76.知り合いのドワーフ
イヴと別れた後、離れていたことに気づかれないようにそうっとみんなの所へ向かう。
やはりイヴが何かしらの能力を使ってくれてたのか、すぐに気が付きそうなリデーナからも何も言われないまま合流できた。
――見える位置にいたとはいえ、知らない子と話してたら何か聞いて来るはずだしな。急に話しかけたから、イヴがそのあたりは気を使ってくれたんだろう。
何も聞かれないことに安堵しつつ、アリーシアさんたちの買い物に付き合い、その店でアリーシアさんは両親へのお土産にカフスボタンと髪留めを買い、自分用にリボンを購入していた。
姉さんも一緒にリボンを2つ買ったので、俺達の手元にはアリーシアさんのと合わせて、同じ模様の色違いのリボンが3つある。
3階にあると言っていたアクセサリーコーナーは子供がお土産に買うにしては高価らしく、2階でお土産も決まったため上がることなく店を出ると、姉さんが俺にリボンを渡してきた。
「はい、これはカーリーンのね」
「あ、ありがとう」
こういう女の子っぽいプレゼントにも慣れてきたつもりだったが、いざ渡されると若干戸惑ってしまう。
――似合うと思ってくれてプレゼントされてるんだから嬉しいは嬉しいんだけど、男としては未だに複雑な気持ちだ……
「前は赤色だったから、今回は薄い水色よ。これで3人ともおそろいね」
「ふふ、嬉しい。いい思い出になったわ。あ、でも王都でのお出かけが……」
アリーシアさんは姉さんが王都に来たら一緒に買いに行こうという約束をしていたため、この町でそれが終わってしまった事を残念がる。
「もちろん王都に行ったらまた買いものに行きましょ? 今アリーシアが言った通り楽しい思い出になるわ」
「うん!」
姉さんの言葉で曇っていた表情が一気に晴れ、いい笑顔で頷く。
リデーナが馬車の準備をしている間、店の前で話をしていると向かいの店から見知った顔のドワーフが出てきた。
「あれ、親方じゃない?」
「あ、本当ね。親方さ~ん」
「ん? おぉ。おっと、ヒオレス様お久しぶりですな。嬢ちゃんたちは買い物か?」
親方は以前からヒオレスじいちゃんと交流があるらしく、かなり打ち解けた口調で話している。
「うん。みんなでおそろいのリボン買ったのよ」
「おぉ。そりゃあいいな。カーリーン坊ちゃんも似合うだろうし」
「でしょ?」
「そうだ親方。貴殿の兄に打ってもらった剣をライとエルに渡してあるのだが、今後調整が必要な時は頼まれてくれぬか?」
「お、受け取ったか。どうだ嬢ちゃん、伝えたサイズ通りなら俺の作った木剣と同じサイズだと思うが」
「うん。親方が作ってくれた剣と同じくらいの大きさだから、最初は結構重いと思ったけど大丈夫よ。少しは振れるようになったわ」
「がっはっは。たいしたもんだ」
「あぁ、本当に。すぐに私と打ち合えるようになりそうで末恐ろしいな。まぁその分安心はできるというものだが」
昨日の稽古の様子を思い出しつつ、じいちゃんは困ったような表情で笑いながら姉さんを撫でてそう言う。
姉さんはヒオレスじいちゃんからもらった真剣を、初日こそいつものキレを感じさせなかったが、昨日の稽古ではすでにいつもの振りに近づきつつあった。
――たった3日であれほど振れるようになるんだもんな。父さんが言うには、無意識に使ってる気力による身体強化の調節が上手くなってきたって言ってたけど、あんな重たそうなものを振り下ろしてピタッと止めている姿は未だにビックリする……
「まぁ調整の件はもちろん喜んで引き受けよう」
「木剣とか作ってるのは知ってたけど、親方は鍛冶もするんだね」
今まで両親と一緒に話を聞いた感じでは、土木関係の仕事と家具づくりをしていて、その合間に趣味で木剣程度の武器を作っていると記憶している。
――俺の勝手なイメージだけど、ドワーフならやっててもおかしくないしなぁ。建築にせよ鍛冶にせよ、ハンマーがよく似合いそうだもん。
「ん。あ~、出来るぞ?」
