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71.変装魔法

 授業の時間が終わってみんなでリビングに戻ってヒオレスじいちゃん達と話していると、母さんも仕事がいち段落したらしく戻ってきた。


「カーリーン、ちょっといいかしら?」


 部屋に入ってきた母さんは席に着くことなく、ドアの前で俺を手招きして呼ぶ。


 ――あ、これ仕事が終わったんじゃなくて、さっきの事でリデーナが連絡して俺を呼びに来たな……


 俺はここで言い訳しても仕方ないと思って諦めて席を立つと、不思議そうに見ている父さん達に見送られて部屋を出た。


 母さんに手をつながれて向かった先はリビングの近くにあるダイニングルームで、席に着くと一緒に来ていたリデーナがお茶を用意してくれる。


「リデーナから報告があったのだけれど、エルフ語に関しては完璧みたいね?」


「う、うん。そうみたい」


「共通語で話しているときと変わらないほど流暢(りゅうちょう)に話されておりました。発音や言葉選びも違和感なく、姿を見なければエルフ族と会話していると錯覚するレベルです。こちらの言葉も完璧に理解しておられるようでしたしマスターしたと言ってもいいでしょう」


「そう、よく頑張ったわね」


 母さんはそういいながらほほ笑んで、隣に座っている俺の頭を撫でてくれる。


「う、うん。えっと、それだけのために呼び出した……んじゃないよね?」


「えぇ。リデーナから聞いたのだけれど、ロレイをエルフ族かのように思っているのはどうして?」


 ――やっぱりこの話だよな、ロレイも一緒にここに来てるし……うぅ~ん。ここで変にごまかすのも気が引けるし、かといって赤ちゃんだったころに見たって言って、変な目で見られるのも嫌だしなぁ……


 壁際で待機しているロレイをチラっとみると、目が合ってにっこりとほほ笑まれた。


 ロレイナートが魔法で姿を変えていることを知っているのは母さんとリデーナくらいなので、俺がそのことを言ってもいいようにこの部屋に呼んだのだろうと思い、俺がロレイナートの本当の姿を知っていることを話すことにした。


「リデーナが変装しているときと似たような魔力をロレイから感じるから、ロレイもそうなのかなぁって思っただけだよ」


 目に魔力を集中させて、驚いたように目を見開いているロレイを見ると、うっすらと魔力を見ることができる。


 これは体内の魔力や、付与効果などの魔力とはまた違う風に見えるので、これが変装魔法の魔力なのだろうと思う。


「そ、そうなの?」


「うん」


 母さんもロレイに視線を向ける。おそらく、俺と同じように魔力を目に集中させてみようとしているようだ。


「うぅ~ん……付与魔法とかはわかるけれど、変装とかそれらしい魔力は見えないわ……」


「カーリーン様、すこし魔法を使うので確認してもらってもいいですか?」


 母さんが首をかしげていると、ロレイナートが近くまで来て両手を前に出す。


「今からどちらか片方の手にだけ魔法を付与します。どちらに付与したか当ててみてください」


「わかった」


 俺が返事をするとロレイナートの右腕に変装魔法が掛かる。


 といってもこの時期にでも長袖で手袋もしているため、見た目では何が変わったのか全く分からないので、手袋の下の身体にだけ魔法をかけているのだろう。


「右手、俺から見たら左の手かな」


「……次はどうですか?」


「同じく右手」


「これは?」


「左手」


「では最後に、これは?」


 確認をするために何回か魔法を使って俺に聞いて来るが、最後の魔法では何も変わっていない。


「うぅーん、見えないや」


「……奥さまどうやら本当に見えているようです。最後のは魔法は使っていないので正解ですよ、カーリーン様」


「そうだったんだ。というかロレイは無詠唱で変装魔法が使えるんだね」


「はっはっは。使っているのが変装魔法という事まで分かっているという事は、これは相当な素質をお持ちですなぁ。ですが、無詠唱で使えているというと少し違います。今は手袋をしているので見えていませんが、実際に見ると効果が不安定ですので実用的ではありません」


