47.1歳の誕生日
町長との話も終わって帰る頃にはお昼になっていた。
父さん達が話をしている間邪魔にならないように静かにしていた俺は、両親に褒められながら馬車に揺られて屋敷に帰ってきた。
「おかえりなさいませ」
「ただいま。村長と町長の所にも寄ってきたから遅くなった」
「さようでございますか。皆様リビングにてお待ちになっておられます」
「えぇ、分かったわ」
玄関で出迎えてくれたロレイナートがそう伝えると、両親は俺を抱いてまっすぐリビングへ向かう。
――俺たちが帰ってくるまでお昼ご飯食べずに待ってたのかな?
などと考えているうちにリビングに着き、ロレイナートがドアを開けて中へ入る。
「「カーリーン、誕生日おめでとう!」」
「「おめでとう」」
部屋に入ると兄姉と祖父祖母に誕生日のお祝いの言葉を掛けられる。
「あ、あい!」
――そういえば、今朝起きた時に両親には言われてたけど、他の人にはまだ言われてなかったな。
俺は突然の事に驚きつつも、元気に返事をするとみんなから微笑ましく見られる。
「これは私たちからの誕生日プレゼントだ」
ヒオレスじいちゃんがそういって1辺20センチ程の箱を渡してくる。
「あーえ」
俺へのプレゼントという事で渡されたがまだ自力では開けることができないので、隣にいる父さんに開けてもらうように差し出す。
「お、開けてほしいのか?」
「あい」
父さんは俺の要望に気が付くと箱を受け取って開封してくれる。
中に入っていたのは幼児の口に入らないくらいのサイズの、正方形や長方形の木材のブロックだった。
――おぉ? 積み木かな?
「これは、積み木か?」
「それにしてはちょっと小さ目で数も少ないような?」
――確かに積み木なら三角形とかいろんな形があってもいいだろうしなぁ。それに積んで遊ぶにしてもこのサイズと量だとそこまで詰めないだろうし……
「これは魔力に反応する積み木でな、このように魔力を浸透させると少し浮くんだ」
そう言いながらヒオレスじいちゃんがブロックを1つ手に取って浮かせてみせる。
「本来は魔力操作の練習を始めた子供向けに作られたものなのよ。もちろん子供が使うという事前提で作られているから、急に飛んでいったりしないようになっているわ」
そんなものがあるのかと感心したようにブロックを眺めていると、両親も同じように見ていたようで、それを見てヘリシアばあちゃんが微笑みながら説明してくれる。
「浸透させるほどの魔力操作の腕が必要になるから、魔力が漏れ出ているくらいじゃ問題もないだろうし、カーリーンは早いうちから魔力操作の稽古もするんだろ?」
「えぇ。確かにこういう遊びながら訓練出来るものがあれば、小さいころからでもちゃんとやってくれそうね」
「ヘリシアも言ったように危険はないものだから、魔力操作の稽古が始まるまでは普通の積み木としても遊べるしな」
じいちゃんはそう言うと浮かせていたブロックをそのまま俺の近くまでもってきたので、俺がそのブロックをつかむと魔力を通すのを止める。
――ほうほう。放出する魔力をこのブロックに込めれば浮くのかぁ……今やるとまた大事になるな……誰も見ていない時か、ちゃんと魔力の練習が始まってからにしよう。
危うく試そうとしていた自分の好奇心を抑えて、ブロックを裏返したりしながら眺める。
「ライやエルの稽古にも使えそうね……」
「カーリーンへのプレゼントなんだが……まぁ本人がいいと言うなら私は何も言わんが」
「ねぇ、カーリーン。これたまにお兄ちゃんたちに貸してくれないかしら?」
「あい」
俺は母さんの言葉を聞いて、持っていたブロックを兄さんの方に向けて差し出す。
「ふふ、いいみたいね。ありがとう」
――聞いてると確かに魔力操作の練習に使えるものだもんなぁ。浮かせるだけでも持続時間とか個数とかで指標にもなるし、それを積み上げていくとなるとそれなりに繊細に操作しないと積めないだろうしな。
その後少ししてからロレイナートが昼食の用意ができたと告げてきたので、それぞれが自分の席に座るとワゴンが運ばれてくる。
