51.魔法の練習
新章です。もうすぐ3歳というところまで成長し、話したり自分で移動できるようになり世界が少し広がりました。
これといった大きな事件などもなく平和に過ごし、意識が覚醒してから3度目の夏が来た。
1歳の頃にヒオレスじいちゃんからもらった送風具もまだまだ健在で、この時期になると父さんや兄姉と一緒に送風具の前にいることが多くなる。
母さんやリデーナは水魔法を纏っているから近くに居れば涼しいのだが、ひとりで歩けるようになった頃からは少し気恥ずかしくて引っ付くことも減っていた。
「カーリーン、そろそろ3歳にもなるし、魔力操作の練習しましょうか」
昼食が終わって両親と一緒に部屋で一息ついた後、母さんがそう声をかけてくる。
兄さんは9歳、姉さんも6歳になったので、自由な時間はよく遊びに出かけたりするようになり、今日は昼食後すぐに屋敷の前の森へと2人で出かけてしまったので、今は使用人たちを除けば俺と両親しかいない。
「うん! やる!」
――3歳になってからになるかなぁって思ってたけど、ようやく魔法を教えてもらえる!
「ふふふ、やる気満々ね? それじゃあテラスへ行きましょうか」
母さんが席を立って庭に出るので、その後をついて外に出る。
「まずは魔力を感じるところからなんだけれど、どうかしら?」
母さんと向かい合うように置いた椅子に座り、母さんの言葉を聞いて目を閉じる。
――うーん……魔力も気力も把握するのはとっくに出来るんだけど……それをすぐに伝えていいものなのだろうか……
「カーリーンは、そうね……魔力が多いから感知もしやすいかもしれないわね」
「母さんが魔力をくれてるから?」
「そうよ。どう? 感じ取れる?」
俺が魔漏病を患っていることは、本人の耳に入らないように話題に上がることはなかったため、母さんもごまかしつつ俺に納得させる。
――そっか、一応症例の少ない病気を患ってることになってるから、魔法に関しては少しくらいおかしくても不思議には思われないか……早く使えるようになった方が両親の不安の解消にもなるし、その方が良いよな。
「これ、かな?」
「そのまま感じ取っていてね。今から動かしてみるから、もし動いたらそれが魔力よ」
母さんはそう言いながら俺の両手を握り、魔力を流してくる。
いつもやってくれている魔力補充とは違って魔力を入れるというよりは、少量の魔力で俺の体内の魔力を動かすという感覚を意識しながら感じ取る。
「うごいた!」
「やったわねカーリーン! それが魔力よ。今度はそれを自分の意識で動かせるようにする練習なんだけれど……私から魔力を貰うときの感覚は覚えてるかしら?」
「うん」
「それの逆ね。体内の魔力を腕から出す感じで動かせる?」
「こう?」
言われた通り魔力を腕の方へ流し、手を取ってくれている母さんの手の方へ放出する。
「さすがね! カーリーン!」
手をつないだままだったため、魔力が出たことをすぐに確認できた母さんは嬉しそうに声を上げて俺を抱き寄せる。
「お、うまくいきそうか?」
父さんも魔力操作の練習を見に来て、俺に抱きつく母さんを見て声をかける。
「えぇ。魔力の放出まで出来ているわ」
「もうそこまで出来るのか。まぁカーリーンは前から【ライト】は使えるしなぁ」
「それとこれとはまた別よ? 自分の意志で魔力を出せたんだから」
「そ、それもそうか。俺にはなかなか分からん感覚だな……」
「フェディは魔法が本当にダメだものね」
「ダメとはひどいな。まぁ事実だが……生活魔法くらい使えた方が便利なのも分かるが、道具もあるしな」
「あなたもカーリーンと一緒に練習する?」
「ライが生まれる前に付き合ってもらったが、駄目だっただろ?」
「今は私も魔力量増えてるし、教えられることもあるかもしれないわよ?」
