62.誕生日会
両親の部屋に置いてあった服などを持って、自分の部屋に戻る。
"手伝う"と言っていた姉さんはもちろんやる気満々で、俺の倍は運んでくれていた。
――見た目的が子供だから申し訳ない気持ちになったけど、すくなくとも今の俺よりは年上だし、なにより稽古を見てるから知ってるが、姉さんの力はすごいから頼らせてもらおう……
持ってきた物を片付ける前に、自分好みに家具を移動させるのを手伝ってくれた時にも、前世の感覚だと大人1人で運ぶようなサイズの棚を移動させてくれていた。
俺の荷物はそんなに多いわけではないのだが、模様替えなどをしたのでリビングに戻った時には昼前くらいになってしまっていた。
「おかえり。荷物の移動もしてたのか?」
「うん。姉さんが手伝ってくれた」
「そうかそうか」
父さんがそう言いながら近寄っていた姉さんの頭を撫でつつ褒めると、嬉しそうに笑っていた。
少し雑談や、ひとり部屋になる事への注意などを聞いているとお昼になった。
ロレイナート達が運んできた料理はすごく綺麗に飾られており、特別感を感じられてテンションが上がるのは当然だろう。
「カーリーン、誕生日おめでとう」
「「「おめでとう」」」
「あ、ありがとう!」
皆の前に料理が運ばれると父さんの言葉に続いてみんなが祝ってくれるので、照れながらもちゃんと返事をする。
「それじゃあ頂こうか。今回もドラードが気合を入れてくれてるようだしな」
「ふふふ。そうね」
皆食べ始めたので、俺もひと口食べてみる。
――うおぉ。美味しい……普段も美味しいんだけど、昼食にここまで凝ったソースとかを使った料理はなかなかでないしなぁ。高級料理店みたいに少量ってわけじゃなくてそれぞれに見合う量があるようだけど、きれいに飾られているし、かなり時間かかったんじゃないかな……
「おぉ、うまいな」
「お父様にそう言ってもらえるなら、ドラードも鼻が高いでしょうね」
「アイツを"料理人として雇う"と言い出した時は心配もしていたが、お前たちは間違っていなかったようだな」
――じいちゃんもドラードの事はやっぱり知ってるよな。ドラードは父さん達に対しても敬語は使わないし、じいちゃんが"アイツ"呼びしてるのも納得はできるか……
メインの料理を食べ終わるとケーキを取り分けてもらって、再度お祝いの言葉を貰いながら美味しく食べた。
今回はアリーシアも来ているのでケーキを大きめに作ったらしく、余った分は夜の食後にも出してくれるらしい。
ロレイナート達が食器などをワゴンに乗せて部屋から出ると、リデーナがそれぞれにお茶の用意をしてくれた。
「さて、今年はライとエルの誕生日には来られなかったから、お前たちのプレゼントもあるぞ」
「やった!」
「ありがとうございます」
1歳の誕生日はそれぞれの時に来ていたらしいが、今年は忙しかったらしく兄さんたちの誕生日には来なかった。
――今回来たときは新型の馬車で早くなったとはいえ、それでも片道1週間だもんな……1年に何回も移動するような距離じゃないよなぁ。
そんなことを思っているとヒオレスじいちゃんの所の執事であるセージスが、いつの間にか持ってきていた木箱を机の上に置く。
兄姉の分の箱は細長く、俺の分の箱は四角いので全員同じものではないようだ。
「まずはライとエルにはこれだ」
じいちゃんが自ら箱を開封して中身を取り出すと、その手には剣が握られていた。
「お前たちの木剣を作っている親方の兄が王都で鍛冶屋をやっていてな。サイズは親方から聞いて作らせたものだからそこまで差はないはずだ。微調整は親方にやってもらうといい」
「剣だぁ!!」
「あ、ありがとうございます!」
兄さんは盾も使うため片手で扱えるサイズの剣を、姉さんは両手で扱う用の長めの剣をそれぞれ嬉しそうに受け取った。