徐々に離乳食に固形物が増えてきた俺のご飯は、誕生日という事もあるのか一段と見栄えが良くなるように飾られている。
「おぉ~!」
「ふふ、今日は豪華で嬉しそうね」
「あい!」
誕生日という事もありいつも以上に美味しく感じられた昼食を食べ終えると、ケーキを乗せたワゴンが運ばれてきた。
蝋燭を刺したりその火を吹き消すという事はしないようだが、最初に切り分けたものを俺の前に持ってきた後、それぞれの前にも配られる。
「改めて、カーリーン、誕生日おめでとう」
「「「おめでとう」」」
「あい!」
父さんがそういうとみんなから再びお祝いの言葉を貰ったので、元気よく返事をしてケーキを食べさせてもらった。
「さぁ、今日は仕事もないから遊ぶか、カーリーン」
「あい」
うちの家庭では誕生日は昼に祝ってその日はのんびりと家族と過ごすという事にしているらしく、ソファに座っている父さんが腕を広げて待ち構えているので、ローテーブル沿いにトテトテと歩いていって飛び込む。
「あらあら、カーリーンも思った以上にやんちゃになりそうね?」
「元気がないよりは安心できるからいいわ」
今は兄さん姉さんはヒオレスじいちゃんと庭に行っており、リビングには両親とヘリシアばあちゃんがのんびりと過ごしている。
――両親が俺の誕生日だから稽古も休みにしてるけど、姉さんがうずうずし始めてたもんな……それを感じ取ったじいちゃんが木剣をもって庭に誘うと、兄さんもじいちゃんが出るなら自分もと出て行っちゃったしなぁ。まぁここ数日はじいちゃんだけで稽古を付けてる日もあったし、その分一気に懐いたんだろうな。
俺が父さんの方へ移動すると、送風具から送られてくる風がそよそよと当たって心地よい。
母さんの周りは魔法で気温を下げていてばあちゃんもその範囲内にいるので、送風具は必然的にそういう魔法が使えない父さんの方へ向けられていた。
「気力の訓練にも使えそうな、こういうオモチャがあればなぁ」
父さんがそう呟きながら、貰った積み木を1つ手に取ってまじまじと眺める。
「そうねぇ……気力の方だとなかなか思いつかないわね」
――力を強くするとか斬撃を飛ばすとかは知ってるけど、それらを使ってオモチャを作れないかと考えてもすぐには出てこないよなぁ……逆に魔法は色々思いつくんだけど。
「それにしてもこれ、わざわざ割って刻印した後にまた接着しているのね?」
「外側だとぶつけて刻印がダメになりやすいからね。ほんの少し浮かせるだけだからそんな凝った刻印じゃないんだけれど、それでも修復となると手間がかかるからねぇ」
「でもこれレビテーションの刻印でしょ?」
「一応そうね」
「……それを浸透させた魔力で発動させて浮かせるなんて……」
「まぁ、持ってるから分かると思うけれど、その小さな魔力でも浮かせられるように軽量かつ、魔力が通りやすい素材でつくられているからね」
母さんも同じように積み木を1つ手に取って分析しながら聞いている。
「軽量、魔力が通りやすい……モンスター素材?」
「まぁ一応ね」
「またそんな高価そうなものを……」
「あなたが思っているよりは安いわよ。素材はあの人が採ってきたものだし」
「お父様は仕事をお兄様に譲ってからイキイキとしていそうですね」
「それはもう。あの人の今の姿を見て"譲り受けるのはまだ早かったようだ"と嘆いていたくらいね」
「でしょうねぇ……お兄様にも会いたいわ」
「王都の家にいるから、いつでもいらっしゃい」
「カーリーンが大きくなったら是非伺わせてもらいます。な、カーリーン」
「あい!」
父さんが話を聞いて、俺に聞いてくるので力を込めて返事をする。
――結構な長旅になるからそうそう行ける場所じゃないけれど、いつか行ってみたいもんなぁ。そのためにもちゃんと元気に大きくならなくちゃな!
そう意気込んだ俺は、その日1日家族に相手をしてもらいながら穏やかに過ごした。
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次の話は半年ほど飛びます。
あと、大きく時間が飛ぶ際に章設定もしておきたいと思います。