55.アリーシア
話がいち段落したところで、アリーシアが少しソワソワしていることにじいちゃんが気付いた。
「ほら、アリーシア。話に加わってもいいんだぞ?」
手合わせをしているときからは想像できないほど優しい顔つきでじいちゃんにそう言われたが、アリーシアは本当に話していいものかと戸惑っている。
「え、あ、あの……」
突然話を振られたアリーシアは、まだ慣れていなくて恥ずかしいのもあってそのまま黙ってしまう。
「うふふ。もっと楽にしていいわよ? ほら、お兄様……あなたのお父様の事とかを聞かせてもらえないかしら?」
「は、はい!」
母さんが優しくそう言うと顔を上げて、王都の自分の家の話を少しずつし始める。
母さんは、実の兄であるアリーシアの父親の話を懐かしむように聞きつつ微笑んでいた。
「相変わらず、奥さんや自分の子どもには優しいようね」
「はい、お父様は優しいです」
「ふふ、それはよかったわ」
「まぁ、あいつも今や軍部に関わる人間だから、誰にでも甘いわけにいかんからな……」
「そうなんですか?」
「うふふ、アリーシアは気にしなくていいのよ。お父さんは優しい人だものね」
じいちゃんの失言にヘリシアばあちゃんがフォローを入れるが、アリーシアはヒオレスじいちゃんの言葉に対して不思議そうな顔で首をかしげる。
「怒ると怖いらしいですが、見たことがないので……」
「そ、それだけいい子にしているという事だ。だからこそ今回も私たちと一緒に旅行に出ることを許してくれたんだろう」
ばあちゃんに鋭い目で見られて怯みつつそう言うと、アリーシアは"そ、そうなんですかね"と照れながら返事をしていた。
話していくにつれてアリーシアの緊張も解けて、自然な笑顔で会話できるようになっていた。
「アリーシアちゃんは剣や魔法の練習は始めているの?」
「け、剣はまだですが、魔法はやってます。ですが、先ほどのカーリーンさんみたいには……」
「俺の事は呼び捨てていいよ?」
――従姉なんだし俺の方が年下なんだから、もっと気軽に接してほしいしな。
「え、で、ではカーリーン君でもいいですか? 年下の男の子と接する機会などまともになかったので……」
アリーシアは恥ずかしそうに顔の前で指先を合わせてモジモジしながら言ってきて、それを承諾すると笑顔になる。
――おぉ。一応ちゃんと男の子と認識してもらえてる……村長とか前に会った時、また女の子だと思われてたもんなぁ……
「カーリーンはちょっと魔力が多かったから、魔力操作の練習をもう始めてるからしかたないわ」
「そうなのですね。先ほどの【ライト】の強弱は、私にはまだ無理そうでしたので……」
「はは、安心していいよアリーシアさん。情けないけど僕もまだあそこまでの魔力操作はできないからね」
「そうよ。カーリーンが魔法が上手なだけだから、あんまり気にする必要はないわ」
兄さんが苦笑気味に、姉さんはなぜか得意げに言う。
「そ、そうですか。あ、私の事は呼び捨てで構いませんよ」
「わかった、そうさせてもらうよ。僕の事もライでいいよ」
「私もアリーシアがそう言うならそうするわね。代わりに私も呼び捨てでいいわよ? 従妹だし同い年だもん。でも長いからエルって呼んでいいわよ?」
「で、ではライさんと、エルと呼ばせてもらいます」
あんまり年の近い子供と接する機会が多くなかったアリーシアは、照れながらも嬉しそうに笑って返事をする。
――そういえば、俺って愛称みたいなの呼ばれたことがないな……みんなカーリーン、カーリーンって言ってるけど……短くするなら"カー"とかになるのか? うぅーん。1音だとなんかこれじゃない感がするが、家族に呼ばれるなら別に変じゃないか? まぁそのうち誰かから呼ばれるようになるか。なるよな?
