75.金髪の少女
ドラードと分かれてから再び市場を巡る。
改めて周囲を見てみると先日の授業でも教えてもらった通り、この街にもヒト族以外も多く暮らしているようだ。
――さっきまでは姉さんたちの話に付き合ってたり、露店に並んでるものばかり気になってて、あんまり人を見てなかったからなぁ。まぁ今ドラードと出会って、気になり始めたっていうのもあるけど。
そう思いながらあたりを見渡すと、ドラードのような立派な角を生やしている種族は見当たらないが、獣人族の人は結構見える。
獣人族と言っても、ヒト族の頭に獣耳とお尻あたりに尻尾が生えている人から、手足や顔つきも獣っぽい人までと色々な見た目の人がいるようだ。
「獣人族の人って結構外見も違うんだね?」
「あぁ、尻尾を隠して帽子でもかぶればヒト族に見える者から、二足歩行しているが骨格などは獣に近い者まで幅は広いな」
「ヒト族も肌の色が違ったり、細い人から太い人までいるもんね。獣人族から見たら俺たちの見た目もかなり変わってるように見えるのかな」
「ふははは。たしかにそうかもしれんな」
じいちゃんとそんなことを話している間も、姉さん達はあちこち露店を見て話していた。
ある程度歩きながら市場を見て回った後、本来の目的であるお土産を買うために移動することになった。
「もうちょっと見たかったなぁ」
「帰ったらドラードがご飯作ってくれてるんだから、お昼までには帰らなきゃダメだよ」
「も~、カーリーンは表情だけじゃなくて、言う事までお母さんに似てくるー」
姉さんがプクーっと頬を膨らませて可愛い拗ね方をしていると、馬車がゆっくりと停車した。
目的地に着いたようで馬車を降りると、思っていたより大きな建物が目に入った。
――おぉ! この町は2階や3階建ての家が多いけど、この広さで3階まであるのはあまり見ないよなぁ。
「おっきぃ」
「エルもこちらはあまり来ていないか」
「うん。お兄ちゃんは来たことあるかもしれないけど、私は町に来ても市場くらいだもん」
「ここはこの町で一番広い店舗だな。様々なものが売っているからここで買ってもいいし、どういうものを買うか決めたら専門の店に行ってもいい。まぁ私たちは大体ここで買っているがな」
店内に入ると1階部分には家具などが並んであった。
少し奥まで進むと初老の店員が来て挨拶をする。
「いらっしゃいませ、ナルメラド様。用意いたしました物に何か不備がございましたでしょうか?」
「あぁ、いや、そうではない。用意してもらった物は、いつもいいものばかりで感謝している」
「もったいないお言葉です」
執事に言ってお土産を準備してもらった後に雇い主が来たから、何か問題があったのではないかと不安になっていた店員は、ホッと胸をなでおろす。
「それでは、この度は何かお探しでしょうか?」
「あぁ。孫が土産を探していてな」
「なるほど。それでしたら、2階の衣類や3階のアクセサリーでございますね」
「1階は家具だけなの?」
「えぇ。持ち運びの労力もそうですが、1階にアクセサリーなどの軽くて値の張るものを置くと、盗まれる可能性が高まりますので」
ヒオレスじいちゃんと来たからか、子供の俺にも丁寧な口調で説明してくれる。
――なるほどなぁ。確かにこんな大きさのものはすぐには持ち出せないもんな。これだけ広いと常にお客の動向に目を光らせておくのも難しいし。
そんなことを考えながら、店員に案内されて階段を上っていく。
じいちゃんとの会話を聞いているとこの男性は店員ではなく、ここの店長だったらしい。
――顔を見てじいちゃんがナルメラド家の人って分かってたし、貴族って分かってるからちゃんとした対応をするために出てきたのかな。
2階へ上がると店長さんの言ってた通り、様々な服が並んでいる。
「見てきてもいいですか?」
「あぁ。もちろん。好きに見てきなさい」
服の他にも帽子やリボンなどもあったため、アリーシアさんはそれらが並んでいるコーナーへ歩いて行く。
姉さんもリボンを使っているためアリーシアさんについて行き、その後ろをじいちゃんがゆっくりと追っていく。
するとすぐに何か気に入ったものを見つけたらしく、姉さんがリデーナを呼んだので俺も一緒に向かおうとしたところ、後ろから肩を叩かれた。
振り返ってみると、長い金髪の少女が微笑みながら立っていた。
「えっと……」
「え……まさか分からないの? ボクだよ?」
「あぁ! 神さ、イヴ!」
危うく大声で"神様"と言いそうになったがリデーナ達には聞こえない程度に抑え、名前を愛称で呼ぶ事を許されていたのを思い出してそちらで呼ぶと、イヴは嬉しそうに笑った。
