66.寝る準備の前の魔法
短期間で連続投稿してるのでご注意ください。
「さぁ、そろそろ寝る時間だぞー」
お風呂から戻ってきて、しばらくジュースを飲みながら話をしていると父さんがそう告げてくる。
「カーリーンは今日から自分の部屋だけれど、大丈夫? 眠れそう?」
「うん。大丈夫」
「そう。寂しくなったらいつでも私たちの部屋に来なさいね?」
「は~い」
「部屋までは私が連れてってあげる」
「も、もう覚えてるよ?」
「隣だしいいじゃない、一緒に行きましょ」
そう言いながら姉さんに手を引っ張られる姿を、兄さんが苦笑しながら見つつ俺たちの後ろをついてくる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「「「おやすみなさい」」」
――兄さんも同じ方向なんだが……まぁ姉として心配してくれてるんだろうな。
と思いながら、振りほどけない姉さんの手に引っ張られてリビングを出た。
アリーシアもそろそろ寝るようで、うちに来てから同室で寝ているヘリシアばあちゃんと一緒に部屋へと向かうようだ。
「それじゃあ3人ともおやすみなさい」
「うん、ヘリシアばあちゃんもアリーシアもお休み」
客室がある場所と俺たちの部屋は少し離れているので、廊下の途中で別れるときに挨拶をして3人で自分たちの部屋へ向かった。
「カーリーン、おやすみ」
「うん、おやすみ兄さん」
「おやすみ、カーリーン。寂しくなったら私の部屋に来てもいいからね?」
「はは、大丈夫だよ。おやすみ、姉さん」
そう言うと苦笑している兄さんと、つまらなさそうな顔をしている姉さんと別れて自分の部屋へ入る。
部屋の明かりをつけようとスイッチとなる魔石を探したが、思っていたより高い位置にあるので、俺ではジャンプでもしないと届きそうにないことに今さらながらに気がついた。
「まぁ今日はもう寝るだけだしつけなくてもいいか。位置は明日調節してもらおうかな。今の身体でジャンプとかしようものなら、こけるかもしれないしなぁ……じいちゃんからもらったランプもあるし、それに今日は雲もないから月明かりだけでも充分見えるしな」
そんな独り言をつぶやきながら窓際へ言って空を見上げると、きれいな青白い月が見える。
――記憶が戻ってから常にだれかといたから、かなり静かに感じるな……
そんなことを考えているとドアがノックされて、リデーナの声が聞こえたので返事をする。
「失礼します、カーリーン様」
そう言って入ってきたリデーナは、部屋のライトをつける。
「どうしたの?」
「掃除の後以外は窓を閉めておりましたので、寝る前に空気の入れ替えをしております」
「確かにちょっと熱がこもってるね……」
掃除の後しばらくは開けているが、個人の部屋は基本的に使用人が開けっ放しにすることはないらしい。
――まぁ一応防犯の面でもそんなことはしないか。ここ2階だけど魔法もあるしなぁ。
リデーナが窓を開けて風魔法で空気の入れ替えついでに、少し冷やした風を取り込んでくれて一気に快適な気温になる。
「ありがとう」
「いえ。カーリーン様は今日が初めての自室での就寝ですが、何かございますか?」
「う~ん……あ、部屋のライトのスイッチの位置をもうちょっと下げてほしいかな……」
先ほどちょっと不便だと思ったことを早速リデーナに伝えておく。
「確かにこの位置はカーリーン様には少々高いですね……気が付かず申し訳ありません」
「暗い時間にこの部屋に来る時は寝る時くらいだし、気にしなくていいよ。でも一応明日にでも位置を変えられそう?」
「いえ、今やりますので、少々お待ちください」
リデーナはそう言うとメイド服のポケットからドライバーのような工具を取り出して作業を始めた。
――え、そんな簡単に出来るの? 魔道具の一種だから複雑なのかと思ってたけど、前世で言うシーリングライトとリモコンみたいなものなのかな?
