48.春
俺の1歳の誕生日から半年ほどが過ぎた。
この地域の冬は積雪するようで結構な寒さだったが、母さんやロレイナート達の魔法もあって室内は快適だった。
そして暖かくなってきたこの時期には、王都で貴族たちが自分の子どもを紹介する場として、国主催のお披露目パーティーが催される。
今年の誕生日で7歳になった辺境伯の嫡男である兄さんは、大きな理由がない限りは王都でのお披露目パーティーに出席しなければならない。
そのため姉さんの誕生日に来た時の帰りは、ヒオレスじいちゃんがすごく名残惜しそうにしていたらしいが、今年はその時に比べれば名残惜しさ半分楽しみ半分な様子で帰っていった。
そして兄さんがお披露目パーティーに参加するという事は、当主である父さんも一緒に王都へ向かうことになる。
俺はまだ1歳で、王都までの道のりは酷なので留守番確定、それに伴って母さんも屋敷に残る。
姉さんは冬のはじめに4歳になっているし、元気が有り余っているので王都へ一緒に行く話も出たのだが、パーティーには参加できないため王都邸で待っているか、じいちゃんの家にお世話になる事になるので今回は屋敷に残るらしい。
――母さんは仕方ないとして、姉さんは俺が残るなら残るって言ってたなぁ……遠出が嫌なのか、まだまだ弟を可愛がりたい年ごろなのか……
「フェディ、忘れ物はない?」
「あぁ、大丈夫だろう」
今は出発する前日の夜で、寝室で寝る前に最終チェックをしている。
「ロレイも確認してくれたし、持って行かなきゃいけない書類だけ忘れなければ、後は王都や道中でどうにかなるさ」
「それはそうだけれど……」
「これも務めとはいえ、やはり貴族の集まりに参加するのは緊張するな」
「立場上可能な限り参加ですもんね。何か事件が起きていれば大目に見てもらえるでしょうけど」
「領内はいたって平和だしな。それにうちの子の初めてのお披露目なんだ、さすがに行かないという選択肢はないしな」
「私も一緒に行けたらよかったのだけれど、まだカーリーンもいるから……」
「あぁ、分かってる」
「それに私は貴族の集まりは苦手だから、フェディが参加してくれて助かってるわ」
「そっちも本音だな? ……俺も元々平民だから苦手っちゃ苦手なんだが……まぁ夫人グループと違って、俺は武人グループだから思ったよりは気楽だったのが救いだな……」
――あー、確かにご婦人達の裏の読みあいとか、常に愛想を振りまいてるとか疲れるわな……今の母さんを見てるとお淑やかな雰囲気で別に違和感とかはないんだろうけれど、本人が疲れるというんだからそうなんだろう。それに比べて父さんは見た目からして武人グループだし、寄ってくるのも同じような貴族が多めで比較的楽なのかもな。
「それにしてもこんな長期間離れるのは久しぶりね……」
「早めに帰ってくるつもりだぞ?」
「せっかくの王都なんだから、ライを連れて出かけて楽しませてあげてきてほしいわ。それに加えて道のりを考えると、帰ってくるまで1か月ほどはかかるじゃない」
「まぁ、な……」
「さみしくなるわね」
そういって母さんは俺を抱いたまま父さんに寄りかかる。
「くるし」
父さんが寄りかかった母さんに腕を回して抱き寄せたため、挟まれている俺は思った以上に苦しくなって声を出す。
「おっと、すまんすまん」
「カーリーンもさみしいわよね?」
「うん……」
ここ半年で活舌も良くなって結構話せるようになってきた俺は、まだ片言ではあるがそれなりに意思疎通が出来るようになっていた。
――そりゃあいつも母さんといるから必然的に父さんといる時間も多いし、今回は兄さんに加えて付き添いでロレイとメイドも1人連れていくみたいだしなぁ……存在感の大きい父さんを含めて4人も屋敷からいなくなると寂しくもなるよ。
「まぁ今回は我慢してくれ」
「えぇ、言っててもどうしようもないしね」
「そういえば義父上が、馬車の改良に手を貸していると書いていたな」
「あら、そうなの?」
