79.デザートと約束
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アマリンゴを食べきってしまった俺を見て、姉さんが自分のお皿からひと口サイズに分けたものをフォークに刺して、「あ~ん」と言いながら差し出してくる。
「い、いいよ。姉さんの分がなくなるよ?」
「まだあるから大丈夫よ。ほら、あ~ん」
姉さんがチラッと見た視線の先のお皿にはみんなで分けた後残った分があり、"そっちをくれればいいのでは"と思いつつも、口を開けて食べさせて貰う。
――構いたいモードになった姉さんは、なかなか引かないからなぁ……俺が"もうお腹いっぱいだよ"って言っていればこうはならなかったか……
モグモグと俺が食べているうちに自分も半分に分けたものを食べて、さらに残り半分も俺に食べさせようと、フォークに刺した状態でこちらを見ながら待機している。
もう1つ食べさせることを楽しみにしているような目で見てくるので、断ることもできずそのまま食べさせて貰う。
テーブルの反対側にいるアリーシアさんが羨ましそうに見てくるが、おそらく俺に「あ~ん」していることなんだろうなぁと推測する。
――一緒に過ごしてたから、さすがにここで"姉さんに食べさせてほしいのかな"とか、"もうちょっと食べたいのかな"などと思っていないことくらいは分かる……かなり仲良くなったし、姉さんと食べさせあいっこしたいという可能性はあるか? いやぁ、別々のものだったらまだしも同じものだし、多分俺に食べさせたいんだろうなぁ……少し小さめに分けてチラチラ俺を見てるし……
そうと分かっているのに、姉さんに「あ~ん」されたものを食べながら見るのは可哀そうなのでなるべく見ないようにしていたが、さすがにテーブルの反対側にまで来てそれをするのは恥ずかしいのか、席に座ったまま自分の分を食べきっていた。
「お父さん、これって近くの森にもあるの?」
「ん? あぁさっきの話を聞いていたか。そうだなぁ、多分あるぞ?」
「多分なの?」
「子供の頃は見つけたら良く食べていたが、大人になってからあまり気にしてなくてな……昔と場所も変わっているだろうし」
「栽培は出来ないのに、増えたり移動したりするんだ? あ、でも、そうじゃないと枯れていったりして結局なくなっちゃうか……」
「まぁそうなんだ。アレは人の手が入っていなければ普通に実るらしいんだよなぁ……前までなかった場所にリンゴの木があると思ったら、アマリンゴが実ったりな。研究者ですら匙を投げているような不思議なものなんだ」
――確かにそれは研究してもどうしようもないものかもしれないなぁ……アマリンゴの場合、果実もそうなんだけど木自体も普通のリンゴの木らしいし、そもそもどれがアマリンゴだったかすら分からなくなりそうだ。
「うちの前の森にもあるの?」
「昔はあったな」
「じゃあ探しにいこう!」
「い、いや、今はどうか分からんぞ? 前に義父上と手合わせに入った時は見かけなかったし……」
「お父さんリンゴの木わかるの?」
「……分かる木もあるぞ……?」
姉さんに痛いところを突かれた父さんは、目線をそらしながらなんとか面目を保とうとする。
――いやぁ、俺も果実がなけりゃリンゴの木を見分けられないしなぁ……旅をしたことがあったり森に入る機会の多い父さんならそのあたりの知識は結構ありそうだけど、この反応はリンゴの木は覚えてないんだろうな。
「それじゃあ、みんなで行こうよ~」
「うぅ~ん……」
姉さんが言う"みんな"には俺も入っていると確信している父さんは、腕を組んで悩んでいる。
「あの森は安全だしいいんじゃないかしら? ライとエルだけで遊びに行ってるくらいだもの」
「んな!? こちら側は安全なほうだとは思うが、弱くても魔獣が出るだろう!?」
