57.魔力を通す練習
母さんはアリーシアの手を取って魔力循環の練習を手伝っていたが、子供達だけでも練習できると判断して俺を呼んだ。
「それじゃあ、2人で練習してみましょうか」
「うん」
「はい!」
「じゃあ手を出して」
「う、うん」
俺がそういうとアリーシアは恥ずかしがりながらゆっくりと両手を前に出す。
普通に会話する分には緊張している感じはしなくなっていたが、手をつないだり触れることは恥ずかしいようだ。
――まぁ環境を考えると無理もないよな。聞いていた感じ親に大切にされてるみたいだし、家で教育を受けてるから同年代の子と会う機会自体少ないだろうし。
緊張しながらも俺の手を取ってきたアリーシアを安心させるように微笑んで、"俺から流してみるね"と言って練習を始める。
「ふあぁ……カレア叔母様と同じような感じで流れてくるのが分かります……」
「それじゃあ、アリーシアさんも流してみて?」
「うん」
集中できるように目を閉じて魔力を流そうとしているが、その魔力は俺の身体を通ることなく放出されている。
「普通に放出されてるね」
「うぅ。難しい……もう一度やってもらっていい?」
「うん、いいよ」
そうやって何度か交互に練習していると、ほんの少しながらアリーシアの魔力が俺の中を通ったのを感じた。
「お、今の感じだよ」
「ほ、ほんとう? できてた?」
「うん、ちゃんと流れてたよ」
「やったぁ!」
取っている手を強く握りしめて満面の笑みで喜ぶアリーシアをみて、じいちゃんもうなずきながら"よかったよかった"とつぶやいている。
「それじゃあちょっと休憩したら、カーリーンがおじい様からもらった積み木で練習してみましょうか」
「はい!」
「カーリーンはあれだけすんなり流せるという事は、もうあの魔道玩具での練習は余裕だろうな」
――そっか。あの積み木は魔力を通さないと浮かないから、これくらいの魔力操作ができないと練習ができないのか。
「あれ? この魔力操作って結構できない人もいるって話してなかった?」
「あぁ。そうだな。放出ができれば魔法は使えるからな」
「休憩ついでにその辺の勉強をしましょうか」
母さんの提案に俺もアリーシアもうなずいて耳を傾ける。
「おじい様が言った通り、魔力の放出ができれば魔法が使えるのは分かるわよね?」
「うん」
「今やっていた練習方法は魔力操作の練習にはうってつけなんだけれど、放出とはまた別の技術が必要って事も感じ取れたわね?」
「はい」
「だからこの"魔力を通す"という技術も、それなりにセンスを必要とするのよ。これがうまくできなくても放出の方で魔力操作の練習はできるし、できないならできないで困ることもないんだけれどね」
「だが、出来るならそれに越したことはないから、アリーシアもできるようになって嬉しいぞ?」
「うん!」
「これができれば魔道具の魔力補充もできるの?」
「あら、いい所に気が付いたわね。ただ通すのとはちょっと違うけれど、それも今の練習方法で習得できるわ」
「【魔力譲渡】とはまた別なの?」
「そうねぇ……魔石に魔力が蓄えられるのは魔石の性質の関係もあるから、鉢植えの土に水を入れるような感じで魔力を通すと勝手にある程度蓄えてくれるけれど、【魔力譲渡】の場合は他の人の身体に蓄えなければいけないから、相性の悪い相手だと水たまりに油を混ぜるような感じになるのよ」
「だからなるべく血縁者の方が良いって話だったんだ?」
「そうよ。あれ? その話したかしら?」
――ヤバ。この話ってまだ俺が赤ちゃんだった時にロレイが言ってたんだったっけか……
「そ、そうなると、例えば俺からアリーシアさんには渡すのは難しいの?」
「カーリーンとアリーシアちゃんは従姉だし、そこまで難しくはないと思うわ。難易度は跳ねあがるし必要な魔力も増えるけれど、魔力量による力業で渡すことも可能だからね」
「例えば俺がアリーシアさんに10の魔力を渡そうとすると20くらいだけど、他の人に渡そうとすると100とか必要になるって感じ?」
