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80.脱衣所の鏡

 じいちゃんたちが王都へ帰り、日常が戻って来る。


 帰りの馬車に乗るときは、アリーシアさんはもう少し寂しそうにするかと思っていたが、春にはまた王都で姉さんと会えるのは確定しているし、うちに来て遊ぶ約束もしているからか、最後は笑顔で「またね」と言って出発した。


「これから10日間ほどかけて移動するのね……旅ってどんな感じかしら。お兄ちゃんのときはどうだったの?」


 屋敷の前から馬車が見えなくなるまで見送っていると姉さんがそうつぶやいて、前に王都まで行ったことのある兄さんにその時の様子を聞いている。


「途中で寄った町で食材とか買ったりご飯食べたり、そのまま泊まることもあれば野営もあったね」


「お外で寝たの? いいなぁ~」


「あはは、宿とかと比べるともちろん快適じゃないけど、やっぱりそういうのも楽しかったよ」


 野営どころか外泊もしたことがない姉さんは、外で寝るという話を聞いて目を輝かせている。


 ――やっぱりいつもと違った生活は、どこかワクワクするもんなぁ。それがいろんな町を回りつつ移動できる旅だとなおさらだ。前世でキャンプとかは学生の頃にあった行事でやったくらいで、個人ではやったことないからなぁ。この世界だと街路灯とかないから道の途中とかで泊まることになっても、星とかキレイに見えそうだし楽しそうだなぁ。


「ははは。エルが王都に行くときは野営するか悩んでいたんだが、その様子だとやらないと拗ねそうだなぁ」


「うん。やってみたい」


 父さんが笑ってそう言いながら姉さんの頭を撫でると、姉さんは"自分も野営を経験できる"と期待に満ちた表情で父さんを見上げる。


「でもエル、モンスターとかもいるから、多分あなたが思っているより大変よ?」


()()()()に剣の稽古もしてるんだから平気よ!」


「戦うこと以外の話もあるのだけれどね……」


「まぁ王都へ行くときは俺も一緒だしな。出くわしたら出くわしたで、エルのいい修行になる」


「もう……王都へはお披露目のパーティーに参加するために行くのよ? 万が一到着前に怪我でもしたら大変だから、せめてそれは帰りにしてほしいわ」


 ――そこは"そんなことさせないで欲しい"じゃないんだな……まぁ姉さんなら大丈夫だろうけども。しかしそうか、街路灯とかが整備されない一因に、モンスターがいるからってのもあったな……俺が王都に行くことになった時は、なるべく出会いたくはないなぁ……


 などと考えている時も、姉さんは兄さんから旅のことを聞き出して、春が来るのを待ち遠しそうにしていた。


 兄さんはというと帰ってきた際に一度話しているのだが、その時姉さんは俺を構っていてまともに聞いていなかったため、二度目の話に苦笑しながらも楽しそうに話していた。




 その日の夕食後、母さんたち女性陣がお風呂に入る際に俺は姉さんに捕まった。


 正確には女性陣がお風呂に行っている間に、ドラードに"アマリンゴのおやつとかあるのかな"と聞きに行こうかと思って席を立ったところを、「あ、カーリーンも一緒に入るわよ」と言われ、手を掴まれてしまったのだ。


 そのまま引っ張られるようにして移動したため、こけないように注意していた俺は拒否の言葉を言う暇もなく、脱衣所まで連れてこられてしまった。


 普段からよくこうやって連れてこられているのだが、俺と入ることに対して両親やリデーナたちも()()何も言わないため、ここまで来てしまった以上諦めて一緒に入ることにしている。


 ――ここまできて断って戻るのもなぁ……姉さんが不機嫌になるのも分かってるし……連れてこられる前に断ればいいんだろうけど、まだ引っ張られて歩くとこけそうで話してる余裕ないんだよなぁ……いや? 普段は引くにしてももっとゆっくりだし、アレは姉さんの策略なのでは?