「やっぱり無詠唱は難しいんだ」


「魔法を安定させるのに呪文は必須かと思います。この話はまた魔法の授業の時にでも」


「うん」


 ロレイナートは俺が変装魔法が見えることに満足したかのように笑うと、壁際に戻っていった。


「まさかロレイの魔法を見破ることができるなんて……」


「リデーナにも分からないの?」


「えぇ。ロレイの魔法の腕はエルフ族の中でも並外れておりますので……」


「エルフ族のリデーナにも分からないのなら、私じゃ見えなくて当然ね」


「いえ! いくらエルフ族が魔法に長けた種族とはいえ、奥さまはすでにそのへんのエルフとは比べ物にならないくらいの魔法技術を会得しております!」


「うふふ、ありがとう。そんな私ですら分からないものが見えているカーリーンは、すごく才能があるのでしょうね。すこし羨ましいわ」


 そういいながら撫でてくる母さんの顔は、言葉とは裏腹にすごく嬉しそうに微笑んでいる。


「えぇ。すでにいくつか魔法を安定して使えておりますし、このまま成長なされば奥さまと同じく"大魔導士"の称号も貰えるでしょう。さすが奥さまのご子息です」


 ――そんな称号貰ってたのか……そして相変わらずリデーナは母さんの事が好きなんだなぁ。


「それでね、カーリーン。ロレイが変装魔法を使っているのは、お父さんのためでもあるんだから、お兄ちゃんたちにも内緒よ?」


「うん。じいちゃん達は知ってるの?」


「流石に知っているわ。でもお爺ちゃんたちも他の人には内緒にしてるから、カーリーンも言ったらダメよ?」


「わかった~」


 ――じいちゃん達は知ってるのか。というかよく考えたら()()父さんにバレてないって相当すごい変装魔法なのでは? 害意のない魔法とかは気づかないのか、魔法が使えないからそっち方面には疎くて気づけないのか……


「さて、それじゃあみんなの所に戻りましょうか。私もリデーナもいないからエルが暑がっていそうだわ」


「送風具も出してるし大丈夫だと思うけど」


 ――兄さんは父さんみたいに我慢強いのか耐性があるのか平気そうだけど、姉さんは小さい頃からよく俺と一緒にいたから、必然的に母さんの周りの快適温度にいることも多かったからなぁ……まぁ姉さんは活発で汗まみれになりながらも元気に走り回るけど。


「そういえばリデーナは魔法で涼しくしてるから平気なんだろうけど、ロレイはそういう魔法を使ってるように見えないし、暑くないの?」


 他のメイドと違って、夏場でもきっちりとした長袖のメイド服を着ているリデーナは、母さんと同じく周囲の気温を下げられるため平気だとして、さっき見た感じそういう魔法を使っていないロレイナートの事が気になって聞いてみる。


「はっはっは。まぁ私はそもそも耐性があるほうではありますが、この服には涼しくなる魔法を付与しているのですよ」


「何それズルい……」


「衣類ですから洗濯もしなければいけませんので、毎日かけなおしが必要ですし、幼いころから慣れてしまうと耐性が付きにくくなりやすいですからね」


「それ相応に手間なんだね……あれ、でも父さんはそういうの着てないよね?」


「ふふふ、私も勧めたんだけどねぇ。"そんな繊細そうなもの壊すかもしれないから着たくない"って昔に断られちゃったのよ」


「あぁ……森とかにも行くもんね……」


「そんな簡単に破損はしないし、作り直せばいいって言ってもなかなか聞かなかったのよ」


「母さんはそういうの着ないの?」


「毎日の付与作業をするとなると時間がね……リデーナやロレイに頼む手もあるけれど、自分でこの魔法を維持できるからなくても平気だからね。それに調整があんまり出来ないから、寒くなった時にどうしようもなくなるのが欠点ね」


 ――魔力量も相当あるもんな。それで調整できるならわざわざ時間のかかる付与まではしないか。寒くなったからって上に着こんでも効果は薄い以上脱ぐしかないし、それができない場合も多いだろうしな。


「ストールとか肩掛け布に付与すればいいんじゃ?」


「こんな暑い日にそれを付けてる姿は違和感があるでしょう? それが魔道具だって知っていればそうでもないけれど。まぁそういう事もあるし、私は着ないのよ」


「なるほどねぇ。そういうのがあるんだなぁってくらいに覚えておこう」


「うふふ。カーリーンの場合は私と同じ理由で使う機会は少なくなりそうだけれどね」


 母さんはそう笑うと俺の手を握ってリビングに戻った。

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