77.豪華な昼食
屋敷に帰って町でのことを話しつつ、昼食の時間までのんびりと過ごす。
兄さんは親方の話を聞いてもあまり驚いた様子はないので、そういう話を聞いたことがあったのだろう。
「俺たちが買い物に行ってる間はなにしてたの?」
話の流れで兄さんに他愛ない質問をしただけなのだが、なぜか言いにくそうな表情になる。
「え、な、なに?」
「あ~。なんでもないよ。ただ……すこし父さんと稽古したから……」
「あー! 結局やったの!?」
兄さんはそのことを姉さんに聞こえないようにひっそりと俺に言ったはずなのだが、姉さんは驚きの聴覚でその言葉を聞き取り、拗ねた表情で立ち上がる。
どうやら父さんの分の仕事が先に終わり、母さんにも勧められて少しだけ剣の稽古をしたようだ。
――アリーシアさんと話してたのに、今のを聞き取ってくるのか……今朝も稽古がなくなった時すごい反応してたしなぁ。親方とも剣の話をしたから、なおさらやる気が上がってたんだろうか。
「姉さん、アリーシアさんと買い物楽しかったでしょ?」
「そ、そうだよ。みんなおそろいのリボンを付けてるみたいだし、楽しめたんだろう?」
「もちろんお出かけは楽しかったわ。おそろいのリボンを買えたことだし」
帰ってきて屋敷に入る前にヘリシアばあちゃんたちにも見せようという事になり、玄関先でリデーナによって3人とも買ったばかりのリボンに付け替えてもらっており、兄さんはそれに気が付いてなんとか落ち着かせようとする。
そんな姉さんはリボンに気が付いてくれたのが嬉しいらしく、機嫌が良くなっていい笑顔で座り直したので、兄さんはホッと息を吐いた。
「うふふ。3人とも似合っているわよ」
「えぇ、本当に。よかったわねアリーシア」
母さんとばあちゃんにそう言われて、俺はなんとも言えない気持ちで返事をしたが、姉さんたちは嬉しそうに返事をし、ほかに買うか悩んだものなどを話し始めた。
楽しそうに話す2人を微笑ましく見ながら過ごしていると、話の区切りを待っていたのか、いいタイミングで昼食の用意が整ったとリデーナが知らせに来た。
いつもならそのままリビングに運んでもらうのだが、今回はダイニングに準備したらしく、みんなで移動し始めた。
――じいちゃんたちが今日帰るからか? いや、今まで何回か来てるけど、帰る日もリビングで食べてたよなぁ……
そう考えながら姉さんに手を引かれてダイニングへ向かい、リデーナがドアを開けると料理のいい匂いとともに、テーブルの上に並べられてある華やかに飾られた料理の数々が目に入った。
「おぉ。これはまた……」
「ドラードたち気合を入れたわねぇ」
「ほぉ。辺境伯として十分な料理だな」
「ふふ。今まで何回も食べているから、味も美味しいってわかっているもの。王都のナルメラド家のパーティーで出ても何の問題もないほどね」
「あ、あぁ……まぁ、そうだな……」
ドラードと面識のあるじいちゃんは素直に褒めたくないのか、あくまで他家と自分の所の料理人を比べるのが嫌なのか言葉を濁しているが、ばあちゃんはその辺は気にしていないようで、「美味しそうねぇ」と言いながらじいちゃんより先に案内された席に座る。
「「すごぉい……」」
俺の隣に立っていた姉さんとアリーシアさんが同時に同じことを言い、顔を見合わせて笑う。
――ここまで気合を入れて調理してたのか……確かにこれをリビングに運び込むことを考えたらこの部屋に先に並べて、一気に見えた方が見栄えがよさそうだもんなぁ。
「それじゃあ、冷めないうちにいただこうか」
みんなが席に座ったのを確認した父さんがそう言うと、リデーナやロレイナートたちが皿に取り分けてくれる。
最初に取り分けた後も見た目が大きく崩れないように、きれいに切り分けているのは流石だと思いつつ自分の前に置かれた料理を見る。
順番的に俺の分が最後に配られたので、それを確認した後みんな食べ始めた。
「おいし~! あれ? カーリーン食べないの?」
「え、食べるよ。ただ、ドラードが市場で買ってたものって何だったのかな、って思ってただけ」
「あぁ、確かにそうね……何を買ったのかしら」
「昼食に出すものっておっしゃってたけれど……」
料理を食べずに見ていた俺を不思議そうに見ていた姉さんにそう言うと、アリーシアさんもドラードが何を買ったのか気になり始めたようだ。
「ドラードに会ったのは聞いたけど、どこで会ったの?」
「たしか果物とか野菜の店が多かったわよね?」
「うん」
兄さんの質問に対して、姉さんとアリーシアさんは思い出しながら答える。
「そうなると、野菜ならサラダのうちのどれかかしら……」
「"追加で作る"って言ってたし、野菜はベルフが育ててるのがあるから買わないんじゃない? それに俺たちと会う前に肉とかを買ってるかもしれないからわからないね。まぁ果物だとしたらソースとかなんじゃないかなぁ」
