもしれないからね……」
「あぁ……魂の容量的な?」
「あはは、本当にキミは色々知ってるね……まぁさすがにそこまでの影響はないから安心していいよ。でもなにせ別世界から魂を呼んだのは初めてだからね、他のことで何かあるかもしれないし念には念をだよ」
「なるほど。それで少し時間があるときに礼拝に来ても、話せる時間が短いからここに呼んだりしなかったんだな」
毎回ここに呼ばれているわけではない理由を知れて、俺はすっきりとした。
「今回は時間がありそうだからお話ししようかと思ってたら、キミの方からボクを呼んでくれたから嬉しかったよ。それで、ボクを呼んだってことは"お詫びの件"で何か思いついたのかな?」
「え? あ~……まだ思いついてない……」
「あれ、そうなの? てっきりその話をしに来たのかと思ったんだけど……それなら君の深層心理の中でも覗いてみようか? なんてね」
「そういえば俺の思考とか読めるのに、そうしないでくれてるんだったな……」
「会話を楽しみたいからね。特にキミとはね」
イヴがニコッと笑いながらそういうので、俺は嬉しい気持ちになる。
「まぁそれで俺が認識していない願いが分かるなら、覗いてもいいぞ?」
「え゛……冗談で言ったんだけど……それに覗かれるのって怖くないの?」
「知らない人に覗かれるのは流石にいい気はしないが、覗くのがイヴだしなぁ。何も不安なことはないかな。今回に関していえば、俺自身が知りたいから許可してるんだし」
「ん~……そ、それなら、少しだけ見させてもらうね?」
イヴは少し頬を染めながらそう言うと、緊張しているような表情で光の球状態の俺を凝視する。
「ど、どう? 何か願いらしいものはある?」
「……ぷっ。あははは! 本当にそれらしいものは何もないね! "体力が欲しい"って思ってるけどそれも自分で解決するって決心してるみたいだから、ボクがどうこうするものでもないし」
「体力はまだまだこれからだしなぁ……ってか本当に何もなかったのか」
体力の事を知られたのは少し恥ずかしいが、それ以上に願いらしい願いがなかったことに俺自身も驚いている。
「町で会った時は半べそかきながら何かないか聞いてきたのに、今日は嬉しそうだな?」
「ここまで覗かせてもらって何も無いってことは、本当に幸せってことでもあるからね。キミを呼んだ身としてとても嬉しいよ」
イヴは満面の笑みでそう言ったあと、少し視線をそらした。
「んで~……町でのことなんだけど……たしかに今のボクとは少し違うんだよ」
「なんかその姿相応な、少し子供っぽい反応もしてたよな。まぁ今も笑った顔とかはその姿に合ってると思うけど」
「あ、ありがとう。一応弁明させてもらうと、さっきも言ったとおり地上に降りるときは力を調整してるって言ったでしょ? その影響で少し子供っぽくなっちゃうんだよ……」
「催眠の副作用か……」
「別に催眠っていうわけじゃないんだけど……まぁ副作用と言えば副作用かなぁ。ボクの力は大きいから、地上に降りるときに調整する力も大きくなっちゃうし……」
「なるほど」
「催眠で思いついたけど、キミがもうちょっと子供らしくなるように催眠かけてあげようか~?」
イヴは"子供っぽい"と言われたのをやり返すかのように、ニマーッと笑いながらそう提案してくる。
「い、いや、それはもう今さらじゃないか!?」
「あは、もちろん本気じゃないよ。キミの周りは今のキミを受け入れてるし、キミの兄はそもそも大人っぽく、姉もその影響を受けてるところがあるからキミだけ子供っぽいのも少し変だし、なによりキミの言う通り今さらだからね~」
俺が少し焦ったことで満足したのか、イヴはいつもの笑顔でそう言う。
「そういえば、まだ本題を聞いてなかったね。今日は"お願い"を言いに来たんじゃないならどうしたの? 普通にお話ししたくなっただけ?」
「まぁ普通の雑談自体もしたかったのもあるけど、ちょっといくつか聞きたいことができて……」
「ほうほう。なになに?」
イヴは嬉しそうに目を輝かせつつ、俺に詰め詰め寄って聞いて来る。
「た、たまに知らない物の名前とかもあるけどさ、リンゴとか俺の知ってる名前がついてるものばかりなんだけど、これってイヴからもらった"言語理解"のおかげなのか?」
「あ~、その能力のおかげもあるけれど、そもそも名称はキミのいた世界とほとんど同じだね」
「あ、そうなのか」
「うん。キミをこの世界に呼んだ時にも話したけど、キミの世界からエネルギーを貰うには、ボクの世界に呼ばないといけない。その時に理解しやすい方が何かと生きやすいかなぁって思って、名称はそうなるように調整したんだよ」
「それってものすごい時間かかる事なんじゃ……?」
「まぁボクの世界がこうなることは予測できてたからね。かなり早い段階からキミのいた世界に目をつけてて、交渉しながらその様子を見て調整してたんだよ。まぁそれでもボクの世界にしかない物に関してはどうしようもないから、そこは"言語理解"の能力で翻訳されてる感じって思えばいいかな?」
「ほぉ~。なるほどね。どうりで最初話したときに蒸気機関とかすぐに分かったわけだ」
「そういうことだね。まぁボクの世界でも、一応今は蒸気機関のようなものの開発がされ始めてるけど」
「え、そうなの?」
「キミがいる国じゃないけどね。それに魔法もあるからなかなか難航してるみたいだよ」
「あれは手間のわりに出力がないって聞いたことがあるしな……」
「そういうことだね。まぁ気になるならその国の情報教えるけど?」
「いや、今聞かされてもどうしようもないし、気になったら自分で調べてみてどうしようもなかったらまた聞くよ」
「それもそうだね。お話できるのは楽しいけど、なんでもかんでもボクが教えるのはまたちがうもんね」
イヴは笑顔で小さく頷いているので、納得してくれたようだ。
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