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59.【ファイヤ】【ウォーター】

 テラスへ出て母さんのとヘリシアばあちゃんの近くにそれぞれが座り、魔法の練習が始まった。


「さて、ライとエルはある程度魔法を飛ばしたりまでは出来るからお母様に任せたのだけれど、アリーシアちゃんはまだ魔力を放出して魔法は使えても飛ばしたりは出来ないのよね?」


「は、はい。生活魔法はある程度使えますが、ライお兄さまやエルのように魔法を飛ばしたりは出来ないです」


 兄さんと姉さんはアリーシアと比べると幼いころから魔法の稽古も始めていたため、今では小さな火の玉を飛ばしたり出来るようにまでなっている。


 ヒオレスじいちゃんの話によるとアリーシアくらいで普通より優れていると思われるレベルらしく、同年代ですでに魔法を飛ばしている姉さんはもちろん、3歳年上だがそれらを安定して発動できている兄さんも充分天才と言われるレベルらしい。


 ――姉さんは魔法が苦手ではあるけれどなんだかんだちゃんと発動できてるもんなぁ。まぁそれが結構力任せな感じがするから怖いんだけど……


「それじゃあせっかく外に出たんだから、【ライト】以外の生活魔法も少し試してみましょうか」


「はい!」


「カーリーンは【ライト】しか使ったことがないから、私やアリーシアちゃんの魔法を見ててね」


「うん」


「まずは【ライト】と同様によく使う生活魔法の【ファイヤ】ね。【ファイヤ】は竈やランプに火を付けたりするのに便利な魔法よ」


「うちだと魔導コンロがあるし、光の魔導具もあるから使ってないやつね」


「そ、そうね……でもアレらはそもそも高価だし、旅の途中の火おこしにも使えるから覚えておきなさい? アリーシアちゃんは使える?」


「は、はい。【ファイヤ】」


 アリーシアがそう唱えると、ライターに火が着くように伸ばした指先に火が出現する。


「うん。上出来ね」


「そのまま飛ばしたり出来ないの?」


「そうねぇ。生活魔法の【ファイヤ】は指先からあまり離すと魔力が散っちゃって消えるから無理ね」


 ――なるほど? 魔力が散らないように制御してやればある程度までは飛ばせるという事かな? まぁそういう時は別の魔法を使った方が間違いないんだろうけど気になる……


「次はカーリーンね。初めてだからすぐにできなくても気にしちゃダメよ?」


「うん。【ファイヤ】」


 俺がそう唱えると、指先からターボライターのような勢いのある火が出現した。


「か、カーリーン君の魔法、なんか勢いがすごいですね……」


「そうね……なんでそうなってるのかしら……もうちょっと魔力抑えられる?」


「え、うん」


 そう言うと蝋燭の火のようにユラユラ揺れる優しい火に変わる。


 ――おぉ。こっちもイメージ通りに変えられるのか。バーナーみたいな火は着火時間短縮にもなるだろうし、こっちの弱い火はこれはこれでユラユラと見てて落ち着くな。


「――リーン、カーリーン、聞いてる?」


「え、あ、なに?」


「もう消していいわよ。再使用せずに調節できる程問題なく使えるのは分かったから」


 初めて使った魔法に感動しつつ眺めていたせいで母さんの言葉が聞こえていなかった俺は、慌てて魔法を解除して次の指示を待つように姿勢を正した。


「まぁ今のが【ファイヤ】ね。火を扱う魔法だから、くれぐれも勝手に使わないようにね。いくら加護があると言っても火傷しないとも限らないのだから」


「加護?」


「あら? そういえばカーリーンにはその話はまだだったかしら」


「うん」


「アリーシアちゃんは?」


「えっと、大けがを負いにくいように神様が守ってくれていると教わりました」


 ――なるほど。神様がダメージ軽減のような加護を与えてくれているのかな。どうりで稽古とか見てても怪我が少ないわけだよ……父さんとヒオレスじいちゃんの手合わせとか吹っ飛んだりしてるのに怪我がないのは、うまく受けているからだと思ったけどそういうのがあるのね。でもあれで怪我をしないのが当たり前の世界なら、その加護という話は神託とかで教えたのか、教会での教えなんだろうな。今度イヴに会ったら聞いてみよう。