そんな事を考えていると、ドアがノックされてリデーナの声が聞こえてきた。
「失礼します。旅の汚れを落とすためのお風呂の用意ができました」
「わかった。義父上、ひとまずさっぱりしてきてはどうだ?」
「そうだな。先にアリーシア、おばあちゃんと入ってきなさい」
「は、はい!」
「では、ご案内しま……す?」
アリーシアが来ることは前もって聞いていたが顔は見たことがなかったリデーナは、ヘリシアばあちゃんと手をつないで席を立ったアリーシアを見て、目を見開いて一瞬硬直する。
「うふふ。似ているでしょう?」
「はっ! 失礼しました……」
ばあちゃんの言葉で我に返ったリデーナは頭を下げるが、その後再びまじまじとアリーシアの顔を見ている。
「え、えぇっと……」
「失礼しました、アリーシアお嬢様。浴室まで案内いたします」
「私も一緒に入っていい?」
「えぇ、私はいいわよ。アリーシアもいいかしら?」
「も、もちろん!」
姉さんからしても年が近い友達が増えたことが嬉しいからか少しでも話したいらしく、待っているのではなく一緒に入る事にしたようだ。
ばあちゃんとアリーシアから許可を貰った姉さんも、ばあちゃんと手をつないで一緒にリビングを出ていった。
「ふふふ。リデーナも驚いていたわね」
「あぁ。お前について行くくらいお前の事が好きだからな、あいつは。あれだけ似ていたら驚きもするだろう」
じいちゃんは母さんが家を出るときの事を思い出しているのか、穏やかな表情でしみじみと言う。
「そういえばこっちにいる間は一緒に魔法の練習をすると思うんだけれど、お兄様から何か言われてる?」
「いや、特には言われていない」
「そう。それじゃあ本人に聞きながら、どこまで出来るか見るところからね」
「分かってると思うが、お前の子ども達と一緒にするなよ? ライはさっきああ言っていたが、手紙で知っている限りでも十分すぎるくらいだからな」
「それくらい分かっているわ」
「本当にか? 手紙で見ただけだからどれほどまでか分からんが、すでにエルですら攻撃魔法を使えるというじゃないか」
「え、それくらいなら割と早い段階で練習を始めるんじゃ……?」
兄さんが不思議そうにそう言うと、じいちゃんはため息を吐いて困った表情で母さんを見る。
「カレア……」
「私もできていたし、問題はないわよ?」
「お前はそうだったが……暴発の危険性も考慮して、攻撃魔法などの危ない魔法はもっと成長してから教えるもんじゃないのか? それこそ今のライは大丈夫だと思うが、すでにエルが使えるのはおかしいだろう」
――確かに最近姉さんも火の玉を飛ばして小爆発させたりしてるしなぁ……しかも姉さんの場合魔力のコントロールが苦手で、別に爆発なんてしないはずの魔法なのに力任せに魔力を込めた結果、爆発してるんだから危ないとは思う……あれはヒオレスじいちゃん達に見せない方が良いんじゃないかなぁ。
そう思いながらヒオレスじいちゃんの方をチラっと見ると、視線がばっちり合ってしまった。
「……カーリーンよ、まさかお前まで生活魔法以外の危険な魔法が使えるとは言わんよな?」
「う、ううん。俺は【ライト】しか練習してないよ」
「そうか……」
――使おうと思えば使えるんだろうけど、さすがにまだ1人の時間が少なすぎて試すこともできてないし、最初は何があるか分からないから母さんの目の前の方が良いだろうしな……過去に重力魔法は使ったことあるけれど、あれは危険な魔法じゃないしセーフだろう。病気だと思われた原因の魔法でもあるから、現状苦い思い出の魔法だけど……
「まぁ稽古の時は私も一緒にいるから、あまりやり過ぎないようにな……」
「えぇ、もちろんよ」
母さんは教え子が増えることを楽しみにしているようだが、じいちゃんは本当に母さんに教えてもらっていいのか迷っているような表情をしていた。
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ぎりぎり年内最後の投稿です。
思い付きの書き始めからボチボチと投稿してきましたが、ブックマークも200人を超え、累計PVも8万を超えていて驚いております。
来年も引き続き書いていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
それでは皆様、よいお年を!