61.3歳になりました
予定よりも早く帰ってきた父さんとヒオレスじいちゃんは、あちこちに水たまりの出来た庭を見て驚いていたが、びしょ濡れになりながらも水魔法を練習している俺たちを微笑ましく見ていた。
夕飯の時の会話で、父さんたちから森での話を聞いた姉さんがすごく行きたそうにしていたが、さすがに北西の森は危ないとのことで断られて拗ねていた。
父さんたちはどうにか機嫌を取ろうと、屋敷の前の森なら危険はそこまでないから連れて行ってもいいと言うと、目を輝かせて上機嫌になり、後日森へと行く約束をしていた。
翌朝の日が昇り始めた頃、父さんが起きて母さんと俺を起こしてきたので目を開ける。
以前はリデーナかロレイナートが起こしに来ていたのだが、兄さんと姉さんの朝の準備を手伝ったりするため、両親を起こしにくる手間を省けるように父さんが自分から起きるようになった。
といっても元々起こされる頃には起きていることのほうが多かった父さんからすれば、リデーナ達への朝の挨拶が少し遅れるくらいで、子供たちの世話を優先してくれているほうがありがたいようだ。
「お。カーリーンのほうが先に起きたか。おはよう。誕生日おめでとう」
「おはよー。ありがとう! 母さん、朝だよ!」
両親に挟まれて寝ていた俺が起きたのを確認すると、そう言いながら頭をなでてくれるので元気に返事をしたあと、まだ起きていない母さんに声を掛ける。
「んー。カーリーンも起きたのねぇ。おはよう。お誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう」
父さんの呼びかけで起きかけていた母さんを軽く揺すって声を掛けると、目をこすりながら体を起こして誕生日を祝ってくれる。
両親も起きて身支度を整えていると、ドアがノックされて姉さんの声がした。
母さんがそれに答えると姉さんが入ってきて、まだ着替え終わっていない俺に勢いよく抱きついた。
「カーリーン、誕生日おめでとー!」
「あ、ありがとう。それを言うために早起きしたの?」
「そうよ! 私が1番に言いたかったの!」
姉さんは朝が弱く寝坊しがちと言うわけではない、むしろリデーナが起こしに行くとすっと起きられるらしいが、父さんは起きるのが早く母さんもよっぽど疲れてないとすぐに起きてくるので、そんな両親と寝ている俺が着替え終わる前に部屋に来ることは少ない。
稽古を始めるようになった時や、今日のようになにかしら予定を決めていると、起こされるより早く起きているらしいが。
「エル、それはいいけれど、ちゃんと朝の挨拶をしなさい」
「そうだぞ。それに俺と母さんはもうカーリーンに"おめでとう"といったから3番目だな」
「む~。お父さんとお母さんはいいの!」
「もう。フェディもイジメないの」
「はは。すまんすまん。すぐ着替えるから一緒に行くか?」
「うん、待ってる。カーリーンの着替えは私が手伝う」
「も、もう自分でできるって……」
とはいったものの、実際はまだ手伝ってもらったほうが早く着替えられるので、姉さんに手伝ってもらった。
着替えが終わってリビングへ向かい、席に座って少しすると兄さんもリデーナと一緒に入ってきた。
入ってきた兄さんはちゃんと朝の挨拶をしたあと、俺に祝いの言葉をかけてくれる。
1歳の誕生日は初めての誕生日ということと神様への感謝の礼拝という習わしがあるため、帰ってきてからみんなで祝いの言葉を送るのが普通らしいが、2歳以降はそれぞれのタイミングで祝うのでいいらしい。
リデーナに朝食前のお茶を入れてもらってひと息つくと、ロレイナートがヒオレスじいちゃんたちを案内してきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「カーリーン、誕生日おめでとう」
「ありがとう!」
先に入ってきたじいちゃんがそう言うと、ばあちゃんとアリーシアも同じように言ってくれるので、若干照れくさく感じながらもお礼を言う。
我が家では誕生日会的なものはお昼にするので、朝食は普段と特に変わりはないがいつも通り美味しかった。
