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70.エルフ語

 エルフ語を習い始めて3日目になった。


 アリーシアさんが帰るまでに覚えられるようにと稽古の時間を短くし、授業の時間が長くなっているため姉さんは嫌そうな顔をしていたが、仲良くなったアリーシアさんと並んで勉強できることが嬉しいのか、授業が始まるとしっかりと学んでいた。


 今日は母さんも仕事をしているので先生はリデーナがやっており、じいちゃんたちは父さんと一緒にいるため今日は来ていない。


「それでは始めさせていただきます」


 リデーナは俺たちに頭を下げた後、開始の言葉を告げて授業が始まる。


 先日母さんが言っていた通り、きちんと学ぶ気があるのであればすんなりと覚えられるらしく、姉さんやアリーシアさんもある程度エルフ語での会話が出来るようになっていた。


 兄さんは2人より更に流暢(りゅうちょう)に話せるようになっており、そのあたりのスペックの高さは流石だなぁと感心する。


「そういえば、神様のおかげで覚えるのが簡単なら、共通語以外の言語をマスターしてる人って結構多いの?」


「そうですね。複数の言語を話せる人はそれなりにいます。特にエルフ語、獣人語を話せる人は多いです」


「竜人とかドワーフとかもいるのにそのふたつなの?」


「はい。獣人は素の身体能力が高く戦闘面で優秀なものが多いので、緊急時には共通語がうまく話せないものでも戦闘に参加してもらう事があるのです。その時に指示が通りやすいようにと学ばれることが多いです」


「なるほど……人数も他の種族に比べると多いから、覚えるなら獣人の言葉になるんだ?」


「その通りです」


「それじゃあエルフ語は?」


「エルフは獣人族や他種族と比べると数は少ないのですが、かなり長命な種族になります。その分知識面で優秀なものが多く、その頭脳を借りる際に明確に伝えられるようにと学ぶ方が多いようです」


「頭がいいなら共通語も普通に話せそうなものだけど」


「いえ、そうでもないのです。たしかに他種族に興味をもって調べる者や、言語を研究している者もいるにはいるのですが、そういう者に限って"共通語は広まり過ぎていて覚えるまでもない"と判断しているようです。私から言わせてもらえば他種族からの情報を得るためにも、まずは共通語を覚えるべきだと思うのですが……」


 ――なんか感情がこもってるな……知り合いにそういう人がいるのだろうか。


「リデーナ達エルフは魔法がすごいだけじゃなくて、頭もいいんだね」


 俺がリデーナの言葉に苦笑していると、姉さんが無邪気にそんなことを言う。


「頭がいいと言われると少し違う気がしますが、長年培ってきた知識がある分そう見えるのでしょう」


「王都ではエルフの方はみんな共通語で話していましたが、そういう場所でも必要なのでしょうか」


「そうですね。エルフ族は知識ある者に好意を抱きやすい傾向にありますので、ヒト族からエルフ語で話されますと"この人はしっかりと学んだ人"と好印象を受け、交流しやすくなるかと思います」


「なるほど……」


 アリーシアさんは納得したように頷き、手元に用意していた紙に何かを書き足している。


「そういえば獣人族は多いから町にも結構いるって分かったけど、獣人族と比べて少ないエルフはどうなの? 王都にはいるみたいだけど、うちの町にもいる?」


「そういえばカーリーンは、町の方にはほとんど連れてってもらってないんだったね。数は確かに少ないけど確かにいるよ」


「へぇ~。今の話聞いてると文官とかその手の補佐とかやってて、ほとんどが貴族の所にいるのかと思ってた」


「確かに私のように貴族に仕えているものもいますが、魔法が得意なのでハンターや冒険者を生業としているものもいます」


「貴族になってる人はいないの?」


「これは別の話になってしまうので、また後日奥さまからお教えしてもらうと思いますが、この国には貴族のエルフもおります」


 ――"この国には"か……神様もこの国は亜人も多いって言ってたけど、貴族になれるほど受け入れられてるんだな。他の国の事は隣国の事すらまだ教えてもらってないけど、今は他にも学ぶことは多いからそっちに集中しなきゃな。