「そうね。蓄えるところにある魔力と混ぜる必要があるのだけれど、それが血縁者だと魔力の質が近いから簡単になって必要な魔力が少なくて済むの」
「なるほど……ちなみに回復魔法とかは? あれも他の人の身体に魔法をかけるよね?」
「回復系統はどっちもつかうことがあるわ。放出の方で外部から治すパターンと内側から治すパターンね。軽い傷程度なら放出の方だけで治すのが一般的かしら」
――確かに軽い傷なら絆創膏を貼るみたいに外部からので問題ないか。内側から再生能力の向上とかするものかと思ってたけど、それはもっと大きな怪我の場合なのかな。
「それで、なんで積み木の話で魔力を通せる人が多くないって話になったの?」
一区切りついたところで、俺が言ったことに疑問を持ったらしく聞いてくる。
――あの流れであの返しはやっぱり不思議に思われたか……
「いやぁ……出来る人が少ないなら、オモチャとして作られてもあまり売れてなさそうだなぁって……」
「はっはっはっは! 確かにそうだ。素材と魔法が刻印されているせいでなかなか高価だからな」
「うちでは普通に積み木としてオモチャにしているけれど、魔石に魔力を込める練習をするものでもあるのよね……」
俺の言葉を聞いてヒオレスじいちゃんが豪快に笑いながら肯定してくると、母さんは少し困った表情でそう言う。
「魔法使いなら誰でも魔力をうまく通せるわけじゃないから?」
「そうよ。だから町には魔力補充を専門としたお店もあるくらいだからね。仮に自分で出来たとしても、魔力効率が悪くて支障が出るならそういう人に依頼するのよ」
――なるほど。そういう人が練習するためのものだったのか……それを積み木と言いながらオモチャとして渡してきたヒオレスじいちゃんよ……まぁ俺の場合は病気の件もあったから、特に魔力操作に関しては力をいれたかったんだろうな。
「例え話に数字を的確に使ったことにも驚いたけれど、魔法の勉強にも熱心なのはもっと驚いたわ」
母さんの隣で話を聞いていたヘリシアばあちゃんが感心したように褒めてくれる。
「そ、そうね。魔法が好きになってくれるのは私としても嬉しかったから気にしてなかったわ……」
「い、いつも姉さんの隣で勉強してるから、ちょっと頭に残ってただけだよ。魔法は母さんが使うところ見ててすごかったから興味はあったし!」
――うん、嘘は言っていない。最近の授業中の姉さんはずっと算数の問題で唸りっぱなしだし、母さんの魔法は俺が思ってた通りの派手な魔法や、便利な魔法ばかりで気になりっぱなしだもん。
「それにあの積み木が売れにくいことも分かってるみたいだし、カーリーンは賢いな」
「兄さんと姉さんと一緒に勉強してるから、かな……?」
「なるほどなぁ。確かに上の者の勉強内容も早いうちから耳に入っているなら、そうなる可能性もあるか」
「お兄様やお姉さまがいるカーリーン君が羨ましいです」
「姉さんは同い年だから違うけど、ライ兄さんを兄として接してみるのはどう?」
「ライさんをお兄様と……」
――今から兄姉をって無理だもんな……いや養子とかで可能性はあるのか? でもそれだとやっぱり違うよな……
「うふふ、そうね。まだこちらにいるのだから、本当の兄妹のように気兼ねなく遊べるようになってほしいわ」
「はい!」
「カーリーン、今僕を呼んだ?」
魔法の勉強や雑談をしているうちに剣の稽古が休憩時間に入ったようで、みんなこちらに集まってきていた。
「アリーシアさんが兄さんの事を兄だと呼びたいんだってさ」
「ちょ、ちょっとカーリーン君!?」
「あはは。僕はそれでもかまわないけど」
「い、いいんですか? で、ではライお兄様と呼ばせていただきますっ!」
恥ずかしさで真っ赤になりながらもしっかりと兄さんを見てそう言うと、兄さんは笑顔で承諾した。
「それじゃあライ達の休憩が終わったら、またみんなで魔力操作の練習をするわよ」
母さんの言葉にみんなで返事をしながら、休憩中はのんびりと談笑しながら過ごした。
ブックマーク登録、評価やいいね等ありがとうございます!