――そうだよな。魔力は使えば使うだけなじんでいき、最大魔力量も増えていく。俺は増やしたくて使っていたんだけど、母さんも病気だと思った俺に魔力を渡していたからその分鍛えられてるんだよなぁ。しかも子供だから最初は少なかったとはいえ、体調が悪くならない程度に毎日鍛え続けた俺に魔力を渡し続けてきたんだから、相当増えてるはず……
「ははは。そうだな。カーリーンがちゃんと魔法の稽古を始めたらまた少し教えてもらうか」
「分かったわ。それじゃあカーリーン、お父さんに負けないように魔法の練習の続きをするわよ。今度は今みたいに魔力を出しながら【ライト】の魔法を使ってみましょうか」
「うん。【ライト】」
目をつむって集中するふりをしながら【ライト】の魔法を唱え、昼間でも光っていると分かる程度の程よい明るさの光の球を出現させる。
「次はもうちょっと魔力を多めに出して、光を強くできるかしら?」
「やってみる。【ライト】」
言われた通りに出した光の球は俺のまぶたも強い光で照らしたので、閉じていた目をさらに強くつむる。
「いいわよ」
母さんの言葉を聞いて魔法を消して目を開けると、目に涙を浮かべた母さんに抱きつかれた。
「よしよし、上出来よ。お兄ちゃんやお姉ちゃんより魔法がうまくなりそうね」
「ちゃんと出来てるようだな。よかった」
泣きそうな感じの声の母さんに褒められ、いつもは強めにワシワシと撫でてくる父さんに優しく撫でられる。
――魔漏病が治る見込みが早々に付いたから少し安心したんだろうな……やらかしたこと自体はどうしようもないから、不思議に思われない程度に魔力操作を習得して治ったと思わせてあげなきゃな。
「魔法を使う練習の初歩は自分の魔力を動かして魔力操作に慣れることなんだけれど……カーリーンの場合はもう【ライト】が使えるし、そこはすんなりと出来ちゃいそうね」
「ははは。俺に負けないように頑張るどころか、俺が少しでも追い付けるように頑張らないとだめだなこりゃ」
「ふふ。あ、あと、魔力が漏れ出すかもしれないから、魔力操作はしっかりと感覚をつかんで、意識しておきなさいね?」
「うん」
そう返事をすると、目を閉じて体内の魔力をぐるぐると循環させる。
「それと魔法を使い過ぎたら頭が痛くなったり、体調が悪くなることがあるから、そう感じたら遠慮せずにいうのよ?」
「はーい」
――少しは成長した今なら、あの時の頭痛くらい我慢できるかもしれないが、そのせいで心配されてるんだから少しは自重しよう。あ、魔力操作の練習が始まったのは良いんだけど、多分いつもの流れで魔力量チェックされるよな? という事は、しばらくはこっそりやってる魔力鍛錬での消費量を抑えないと、病気が治ってないと思われるか……
「素直に練習して偉いな」
「ライはともかく、エルは口では了承しながら嫌そうな表情だったものねぇ」
姉さんが魔法の訓練を始めたての頃を思い出すと、確かに嫌そうにしていた。というより、今でもまだ苦手なようで、魔法を使うときも結構力任せな魔法の使い方をしていると思う。
「まぁそれでも勉強よりはマシなようだがな」
「ふふ、そうね。逆にライは勉強もしっかり取り組んでくれるから助かってるわ」
「だな。カーリーンもそろそろ授業に参加させないとな」
「そうね。カーリーンが授業を受けてればエルも頑張るかもしれないから、ちゃんと受けてほしいわ」
「はーい」
――弟がちゃんとやってるなら、勉強が嫌いな姉さんも少しはちゃんとするようになるかもしれないもんな。どんな事を教えてもらえるのか楽しみだ。
そんな事を考えながら、兄さんたちが帰ってくるまで両親に見守られながら初めての魔法の練習をしていた。
帰ってきた姉さんは一緒に魔法の稽古をするように言われると、なんとも言えない表情のまま俺の横に座って参加していた。
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訓練、稽古、授業、練習などちょっと表記変えてますが、左に行くほど堅いイメージなので、その時の気持ちで変わってます。そのうち統一するかもしれませんが……(´・ω・`)