「それでは今まで学んだことを生かして、実際に会話して復習しましょうか。まずはライニクス様からどうぞ」


「はい」

『こんにちは。どうでしょうか、ちゃんと伝わってますか?』


『えぇ。きちんと伝わっております』

「合格です。次はエルティリーナ様、どうぞ」


「う、うん」

『こ、こんにちわ? 私の、言っている、言葉、意味、分かる?』


「単語等は分かっているようですし会話はできると思いますが、まだたどたどしさがありますのでもう少し練習が必要ですね」


「むぅ~……お兄ちゃんが出来過ぎなだけだもん」


「たしかにライニクス様は素晴らしい学習速度です。エルティリーナ様も、この短期間でそれだけ話すことができるのはすごいことなのですよ」


「そうなの?」


「えぇ、神様からの恩恵があるとはいえ、別の言語を習得するというのはもっと時間がかかるものです」


「そうなんだ……リデーナ、私もっと頑張る!」


「えぇ、その調子ですエルティリーナ様。次はアリーシア様、どうぞ」


「は、はい」

『こ、これくらい話すことができれば、王都にいるエルフ族の人とお話できるでしょうか?』


『素晴らしいです。きちんと話すことができておりますので、会話は可能です』

「合格です。これだけすんなりと言葉が出るのであれば十分ですので、もっと自信を持ってください」


「は、はい!」


「リデーナの言葉、最初の"素晴らしい"って部分は分かったけど、後半はよく分からなかった……お兄ちゃんも同じように言われてたし、ちゃんと話せてるのすごいなぁ」


「あ、わ。え、えっと、エルも話せてたし、これからもっとうまくしゃべれるようになるよ!」


「うん、頑張るわ、ありがとう」


 ――確かにアリーシアさんは兄さんくらい流暢に話せてたなぁ。姉さんも一応話せてたし十分すごいとおもうんだけど、2人が異常なだけなんだろうか……


「次はカーリーン様、どうぞ」


「えぇっと……」

『どうぞと言われてもなんて言っていいのか分からないんだけど……そういえばリデーナは元々ヒオレスじいちゃんの所に仕えてたみたいだけど、他にもエルフ族の人っていたの?』


『え、えぇ。今もヒオレス様の所にエルフ族の人は残っております』


『同じ種族同士だし仲が良かったんじゃないの? 寂しくない?』


『確かに関係は良好でしたが、寂しいという思いはそこまでではないですね』


『それは長命だから?』


『時間感覚が違うので、それもあると思います。やはり同じ種族同士にしか分からないような話もありましたし。しかし、私にはカレアリナン様がおられますので、本気で寂しいなどと思ったことはございません』


『同じ種族ならではの話題かぁ……まぁロレイもいるしね』


『そうでございま……す? あの、カーリーン様、なぜロレイナートの名が?』


「え、あ、なんでもないよ?」


「……後でお話がございます。会話に関しては合格どころか、普通に共通語で話している感覚でした」


「す、すごいね、カーリーン君」


「僕もがんばって覚えたつもりだったけど、最初の方しか理解できなかったよ」


「まだカーリーン様は幼いので自然と吸収しているのでしょうが……」


「そ! そういえば! これだけ言語の習得が簡単なら、何か下心ありきで勧誘したりする人も結構いるんじゃ?」


「下心と言いますか、悪意や害意等が含まれた状態で学ぼうとすると神様からの恩恵が受けられず、それこそ年単位で勉強することになります。そこまでして言語を習得したとしても、その悪だくみが成功するとも限らないので、そういう者たちは学ぶものが少ないですね。まぁそれでも完全にいないというわけではないのですが」


「なるほど……さすが神様……」


「うぅ……カーリーンもあんなにしゃべれるのに……」


「だ、大丈夫だって姉さん。リデーナも普通ならもっとかかるって言ってたじゃん! 学ぶ気がないなら年単位でかかるのに、もうあれだけ話せるんだから、ちゃんとやる気があって勉強してた証拠だって!」


 隣で半泣きになりそうな顔で落ち込む姉さんを慰めるのに必死になった俺は、すっかりリデーナの気をそらすことを忘れていて、結局授業の後呼び出されることになった。

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