「うんうん。ちょっと怪しかったけど、何とか思い出してくれてなによりだよ。3歳の誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう。前も思ってたけど、イヴに祝いの言葉を貰えるって相当すごいことだよな……」
「あはは。まぁボクと話せる人なんてそうそういないしね」
「あれ? 前は俺以外いないとか言ってなかったか?」
「あ~。ちょっと事情が変わってね、少しはできたよ」
「そっか、話すのは好きって言ってたし良かったな」
「うん。まぁそれでもキミは特別だけどね」
イヴにも俺以外の話し相手が出来て良かったと思いつつも、特別と言われて若干嬉しくなる。
「そういえば地上にいるってことは、色々と安定したの?」
「そうだね、だから前にも言った通り地上に遊びに来たんだよ。それにキミとの約束もあるからね」
「約束……あぁ、アレか……」
「そう。地上に来たら友達になってほしいって願いだよ」
「うわぁ、改めて言われると恥ずかしい……」
「あはは。まぁボクとしてはお願いされなくても、キミと友達になるつもりだったんだけどね」
「そうなのか」
「もちろん。まぁキミが嫌じゃなければとは思ってたけど、キミの方からお願いされたから嬉しかったよ。って、あれ? あのお願いはお詫びとして叶えたはずなのに、これじゃお詫びになって無くない?」
「いやぁ、まぁ、そういわれると……」
イヴは真剣な顔で悩み、ハッと顔を上げる。
「うん。やっぱりこれじゃダメだよ。誕生日プレゼントも兼ねてなにかお願いはないかな?」
「そ、そんな急に言われても……すぐには思いつかないんだが……」
「何か困ってることは……なさそうだもんね、楽しそうに暮らしてるし……あ、自室を貰ってたから何か置物でも贈ろうか? いや、どこで入手したのか色々聞かれるかもしれないし困るよね……」
「色々知ってるな!? ずっとみてたのか?」
「い、いやぁ、全部じゃないよ? たまぁに覗いてただけだよ」
イヴは若干焦りながら首を横にブンブンと振って否定する。
――まぁ何か作業してる時の息抜きに、何か聞いたり見たりしたい気持ちは分かるが……そっちに気が移って作業が滞ってたりしなかったんだろうか。まぁ特に今までイベントのような出来事は多くはなかったし、こっちに集中することもないか。
「それで、何かないかな?」
「ごめん、本当に何も思いつかない……」
「そんなこと言わないでよ~。何か別の事をお詫びとしないとボクの威厳が……」
半泣きですがる様にしてくるイヴに罪悪感を覚えるが、本当に今の所神様にお願いするような事がなくて俺自身も困り果てる。
「そんな姿で威厳が~とか言われても……それに楽しく過ごせているし、こっちに来る時に魔法適性とかも貰えてるから、今お願いするって言っても本当に思いつかないんだって。それに今お願いが思いつかないほど幸せに暮らせているのはイヴのおかげでもあるんだから、ちゃんと威厳は保たれてるんじゃないのか?」
「そういわれるとそうかもしれないけど……それはそれ、これはこれなんだよ……」
「思ったより頑固だな……」
「むぅ~……しかたない。何か願い事が出来たらいつでもいいからボクに言って!」
「それは無期限保留でいいってこと?」
「そう。だってボクもキミも思いつかないんだから仕方ないじゃん……」
「わかった。何か思いついたらいうから、そんなに気負わないでくれよ……本当にイヴには感謝してるんだから」
「うん。わかったよ。それじゃあ、あまり長くキミを引き留めるとまずそうだから、今日はこのあたりかな?」
「そうだな。今日はじいちゃんもいるしな。今日の俺の様子次第で今後のお出かけの許可が下りるか決まるかもしれないし……」
「あはは。それは大変だ。まぁそこは気にしなくていいと思うよ。キミは年齢のわりにしっかりし過ぎてるから、早いうちに許可は出るよ」
「自重はしてるつもりだけど、記憶がある分仕方ないよな……家族も受け入れてくれてるし。しかし神様がそういってくれるなら安心だ」
「うんうん。それじゃあ心配されないうちに解散だね」
「あぁ。そのうち1人でも来られるようになると思うから、そうなったらまた沢山話そう」
「うん! 楽しみにしてるよ。それじゃあね」
イヴは満面の笑みでそういうとスゥっと消えていった。
話をしている間はイヴが何かしらの能力を使っていたのか、他の客はもちろんリデーナにも不思議がられることはなかった。
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「今日の一冊」にて紹介していただいたこともあり、急増していて驚きつつも嬉しく、モチベーションも上がっております。
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