「さて、それでは! 本日でカーリーンも3歳になったので、この屋敷に個人の部屋を与えよう!」
「ははぁ!」
父さんがフザケて仰々しく言うので、それに合わせて返事をして頭を下げる。
「……どこでそんな仕草覚えたのかしらね」
「言っておいてなんだが、俺も驚いてる」
「ふはははは。いい返事だなカーリーン」
「まぁ子供はいつの間にかどこからか知識を得ているものよ」
両親にはちょっと不思議がられたが、じいちゃん達が笑いながらそう言うので微笑みながら納得していた。
「カーリーンの部屋は私の隣がいい!」
「そうだな。そのつもりだったから案内してやってくれるか?」
「うん! カーリーン、行くよ!」
姉さんが俺の手を取って席を立つと、そのまま部屋へと案内してくれる。
一応リデーナと母さんが俺たちの後ろから来ているが、姉さんは一番前で案内できているためか気にしていないようだ。
「ここがカーリーンの部屋よ。あっちが私の部屋で、更に奥のがお兄ちゃんの部屋」
両親の寝室から近い角を曲がって奥へ行った先に別の廊下があり、そこが子供たちの寝室になっているようだ。
屋敷のこちらの部分は部屋の並び的に窓がない部屋もあるようだが、そういう部屋は日光に当てない方が良いものなどを保管してある倉庫や書庫になっているらしい。
――そういえばこっち側の廊下に来たのは初めてだなぁ。執務室とかがあるほうにしか行ったことなかったし。改めてこの屋敷の広さを実感したわ……
「ほら、入ってみなさい?」
「うん」
母さんにそう言われて、自分の部屋のドアを開ける。
「おぉぉぉ。広い!」
子供部屋だからもうちょっとこぢんまりした部屋かと思いきや、窓際には勉強机や棚、俺にはまだ大きいサイズのベッドも置いてあるにもかかわらず、ローテーブルにソファーまでおいてあってもまだ物を余裕で置ける広さがある。
――本当に広いな!? ソファーまであるし元は客室なんだろうか? ベッドもこれから成長することを考えてもそのまま使えそうなくらい広いし、でかい父さんはともかく母さんなら普通に寝られそうなサイズだ。
「ふふふ。棚にはまだ何もないから、これから自分の好きなものを置いていきなさいね?」
「うん!」
「それと部屋では【ライト】とかの安全な魔法の練習は良いけれど、【ウォーター】とかで水浸しにするのはやめてね? 魔法の訓練の時にも言った通り、子供たちだけで危ない魔法はもちろん使っちゃダメよ。体調が悪くなったと思ったらすぐにやめて、私達かロレイ達を呼びなさい。あと、これから1人で屋敷を移動することもあると思うけれど、危なそうなところには入っちゃダメよ? まぁそういう部屋は一応カギはしてるし、大丈夫だとは思うけれど」
「うん。何の部屋か気になった時は母さんか父さん、リデーナかロレイあたりに聞けばいいの?」
「ええ。それでいいわよ。とりあえずはこのくらいかしらね?」
「隣の部屋に私もいるし、何かあったら私が教えるよ」
「うふふ。そうね。お姉ちゃんに任せましょうか」
「うん!」
姉として色々教えたいらしい姉さんは、母さんに任されたことで笑顔で返事をする。
――お世話をされるのは俺自身だけど、そういう姉さんの行動は見ていて微笑ましい気持ちになるなぁ。まぁあまりそういう風に見ているとまた、"お母さんみたい"と言われるかもしれないから自重しないとな……
「さて、色々言ったけれど、寂しくなったらいつでも私たちの部屋に来ていいからね? もちろん寝るときも。着替えはある程度自分の部屋に置くようになるけれど、少しは私たちの部屋に残しておくから」
「うん。ありがとう」
「それじゃあ、少し服の移動とかをしましょうか」
「私も手伝ってあげる」
「姉さんもありがとう」
「えへへ~」
そう言うと両親の部屋から俺の服などを移動させる作業を開始した。
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ようやく3歳になりました。
アリーシアたちが帰ったらまた少し時間が飛ぶ予定です。