「そうね。それに家とかにはある程度の魔法抵抗もあるから、簡単に燃えるようなことはないけれど、火は危ないものだから保護者がいないところで使っちゃダメよ?」


「「はい」」


「よろしい。次は【ウォーター】。これね」


 母さんは庭の方に向き直りながらそう言うと、ホースの先から水が出るように指先から水を出す。


「「【ウォーター】」」


 俺とアリーシアも同じように庭の方へ向いた後同時に唱えると、それぞれの指先から水が出る。


 アリーシアのほうはチョロチョロと出ているが、俺の方は蛇口を全開にしたようにダバーっと出ている。


「やっぱりこっちもそうなっちゃうのね……カーリーンもうちょっと抑えて……いや逆に強くしてみてくれない?」


「か、カレア叔母さま?」


 親や指導者としてではなく、魔法使いとしてどうなるのか気になってしまった母さんがそう言うので、少し魔力を多めにながして手のひらをかざす。


 すると先ほどの水量とは比べ物にならない、消火栓からの放水のような水量が庭を濡らしていく。


「な、なに!?」


 ザーっという音と、大量の水が落ちる音に驚いた姉さんがこちらを振り向き固まっている。


「カーリーン、止めていいわよ」


 流石にあのまま垂れ流していると、いくら日差しが強い日でも水たまりだらけになるだろうと思ったのか、すぐに止めるように言われたので素直に解除する。


「【魔力視】……相変わらず魔力はほとんど減っていないわね。それにしても、生活魔法でもあそこまで強力になるのねぇ」


「母さんは試さなかったの?」


「うーん……そもそも魔法ってある程度"こういうもの"って認識が固まってるからなのか、私だと()()はならなかったのよね。カーリーンはまだ見たことない魔法ばかりで、固定観念がないからそうなってるのかもしれないわね」


 そう言いながら優しく頭を撫でてくれる。


 ――魔法はイメージが大事ってイヴは言ってたけど、呪文となる単語とそれが起こす現象が固定認識されてるからそこまで差は生まれないのかな。


「カーリーン! 今のなに!? 新しい攻撃魔法!?」


 姉さんがどこか嬉しそうに興奮しながら俺の所に駆け寄ってくる。


「ち、ちかいよ。今のは生活魔法の【ウォーター】だよ」


「うそよ! あんなの出されたら近づくどころか、押し流されちゃうもの! 立派な攻撃魔法じゃない!」


 興奮している姉さんは目を輝かせながら、更に詰め寄ってきて鼻息が当たるような距離まで来る。


 ――確かにそう言われれば攻撃にも使えそうだが……どうして姉さんは戦闘の事になるとここまで興奮するのだろうか……あと、マジで近いです……


「今のは本当なの? カレア」


「え、えぇ。カーリーンに【ウォーター】を魔力多めで使ってもらっただけです」


「カーリーンの魔力は平気なの?」


「えぇ。先ほど確認したらほとんど減ってなかったので大丈夫そうだわ」


「まだ幼いのにその魔力量で、生活魔法であのようなことができるなんて……カレア、ちゃんと教育しないとだめよ?」


「もちろんです。カーリーンは立派な魔法使いにしてみせるわ!」


「そうじゃなくて、カーリーン自身も危ないからあまり勝手に使わないように……って聞いていないわね……」


 母さんはヘリシアばあちゃんに宣言したあと、俺と同じようなことができないかと【ウォーター】を何回も発動して庭を濡らしていく。


 その横で俺に感化された姉さんが目の前で【ウォーター】を使ったのだが、魔力操作がまだ甘い姉さんの魔力量任せの【ウォーター】は、先をつぶしたホースから出る水のように周りに分散したうえでなぜか後ろに飛び散り、自分自身と近くに居た俺とアリーシアをびしょ濡れにした。


「ブハッ! ね、姉さん!?」


「あれぇ……」


 夏場だから薄めの服だったという事もあって、ぬれた衣類は軽く透けて若干肌色が見えてしまっているが、前世を含めると娘ほどの年の子には何も思う事はなく、水遊びをする子供を見ているような感覚で微笑ましかったのだが、近くにいたアリーシアは顔を真っ赤にして腕で体を隠してリデーナにタオルを貰っていた。


 ちなみに姉さんは同じように肌色が透けているにもかかわらず恥ずかしがっている様子もなく、なんでうまくいかなかったのかという風に自分の手を眺めつつ突っ立っていたのだが、さすがに母さんが大き目なタオルを肩から掛けてあげていた。


 兄さんはというと、姉さんの姿は今さら感があるので動じていないが、アリーシアがいたので顔を赤らめて顔を背けていた。

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異世界に転生したけど、今度こそスローライフを満喫するぞ!
1巻
第1巻
― 新着の感想 ―
[良い点] 暴徒の鎮圧に良さそう。
[気になる点] > カーリーンはまだ見たことない魔法ばかりで、固定概念がないからそうなってるのかもしれないわね 固定概念という言葉は存在しません。 固定観念が正しいです。
[一言] 下手するとファイヤ(バーナー)で溶接もできるのかな?
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