「え、ソースってこのお肉にかけてあるやつ? 果物で作れるの?」
「うん。種類によって甘みが出たり酸味でさっぱりしたりと色々変わる……って露店のおじさんが言ってるのを聞いたよ!」
「へぇ~。それかもしれないわね」
俺が説明を始めたあたりで大人組の視線が向いたので、市場でそう話しているのを聞いたことにしてごまかした。
「なるほどね。たまにカーリーンの言葉には驚かされるけど、そうやって知識を得ているのね……」
「仕事で外に行くときもたまに連れて行ってるし、そういうところで聞いて覚えるんだろうなぁ」
両親が納得したように頷いたので変に思われていないと安心し、メインの肉料理から食べる。
――おぉ。このソース結構とろみがあって色も濃いのに、思ったよりさっぱりしてて美味しい。これは本当にソースに果物を使ってそうだなぁ。後で厨房に行ったときに聞いてみよう。
そう思いつつドラードたちの力作料理を味わいつつ食べた。
想像以上に豪華だった昼食を食べ終えて、姉さんがお土産に買った果物を取りに行くことになった。
取りに行くだけならリデーナにでも頼めばいいのだが、お土産として買う事にしたのは姉さんなので自ら取りに行くと言い出し、アリーシアさんもついて行くことにしたようだ。
俺はドラードが市場で買ったものの答えが気になって一緒について行くことにしたので、結局買い物に出かけた3人で厨房へと向かった。
厨房は匂いが廊下に漏れないためにドアを閉めているため、一応ノックをするとすぐにドラードから返事があったので中に入る。
入り口側には使用人たちが食事を取れるようにテーブルが置いてあり、ドラードはそこで食事中だったようだ。
「お、エル嬢きたか。ちょっと取って来るから待っててくれ」
「わかったわ」
ドラードはすでに果物を切って用意してくれていたらしく、食事の手を止めて冷蔵室から果物の乗った皿を2つ持ってくる。
「お嬢からの土産だからシンプルな方がいいと思って、飾りつけとかはしてないんだがどうする? 今からでも簡単にやっておくか?」
「ううん。このままでいいわ」
姉さんはお皿を受け取りながらそう言う。
「あ、あの! ご飯すごくキレイで美味しかったです!」
「おぉ! わざわざありがとうな。ベルフも気合入れてくれたからなぁ」
「そういえばベルフは?」
「あぁ、アイツは食べ終わったから畑の方にいったぞ。俺が後片付けをやるって言ったから先に食ってたからな」
「そのベルフさんにもお礼を伝えておいてください」
「あぁ、もちろんだ。あいつも照れながら喜ぶだろうよ」
「ねぇねぇ、ドラードが市場で買ったものってなんだったの?」
姉さんは食べているときも、「これかしら」などとつぶやきながら食べていたので、答えを聞いてみることにしたらしい。
「ん~。どれだと思う?」
少し考えたあとドラードはニヤッと笑って、いたずらをするような表情で逆に問いかけてきた。
「"どれ"ってことは、あの昼食に使ってたんだよね」
「あぁ。そのために市場に行ったからな」
「ん~。アリーシアは何かわかった?」
「いいえ……どれも美味しかったけれど、あの市場で買った食材というのは思いつかなかったわ」
「"野菜はベルフのがあるから多分買わないだろう"ってカーリーンも言ってたし、私もそう思うわ」
「カーリーン君は何か思いついた?」
姉さんとアリーシアさんは相談して答えを当てようとしたが、思い当たるものがなかったようで俺にも意見を聞いてきた。
「あの付近で買ってたものだとしたら果物で、ソースに混ぜた?」
「お? 正解だカー坊。果汁メインで作るには煮込んだりする時間がなかったから、風味付け程度だけどな」
「む~。やっぱりカーリーンが言ってたので合ってたわね」
「ん? なんだ、食べてる時に分かってたのか」
「露店の人が話してるのを聞いたから、もしかしてって思っただけだよ」
「ほぉ~。カー坊はそうやって学んでいってるんだなぁ」
「母さんにも同じように言われた」
「はっはっは。そうだろうなぁ。ほら、そろそろお土産食べさせてやりな」
「そうね。それじゃあ持っていくわね」
「私は今日で王都へ帰りますが、ご飯ありがとうございました。いつも美味しかったです」
「おうよ。また来る時は楽しみにしておいてくれ」
「はい!」
アリーシアさんがお礼を言ってお辞儀をすると、ドラードはニカッと笑ってそう言う。
果物の載ったお皿は姉さんとアリーシアさんが1枚ずつ持って、ダイニングへと戻った。
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この度ハイファンタジージャンルにて日間ランキング1位をいただきまして、すごく驚いております。(最近驚いてばかりだな……)
相変わらずのんびりとした日常系の話が続きますが、楽しんでいただけると嬉しいです。