「今のライたちならなんの問題もないし、言いつけ通り奥までは行っていないようだし、たとえ迷い込んだとしても、そこの森だったら2人が大けがするようなモンスターはいないからな」
「だ、だがなぁ……いやぁ、ライは7歳のときすでに王都の新米団員といい試合をしていたな……それにエルのあの力があれば木剣でも倒すのは容易いか……」
じいちゃんは子供たちだけで森へ行っていたことを知らなかったようでものすごく心配しているが、稽古の時の2人の力量を目の当たりにしているため徐々に納得していく。
「いやまぁお前たちは言いつけを破らないし、稽古も頑張っているから自衛もできるし、なにより俺と一緒なら何があっても守ってやるからいいんだが……」
――おぉ! 父さんカッコいい! そうなるとやっぱり俺が問題なんだろうなぁ。まだ幼いし、別に置いて行ってくれてもいいんだけど……いつかはいけるだろうし。
「カーリーンを連れていくかどうかがなぁ……」
「私が守るわ!」
やっぱり俺が原因かと思いつつ聞いてると、姉さんが大声を出してそう主張する。
「たしかにもう守れるくらいにはなってるし、俺だって怪我をさせるつもりはないが……もしモンスターと戦うことになった際に、"襲われた"ということ自体がトラウマにならないか不安なんだよなぁ」
――あぁ~。俺はまだ剣の稽古をしてないし、魔法の方も戦えるレベルまでは教わってないもんなぁ……前世を含めて争いごとには全くと言っていいほど関わりがなかったから、魔法が使えたとして自衛が出来るほど体が動くのかも分からないし……何と言っても体は3歳だもんな……身体が恐怖を感じて動けなくなる可能性もあるし、そんな状態で襲われたあげくまだ幼さの残る姉さんに守られたら……うん、少し心に傷を負いそうだ……
「まぁまぁ、その話はまた今度にしましょう? カーリーンが森へ行っても平気なように色々教えて、またアリーシアちゃんが来た時に一緒に行けばいいんじゃないかしら?」
アリーシアさんの名前が出たので彼女を見ると、寂しくて拗ねているような表情になっている。
――ほんと来たときと比べるといろんな表情を見せてくれるようになったよなぁ……って、なごんでる場合じゃないぞこれ!?
「あ、アリーシア? ご、ごめんね、今度またうちに来た時に一緒に森へ行きましょう?」
「そ、そうだよ、アリーシアさん。それまでに俺も色々勉強して行けるように頑張るからさ」
「むぅ~……本当に? 絶対よ?」
「うん、絶対。約束するわ」
今にも泣きそうになっていたアリーシアさんは、鼻をすするといつもの表情に戻る。
「うふふ。お父さま、お兄さまの説得などは任せましたよ?」
「アイツの説得か……フェディやライたちの実力を知っていても、アリーシアを森へ入らせる許可を出させるのは苦労しそうだが……やるしかないか」
「今回のようにアリーシア自身がお願いすれば、すんなりと許しが出るのではないかしら? あの子は嫁や娘には弱いもの。もちろん妹にも弱いからカレア、あなたからも手紙を出しておきなさい」
「たしかにその方が早そうね。でも森でのことなどのお勉強は、お父さまに任せてもいいかしら?」
「あぁ、それなら喜んで引き受けよう。これだけ楽しみにしている孫を見れば、言われなくとも協力する」
それの言葉を聞いたアリーシアさんは嬉しそうな笑顔を見せて、すごく楽しみにしているようだ。
――アリーシアさんのお父さんからの許可が一番難問みたいだけど、聞いてた感じだと本人や奥さんからの頼みはもちろんの事、妹である母さんの頼みも通りやすいのか……そういえば以前リデーナが、"屋敷の人のほとんどはお嬢様のお願いに弱かった"って言ってたっけな……
姉さんは姉さんで森へ行く約束を取り付けたと同時に、またうちでアリーシアさんと遊べる約束が出来たことをすごく喜んでいた。
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