 そう思いながら、自分で服を脱ぐには時間がかかるため、バンザイのポーズをしてリデーナに脱がせてもらう横で、姉さんは自分で服を脱ぎながら上機嫌なようだ。


「えへへ~。久しぶりにカーリーンも一緒ね」


 ――そんな無邪気に喜んでいる顔を見てしまうと、両親たちから止められるようになるまでは断りづらいなぁ……自分が幼いのは自覚してるし散々一緒に入ってきたから今さら裸を見たり見られたりしたところで、姉さんや母さんはもちろん、リデーナにもやましい感情は生まれないし別に一緒に入るのはいいんだけど……


「兄さんがなぁ……」


「ん? お兄ちゃんがどうかしたの?」


「あ、いやぁ……アリーシアさんが来てる間はずっと父さんたちとお風呂に入ってたでしょ? その時に兄さんと目が合うとすぐに視線を逸らされてさっさと上がっちゃうんだよ」


「そういえば、お兄ちゃんだけ先に戻ってくることが結構あるわね」


「うふふ。きっと恥ずかしいのよ。今度からあまり見ないであげてね?」


「恥ずかしい……まぁ男同士でも、そういう人もいるかぁ」


「まぁあなたの場合は、多分その見た目でしょうねぇ」


「えぇー、そこ?」


「ほら、自分で確認してみなさい」


 肌着になるまでは服を脱いでいた母さんに、タオルを巻きつけられて抱き上げられると、脱衣所の鏡台のところへ連れていかれる。


 ――そういえばここには鏡台があったな。散々似ているって言われて気になってはいたけど、ここには長時間いないから見る暇はなかったんだよなぁ。それに、徐々に言われ慣れてきてて気にすることも減ってたし、最近は魔法の事ばかり考えていたしなぁ……


 そう思いながら鏡を見ると長い金色の髪を持ち、クリクリっとした青色の目をした顔が2()()見えた。


 幼いほうが自分でその上に見えているのが母さんなのは分かっているのだが、思っていた以上に似ていて一瞬固まってしまう。


「あら? そういえばカーリーンは鏡を見るのは初めてだったかしら……」


「鏡は脱衣所と奥さまの部屋、後はエルティリーナ様の部屋にしかございませんからね」


「ね? 似てるでしょ?」


 初めて鏡を見た小動物のように固まっていると、横から金髪の少女の顔が鏡に追加される。


 姉さんは目元こそ父さんに似ていてキレイな赤い瞳をしているが、その幼さから父さんと比べるとずいぶん柔らかい印象を受け、髪色も相まって母さんに似ているともいえる顔立ちなため、改めて似ている家族だなと実感する。


 ――というか姉さんはまだ目元が少し違うけど、俺は似すぎでは? このまま成長したら今の母さんのようになるよな……い、いや多分成長していくと、もうちょっと父さん成分も出てくるはずだ! 母さんは可愛いと思うし、それはそれで悪いことではないんだけど……


「幼い頃から奥さまのお世話をさせてもらっていた私から見ても、非常に似ておりますよ」


 少しの願望が混ざった考えをしていると、リデーナから追い打ちが飛んでくる。


「お母さんもそうだけど、アリーシアとも似てるって思ったでしょ」


「た、たしかに……」


 姉さんに言われてアリーシアさんの顔を思い出しながら改めて自分の顔を見ると、目の色こそ違うがかなり似ている。


 年齢的にも近く、幼い顔立ちのせいでなおさらそう見えているのだろうが、そうなるとアリーシアさんもそのまま成長すれば母さんに似てくると簡単に想像ができる。


 母さんはヘリシアばあちゃんに似ているため、血縁的には仕方のないことではあるが従妹でここまで似ていると、アリーシアさんを見た時に家族が驚いていたのも納得できる。


 ――これ俺が王都に行くことになった時、アリーシアさんの両親に会ったら驚かれるやつか? それとも伯父さんは母さんの幼い頃を知ってるわけだし、そうでもないか? 逆に知っているからこそ似すぎてて驚かれるパターンもあるか……


「カーリーンはお母さんに似てるから、お兄ちゃんも見られると恥ずかしいんじゃない?」


「え?」


「だってカーリーンはたま~に、お母さんやお父さんみたいな表情してるときあるけれど、お風呂の時も同じような顔になってるもの」


「ライニクス様からすれば、その表情がどうしても奥さまと被ってしまい、少し気恥ずかしいのかもしれませんね」


 ――あぁ……お風呂での表情は自覚はあるな。染みていく感じが気持ちいいんだもん……というか、お風呂で()()俺を避けるようにしてたって、そういうことだったのか……


 後で本人に聞いてみようと思いつつ、母さんの準備が終わるまで姉さんと鏡台の前で鏡を見ていた。

ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!


 何を勘違いしていたのかこの話の後半部分を書くときに、エルティリーナの髪色を赤色だと思い込んでいました。母譲りの金髪に父譲りの赤い目です!兄は髪色を目元が逆です!

 キャラ一覧メモにも書いてあるのに……

 一応全話確認して、間違えている個所はなさそうだったので安心してます……

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