「おまえ宛ての手紙には書いていなかったのか?」
「えぇ……まぁ孫たちの事を書いていたから、忘れていた可能性もあるけれど……」
「あー……ジルネストの娘はエルと同い年だったか?」
「えぇ、お兄様と同じ金色の髪に夫人の紫の目らしいわ。顔つきは……お母様に似ているらしいけれど……」
――お? 母さんの兄さんの話は初めて聞く気がするな……じいちゃん達も俺たちがいるから、来てた時はこっちばかり気にしていたしな……その娘という事は従妹にあたる子か。
「ジルネストからじゃなくて義父上から情報が来るのか……ん、義母上に似ているという事は、カレアにも似ているということか?」
「そうらしいのよねぇ……顔つきだけで言えば、私と一緒に居れば確実に親子だと思われるほどらしいわ」
「そこまでなのか」
「お兄様は顔つきはお父様似なのに、間違いなくお母様との子だったってことよねぇ」
「カレアに似ているカーリーンと並ばせたら姉妹扱いされそうだな」
「ふふふ、お父様もそんなこと書いていたわ。だけどエルの前で言っちゃダメよ? あの子カーリーンが好きだから拗ねちゃうわ」
「はは、そうだな」
――ヘリシアばあちゃんに似ている母さん、その母さんにそっくりだと散々言われている俺だもんな……性別はともかく、このまま成長したらそう言われる日も来るのだろうか……
「それで、その馬車の開発って進んでるの?」
「あぁ、何とか試作品がそろそろ出来上がるとも書いていたな」
「カーリーンの誕生日の時にはそんな事言ってなかったのに……急いで開発してるのかしら?」
「急いでるのかどうかは分からないが、従来のより速度が出せるようになるらしい」
「速くすると言っても……普通の馬以外に曳かせるのかしら?」
「義父上の事だから、その可能性もなくはないが……一応馬車の車輪周りを改良するとだけは書いてたな」
「街道はデコボコしてるから速度が出せないものね。下手に出すと衝撃で車輪がダメになるし、なにより乗っていて辛いわ」
――まだ馬車には数回しか乗ってないけど、全部母さんの膝の上だったからなぁ……椅子もそこそこクッション性のあるもので作られてるみたいだけど、急な衝撃が連続でくるとさすがに参りそうだ……
「まぁそれもあって今年の冬は屋敷と工房にいる時間が長かったらしいぞ」
「お父様にしては珍しいわね……って思ったけれど、お父様の事だからこちらに来る時間を短縮したくてやってる可能性はあるわね……」
「手が空いて孫たちに会う時間が作れるようになったんだ……その気持ちは分からなくはない」
「それに滅多に王都に来ないあなたとの手合わせも出来るものね」
「北西の森もあるし、義父上にとっては良い狩場なんだろうなぁ」
「王都付近は少し離れないとモンスター自体少ないものね。この間も森へ一緒に行った時イキイキしてたんでしょ?」
「もちろん。あの年でまだまだ鍛え上げられているんだからすごいもんだ」
「ふふ。気力や魔力の多い人間は長生きって良く言われてるものね。あなたもそうだけれど、お父様もまだまだ強くなりそうね?」
「それを言ったらおまえだってそうじゃないか」
「私はカーリーンがいるもの。教えるときに一緒に強くなるつもりよ? ね~?」
「あい!」
「ははは、頼もしい限りだ」
そう言いながらワシワシと頭を撫でられる。
少し話をした後ベッドに寝かされて寝る準備を整えてもらうと、両親もライトを消して布団に入った。
夏場でも結構くっついて寝ている2人だが、明日から約1か月の間父さんがいなくなるという事で今夜は1段と密着しており、母さんは父さんに抱かれるような体勢で眠った。
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前話から半年後です。少しだけ父と兄がいない状態を書いて、一気に3歳ごろまで飛ばすと思います。
そして両親のイチャイチャ具合を増やすか抑えるか悩んでます。(´・ω・`)