「ふははは。親方の兄は王都で、というよりこの国でトップクラスの鍛冶師なんだが、親方もその兄に負けず劣らずの腕前だ」
「ヒオレス様……」
「どうせごまかしてもそのうちバレるぞ。フェディからの依頼を受けているようだしな」
「それはそうなんだが……んまぁ、俺は鍛冶もするし好きなんだが、それ以上に物作り全般が好きでな。それこそ家の建築や街道の整備、坊ちゃん達が使ってくれている机や椅子から、小物入れなどの小さなものまでな」
「へぇ、色々作れるんだね」
「だからこそ鍛冶一筋のヤツらからすれば、"そんな才能があるのに勿体ない"やら"鍛冶以外にうつつを抜かしているやつの剣なんてナマクラだ"などと、反感を買うこともある」
「親方の腕は私も認めているし、そんな妬みなど気にしなくていいと思うのだが、親方自身の事だしな」
「ありがとうございます、ヒオレス様。まぁ別にそういう言葉が嫌で鍛冶をやってないわけじゃなく、ただただ作りたいものを作っているだけなんだがな」
――あまりやっていないという割には、貴族かつ武人でもあるじいちゃんが褒めるほどの腕前なのか。同じ鍛冶師の人からすれば、妬んだりする気持ちも分かりはするが……
「でも色々やってるなら、他からも同じように言われたりするんじゃ……」
「少しはな。そんなのいちいち気にはせん。鍛冶師の中でも特に武具を扱うヤツらは、客の命に直接かかわる場合が多いから、"生半可なやつの武具は信用できん"とか言ってくるが、ヤツらも自分のこだわりがあるのはもちろん、客の事を思っての場合もあるし悪いことは言えんしな」
「"金はかかるが、これくらいの装備にしておけ。そうしないと作らん"みたいな?」
「まさに初対面の客にそう言い放ったヤツもいるな」
「一流の職人さんには頑固な人や偏屈な人が多いって聞くけど、鍛冶師は特にそういうイメージが強いよ」
「がっはっは。まぁそうだなぁ」
親方は愉快そうに笑うとこの町の鍛冶師の友人か、王都にいるという兄を思い出すかのように、視線を西の方へ向けてほほ笑む。
「ていうか領主から直接鍛冶依頼をされてるのって、更に言われてるんじゃ?」
「さっきも言ったが気にはせん。あれもこれもと色々作っているのが気に食わんとかヤツらの言い分も分かりはするが、作ったものは俺なりに自信があるからな。それにこの町では俺がフェディと古い知り合いなのを知ってるヤツは多いから特に言われることはない。まぁ前に王都で兄の手伝いをしていた時期があるんだが、その時に色々とな」
「"俺は自分の作りたいものを作っているだけだ。お前らもくだらん事を言う暇があるなら、その時間で作りたいものを作ればいい"だったな」
「おぉ。カッコいい」
王都で言ったセリフをヒオレスじいちゃんに言われたからか、子供たちが"カッコいい"といったからか、親方はどこかむず痒そうな感じで視線をそらして頭を掻く。
「……あぁ、いやまぁ……色々言ってきたやつにはそう言ってやったな。少しの間だけ王都にいたが、すぐにこの町に戻ってきて色々と作っているわけだ」
「面と向かって言われた奴らは"あいつに負けてられるか"と腕を上げていったな、鍛冶師はもちろん大工たちもな。親方はいい影響を与えてくれた」
「親方ってスゴい人だったんだね」
「ふははは。この町であちこちから"親方"と言われるだけはあるって事だな」
「あまりからかわんでくれ」
「あぁ、すまんすまん。お前たちの剣のことはこれで安心だな。カーリーンはまた剣の稽古を始めてからになるがな」
そのあと少し話をして親方と別れた。
あの店には商品ではなく、店主が頼んでいた棚を届けに来ていたらしい。
話し終わるのを待っていたようなタイミングで馬車の準備が終わったので、用事も済んだし昼食に間に合うように俺達も屋敷に帰ることにした。
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