――姉さんも背が高くなったから、兄さんの剣より長くなっちゃったなぁ。ちょっと前までは身長差があったから同じくらいの長さだったのに。そんな事より、こんな幼い子のプレゼントに刃物ってさすが別世界だなぁと改めて実感するけど、魔法を頻繁に見てるし今さらか。
「うふふ。エルはそろそろ自分のちゃんとした剣が欲しいって言ってたから良かったわねぇ」
「うん!」
「ライも今のがそろそろ換え時だったしな」
「はい!」
「はっはっは。喜んでるようで何よりだ。ちゃんと金属で作られてる上に、強度もしっかりしている実戦向けのものだからな。そうそうダメにはならんだろう」
「これ本物の剣なんだ!」
「ふふふ。まぁ練習用のものよりしっかりとした刃がついているし、危ないから気を付けなさいね?」
「その剣がダメになるのが先か、成長して合わなくなるのが先か楽しみだな」
ばあちゃんたちが喜ぶ姉さん達を見てほほ笑むと、俺の方を見ながら箱を開封しはじめた。
「カーリーンはまだ剣の稽古を始めていないから色々迷ったんだが、今年のプレゼントはこれだ」
そう言いながら四角い箱から出てきたものは、直径20センチくらいの丸い水晶のようなものが付いた置物だった。
「3歳になったら部屋を貰えると知っていたからな。机に置くタイプの【ライト】が付与されている置物だ」
「デスクランプ?」
「……そうだ。まだ部屋には何もないだろうから、こういう置物もいいだろうと思ってな」
「うん! ありがとう!」
――何か少し間があった気がするけど、机もあるしデスクランプは嬉しいな。冬場とか日が落ちるの早いからなぁ。天井にもライトの魔道具があるとはいえ、やっぱり手元が明るい方が見やすいし。
「さっそく置いてきていい?」
「あぁ、いいぞ。ライとエルも行ってきなさい」
「うん!」
「はい」
「アリーシアもさっきからソワソワしているし、ライ達と一緒に行ってもいいのよ?」
「は、はい。い、いいですか?」
「うん、いいわよ、行きましょ」
ばあちゃんにそう言われて遠慮しながらではあるが許可を貰うと、嬉しそうに笑顔になって一緒にリビングを出た。
「それでお父様。子供たちだけを退出させた理由は?」
大人だけになったリビングでは、何かを察したカレアリナンがヒオレスに問いかけていた。
「カーリーンにプレゼントした魔道具はな。ライトになるだけじゃなく、魔法が発動しにくくなるエリアを作り出すものなのだ」
「ま、またそんな高価なものを……」
「あれか? 執務室にも置いてる認証制のやつか?」
「いや、そこまで高性能ではないから高くはない。ある程度魔法が使えるものなら多少違和感を覚えるかもしれんが、普通に魔法は使えるくらいだ」
「子どもの魔法の暴発くらいなら防げるから、カーリーンの事を思って選んだのだけれどねぇ……」
「うむ……あれだけ魔法が使えるなら、意味がないかもしれんな……」
「カーリーンならそのことを知っていても、魔道具ってだけで自分の部屋に置きたがりそうですけどね……」
「そうなのか。まぁ寝ている時など、無意識での魔法の暴発は抑えられるだろう」
「最近の魔力操作の練習を見ていると、もうその危険はないと思いますが」
「まぁそう言うな……こちらに来るまであそこまで出来ると思っていなかったのだ……」
「部屋でも【ライト】とかで魔法の練習していいって言っちゃったけれど、どうしましょう……」
「まぁあくまで発動しにくくなるってだけだ。今のカーリーンなら練習は出来ると思うが」
「それならよかったわ。急に使えなくなって自信がなくなったらどうしようかと……」
「まぁ一応本人には言わないようにしたが、そのあたりの判断は親であるお前たちに任せる」
「えぇ、わかったわ。カーリーンの事を考えてくれてありがとう」
「私たちの孫なのだから当然だ」
リビングでそんな話をしながら、子供たちが戻ってくるまで談笑していた。
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