「ていうか、いつもそんな工具持ち歩いてるの?」
「魔道具関係でしたらある程度の事はこれで何とかなりますし、そこまで大きなものではないですからね。っと、カーリーン様、これくらいの高さで大丈夫でしょうか?」
本当に短時間で位置の調整を終えたようで、俺に確認を求めてきたので近くに行って魔石に触れて部屋のライトが反応するか確かめると、ちゃんと消えた後もう1度触れると明かりがついた。
「もう少し下の方が良いですね」
位置的には手を上に伸ばして何とか届くくらいの位置なため、リデーナは再び工具を手に取ってそう言ってくれる。
「ううん、これくらいでいいよ。あまり低いと他の人が使いにくいし」
「ですが、ここはカーリーン様のお部屋ですよ?」
「掃除とかしてくれるリデーナ達が使いにくくなるでしょ? それにこれから背も伸びるから、すぐ普通に触れられるようになるよ」
「使用人の事も配慮してくださっているのですね。分かりました、ありがとうございます」
「いやいや、お礼を言うのはこっちの方だよ」
「朝はどうされますか? ライニクス様もエルティリーナ様も、起こす際は返事がなくても入室して構わないとおっしゃられたのでそうしておりますが」
「母さんからそうやって起こすように言われてるんじゃないの?」
「いえ、個人の部屋ですので、対応はそれぞれの希望でいいとのことです」
「なるほど。それじゃあ兄さんたちと同じでいいよ」
「かしこまりました。それではあまり夜更かしはしませぬよう。おやすみなさいませ」
「うん。おやすみ」
そう言うとリデーナは俺の部屋を出て行った。
――まぁまだ本とかもないし、夜更かしできるものも……いや、魔法の練習ができるな。じいちゃんからもらったランプがあるけれど、ようやく1人になれたんだし少し試したいな。
そう思った俺は、空気の入れ替えをするのに開けてくれた窓際に移動して、軽く風魔法を使ってみる。
「おぉ。これくらいの魔力で充分いい感じに風が入ってくるじゃん。母さんたちが使ってる涼しくする魔法は水魔法系列って言ってたけど、氷じゃダメなのかな……」
一応部屋の中で使って失敗してしまったら濡れてしまうので、発動自体は窓の外でやるようにして試してみる。
「う~ん……イメージすれば無詠唱でいいんだけど、あまり無詠唱の癖がつくとやらかしそうだし、何か決めておくか……普通に【アイス】とか【フリーズ】か?」
手を窓の外に出して呟きながらイメージすると、5センチくらいの氷の粒がいくつか出現して落ちていった。
「あ~。粒がでかすぎたか……もっと細かく、更に風魔法を同時にか。ってさっきの氷の粒、朝には溶けてるよな……? 夏だし大丈夫か……」
バレるかもしれないと少し焦ったが、あのサイズの氷なら朝には溶けて乾いているだろうと思い、魔法に集中する。
――結構むずかしいな……いや、イメージが悪いのか。"氷を出す"のと"それを細かく粉砕"と"風魔法を使う"って複数で考えるからダメなのか。"氷で冷やした風を出す"って1つにまとめて考えるか。
そういうイメージをしながら魔法を発動させると、クーラーで冷えた空気のように冷たい風が入ってくる。
「お? できた! っと、ごまかす用の名前は……母さんたちと同じく【クーラー】でいいか? うおぅ、さすがに冷風の直あたりは寒いか」
魔法を発動したまま名前を考えていると、寒さで体が震えたのでいったん魔法を止める。
この地域は広い森があって木々が多いからか、夕方はまだ多少地面の熱があるが、夜になるとそれも冷め切っていて結構涼しい。
「そんな中、更に氷魔法での冷風なんて浴びたら寒いわな……だから母さんたちは水魔法でやってるのか……まぁ日中とかで一気に涼しくしたいときは氷の方がよさそうだけど、水でもいいかもなぁ」
と、自分の使った魔法について考えていると、ドアがノックされた。
「ん? リデーナ?」
「違うよ、私。入っていい?」
リデーナが兄さんの部屋まで回って、初めて1人で寝る俺を心配してもう1度来たのかと思ったら、まさかの姉さんの声がした。
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本当は前の話の後半に入れようかと思っていた話なんですが、思った以上に膨らんだため別の話に。
しかもこっちも膨らんだので2話構成に。